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代償

昨日は更新することが出来ませんでした......申し訳ございません。

今日中にもう一話投稿するつもりですので、よろしければそちらも見ていただけると嬉しいです。

「おはよう、ユイト」


「ん、あぁ。おはよう」


 朝だ。今日も晴天、良い天気だ! 昨日のアレの後、俺は力の余韻に浸りながら宿まで帰った。

 もちろん、瞬間移動でだ。歩きなんて面倒くさいことするものか。

 実験も兼ねてチートの代名詞“瞬間移動”を使ってみたが、かなり便利だった。

 どこでも行ける……なんてことは無かったが、はっきりと頭の中に残っている場所には行けるみたいであった。

 まず、この世界で初めて来たあの木のところに行き、カミさんの店の前、そして宿に飛んだのである。

思っていたよりとてつもなく便利であった。


 宿にたどり着いた後は、そのことをセカイに自慢した。

 彼女はそれを大きくうなずきながら誇らしげに聞いていた。自分の授けた力なのだから当然であろう。


 今、彼女はベッドの上で俺の横にいる。やましいことは全くしていない。まあ、一日目と同じかな。


「今日も街、行くか」


 ベッドからゆっくりと体を起こす。心が軽いせいか、体まで軽い。


「あら、珍しい! 人嫌いだったアンタが人の群れの中に行きたがるなんて」


 セカイはそう言いながら俺の背中に飛びつく。そして小声で、


「何かあるのかしら」


「ああ、あるさ。絶対に」


 俺はセカイをどけて立ち上がり、寝間着用に着ていたTシャツを脱ぎ、近くの椅子にかかっていたインナースーツを着てズボンを履いた。そしてコートを勢いよく羽織る。

 ベッドの上のセカイは後ろで妖艶な笑みを浮かべ、ベッドから飛び降りた。


「私もついてく」


―――


「おはよう、おじさん」


 宿を出てブラブラと街を歩いていると、出店におじさんがいた。


「あ、おう。ユイトか……あの後はその……凄かった……みたいだな」


 顔が赤い。朝から飲んでいるのか。


「いえいえ! そんなこと無いですよ! またボコボコにされるかと思いました」


 余裕の顔で答えてみせる。特に意図は無いが笑顔も浮かべてみせる。


「そうか……お前、今この街で人気者だから、まぁ頑張れや」


 知ってる。予想通りだった。宿の受付の女の人だって俺を見た瞬間に驚いた顔になっていた。

 宿の玄関で雑談していた奴らもそうだ。コソコソと俺のことを見て何かしゃべっていた。

 コソコソ話を聞くのは前から得意だったので何を言っていたのかはだいたい分かった。

 昨晩俺がやっつけたヤツらはこの街で有名だった不良の集団だったみたいだ。そして、それを撃退した俺は、今やこの街のヒーローになっているらしい。

 

 チートって言うのは本当に良いものだ。

何か一つとんでもないアクションを起こすだけで、こんなにも視線を集められる。

それに、そのアクションは常人がいくら頑張っても起こせないものだ。それを一瞬で、何も努力せずに起こすことが出来る。まさにインチキだ。


 だから人は注目する。嫉妬する。驚愕する。そして崇める。

 これがフィクションの世界の勇者たちや主人公たちの力か……求めていたのはこれだった!

 何にも持っていなかった……何も出来なかった俺が、こんなにも人に注目されている! こんなにも視線を独占して! 

 嫉妬する側であった俺が嫉妬される存在に……あぁ! 気持ちが良い!

 俺以外の奴らが虫けらに見える……俺を僻む醜いものに! 俺を崇める小さなものに!


「えっ? ユイト?」


 おじさんの言葉が聞こえたのか、出店にいる他の客も俺を見に来た。

 来た来た……


「ユイトって、あの!?」

「昨日、あいつらをコテンパンにしたヤツか!?」

「そうだよ! ちょっと見に行ってみようぜ!」


 店からだけじゃなく、街中の人間が集まってきた。

うじゃうじゃ、うじゃうじゃ……甘いものを見つけた蟻さんみたいにワラワラと俺を見に来る。見世物じゃ無いんだから。

 すると、おじさんは中身が残っているジョッキを投げ捨て立ち上がり、


「おい、てめぇら! コイツは見世物じゃねぇんだ! 失せな!」


 怒ってくれるのか。いや、ただ酔っ払っているだけかも知れない。


「良いんですよ、おじさん。見世物になるぐらいどうってことありません」


 怒鳴るおじさんをなだめるように笑って言う。それを見ると、おじさんはゆっくりと後ろに下がって元の椅子に座った。

 どうにでもなれ、といった様子だ。新しいお酒を頼み、一気の飲み干している。


「ねぇ、ユイトさん! 何か見せてよ!」


 最前列の俺より十歳ぐらいの子供がせがんできた。


「あぁ、いいよ! じゃあ……これなんかどうだ! 火よ、いでよ!」


 少年の足下に大きな炎が立った。


「うわ! 熱い! 熱……え? 熱くない……?」


「君は悪い子じゃないからね。熱くないようにしたんだ。楽しんでくれたかな?」


「う、うん! びっくりした! ありがとうございます!」


 少年はそう言うとぺこりと一礼して去っていった。おどおどしていたな。


「ユイトさん!」


 後方の四十歳ほどのおばさんが呼んでいる。


「私の足、見てもらえませんか?」


「はい、良いですよ! そこで待っててください」


 彼女を頭の中でイメージする。あの人のものに……飛べ!

 

「きゃっ!」


「到着です。どうしました?」


 瞬間移動だ。彼女の足は……なるほど、右足がひん曲がっている。杖をついているのは歩けないからか。


「治せますか……?」


 涙目でせがんでくる。


「はい! もう余裕で!」


 杖を彼女の右足に向ける。こうやって……ちちんぷいぷい! 足よ、治れ~っと。

 彼女の右足が輝き出す。


「はい! これで元通り! 良かったですね!」


 真っ直ぐ、元の形に治った。


「え……あぁ! 治った! 治った! ありがとう……ありがとうございます!」


 涙を出し飛び上がりながら喜んでいる。

 俺はそれをニコリと笑いながら見つめる。


「すげぇ……」

「神様じゃねぇか……」


 ザワザワと周りが騒ぎ出す。


「ユイトさん!」

「ユイトさん! これを!」

「ユイトさん! 助けてください!」


 四方八方から俺を呼ぶ声がする。

 素晴らしい! チート最高、愛してる! これで全ては俺の思いのままだ。

 俺がこいつらに恵みを与えるだけで、こいつらは俺を崇めてくれる。

 俺が、神様だ。


―――


 あれから五日経った。

 街の人々は予想通り俺を崇めている。本当に人気者って辛いなぁ! ゆっくりする暇が無い。

 今日も宿を出た瞬間にこれだ。願い事がどうの、あれしてくれ、これしてくれ。あーだこーだと有象無象が餌をもらう雛のようにピーピーとせがんでいる。


「はいはい! 順番ね~。押さないで押さないで! 願い事叶えてあげないよ~」


 このように俺は街の奴らの願い事を毎日のように聞いている。

 しょうが無いなぁ、今日もこいつらに恵みをやるか……


「おい! ユイト!」


 群衆の真ん中付近で誰かの怒号が響いた。


「あぁ! おじさん、五日ぶりですね! どうかしました? 何でも叶えてあげますよ!」


 手を振ってみる。さぁ、あの人はどんな願い事を持ってきたのか。


「ちょっと来い」


 振り返り街に消えていくおじさん。俺に何の用だ?


「ごめんなさいね~。今日はこれで終わり! じゃ、これで!」


 押し寄せてくる人たちにぺこぺこと頭を下げ彼を追う。着いた先はカミさんの店であった。


「俺に何のようですか?」


 店に入るとそこはいつもとは別空間であった。店は暗く、いつもの煌びやかさが無い。

 フロアの中心には回転式の丸いすが三つあり、その中の二つにはおじさんとカミさんが座っている。

 俺は二人を見つめながら余りの椅子に座った。


「お前、変わったよな」


 神妙な面持ちで口を開くおじさん。


「変わった? 俺がですか?」


「ああ、変わった。それも百八十度だ。」


「何をご冗談を。俺は俺のまんまです! ね! カミさん?」


 おじさんは何を言ってるんだ? 俺は変わってないだろ、普通のままだ。

 カミさんは黙りこくってうつむいている。


「ね、カミさん? 何か言ってくださいよ。これじゃ、まるで俺が脅してるみたいじゃないですか! カミさん? おーい」


 何を言っても反応しない。馬鹿にしているのか?


「おい、黙りこくってないで……何か答えろ!」


「ユイトッ!」


 あ? 

 おじさんが俺の名前を力強く呼ぶ。


「その言い方は無いだろ。謝れ」


 謝る? 俺が?


「何言ってるんすか! なんで俺が……」


「いいから。謝れ」


 はぁ!? ふざけるな! 誰がこんなやつに謝らないといけないんだ! こんな、怒鳴られただけでびびって黙りこくってるようなヤツに!


「何様なんだよ……」


「あ?」


「何様なんだよぉ! お前らは! なんだ? 父親にでもなったつもりか? 謝れとか……馬鹿にしやがって! 俺はお前らを助けてやったんだぞ!? 恩人に向かって言う言葉かよ、それが! お前らこそ謝れ! 俺に! さぁ!」


 二人はきょとんとした顔で俺を見つめる。

 何だよ……はやくしろよ。俺にも時間って言うのがあるんだ……


「そうか、分かったよ」


「何だと?」


「お前って、元からそんなヤツだったんだな。失望したよ、ユイト」


「あ? 何言って……」


「変だと思ったんだ。あの夜からお前さんは変わっちまった。いや、変わっちまった……ように思えた」


 言ってる意味が分からない。


「この街に来たとき、お前の目はキラキラと輝いていた。そりゃもう水晶みたいにだ! だけど……今は違う。腐っている、お前の目は!」


「ふざけるな! 俺の目が腐ってるだと!? お前の目の方が腐ってるんじゃ無いのか? 節穴だよ! お前の目は!」


「節穴はお前だ! このクソ間抜け! 今のお前は、何でも出来るかりそめの力をブンブンとガキンチョみたいに振り回して神様を気取っているだけだ! 他人を蔑み、上の立場にいる自分に酔っているだけ! あいつらと何ら変わんねぇ!」


「うるさい……うるさい! だまれぇ!」


 杖を彼に向ける。

 コイツはもう消してやろう! コイツもそれを望んでこんなことを言っているんだ!


「俺をやろうってのか?」


 おじさんは椅子から立ち上がり腕をガバッと開いて杖に胸をつけた。


「いいぞ。ほら、やってみろ」


 挑発してくる。


「俺を殺すんだろ? ほら、やれよ!」


「あぁ! そうさ! お前はこれから死ぬんだよ! 体がバラバラになって、ゆっくりと消えていく。脳と心臓はずっと生かしておいて、ずっと続く痛みを感じながら死んでいくんだ!」


「そうか……やれよ」


「えっ……?」


「やれ」


「本当にやるぞ? 死んじゃうんだぞ?」


「あぁ、死ぬ気さ」


 こ、コイツ……


「狂ってる……」


「そうさ、俺は酒で頭がイかれちまってるからな。やれ! 殺せ! さぁ!」


 彼はそう叫びながら杖を両手で鷲掴みにし、その先を心臓に向ける。


「さぁ……やれえええええええええ!」


「あ……あ、わあああああああああ!」


 杖の先が一瞬だけ光る。が、何も起こらなかった。


「はぁ……はぁ……」


「おい、ユイト。これで終わりか?」


「え……?」


「お前には覚悟が足りねぇよ。人外の力を使う覚悟が」


「あぁ……ぐぅ!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は逃げ出した。出口に向かって駆けだした。

 店の扉を開ける。すると……


「ユイトさん!」

「ユイト様!」


 大勢の人だかり。ここまで着いてきたのか……


「悪いけど……どいてくれ」


 そう言っても聞こえないのか群衆が迫ってくる。


「どけ……どけぇ!」


 人混みをかき分け、人の流れに逆流する。

 ん? 何か途中で足に引っかかるものが……


「ユイト様……ユイト様! 助けてください! 息子が死んでしまいそうなんです!」


 若い女性が足にしがみついている。


「離せ」


「助けてください! どうか! 息子を!」


「離せって言ってるだろ!」


 杖で思いっきり女性の背中を殴る。彼女は痛みに耐えながらも必死に俺の足にしがみつき懇願している。


「このっ! 邪魔だ! 離せって!」


 一言発するにつき一発殴る。何度も殴る。しかし女性は離さない。


「離さないって言うのならぁ!」


 叩く杖を女性に向けて構え唱える。


「無様に死ねっ! 朽ち果てろ!」


 杖の先が光る。と、同時に彼女の体がゆっくりと干からび砂に変わっていった。しかし、彼女の涙は最後まで枯れなかった。


 こんなところさっさと出よう! 宿に帰るんだ! 

 ズンズンと大股で突き進む。先ほどとは違い、群衆は道をスーっと開け俺を通してくれた。

 そうだよ、最初からそれをすれば良かったんだ!


―――


 あの後、宿に帰ってさっさと寝た。

 昨日は散々だった。あのクソ親父には色々と言われるわ、変なのに付きまとわれるわで。


「街、行くか」


 服を着て下に向かう。


「今日も行くの?」


 ベッドから寝ぼけ眼をこすりながらセカイが尋ねる。


「そうさ、神様の仕事だ」


「そっかぁ、がんばってね~」


 力の無い声を出し、手を振りながらベッドにまた横たわるセカイ。

 そうだ。何があってもこの力だけは絶対に裏切らない! これがあるだけで俺は俺でいられるんだ!


 街に出た。宿屋の前には珍しく、いや初めてか。人が全くいない。

 受付の女性が突っ立っているだけだ。それに俺と目が合わないようにしている。

 何だ……? この感覚は……

 

 街にはいつもより少ないが人はいた。しかし、俺に近寄ってくるヤツは一人もいない。それどころかまるで俺を避けてるみたいだ。

 俺が通ろうとするとすぐに家に飛び込むヤツもいる。

 すごい変な感覚だ。前にも感じたことのあるような……

 

 試しにあの店に行ってみた。

 ん? 子供が泣いている? 風邪を引いているのか、コホンコホンと咳をしている。


「中に入りなさい」


 あれは、カミさん……子供に向かって優しく語りかけている。

 手を振っておこう。

 手を振ったらこちらに気づいたのか一瞬だけこちらを向いた。しかし、こちらを見たのはその一瞬だけですぐに背を向け店の中に子供と一緒に入っていった。

 それと入れ替わりにおじさんが出てきた。


「何の用だ」


 怖い顔をしている。俺を蔑む目だ。


「いや、何も無いです。ただ……近場に来ただけで……」


「嘘をつくな」


「え?」


「俺らが“お前に何かしてくれる”とでも思って頼りに来たんだろ」


「そんなことは……」


 無い。


「あるさ。だが俺らはお前に何もしない。というか、もうこの街はお前に関与しない」


「えっ……?」


「それがお前が選んだ結末だ」


 そう言い残し、彼は店の中に入っていった。

 ポツンと一人店の前に立つ。


 街を歩く。

 ヒソヒソ話が飛び交う。


「殺人者だ……」

「関わらない方が良い……」

「俺らも殺されるぞ……」


 何だろう、この感じ。妙に懐かしい。

 冷たい。何よりも冷たいこの感覚……心が滾らない。


―――


 その後、俺は一人宿に戻りずっと寝ていた。

 セカイは椅子に座り、何の曲かも分からない鼻歌を歌っていた。慰めの言葉一つさえ無い。

 俺はまたひとりぼっちになってしまった。


 夜、俺は寝ていた。ぐっすりと。

 何かが左腕の辺りで蠢く気配を感じたが、俺はそれを気にすること無く眠り続けた。


 朝。左腕に違和感がある。何か無機質な感触……


「これはっ!?」


 見てみると俺の左腕は木で覆われていた。何が起こっている! 俺の体に何が……

 そういえば……壁に立てかけていた杖は……? 無くなっている! 俺の杖はどこだ!


「おい! 起きろ、セカイ! 起きてくれ!」


 横でぐっすりと眠っているセカイを強く揺らす。


「んぅ? どうしたのさ、ユイト」


 彼女は少々不機嫌そうな顔でこちらを見る。


「杖が……俺の杖が無いんだよ! どこ行ったのか分からないか?」


 怒鳴るように問い詰める。

 それを聞くとセカイは眠り眼をこすりながら笑い、


「あるじゃん。君の左腕に」


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