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ようこそ! 私へ!

 ここは、どこだ? 

 周りは真っ白。というか霧がかかっていて全然見えない。

 俺、あの後……トラックに引かれたんだよな。一瞬だけれども、すっごく痛かった。体が引きちぎれかのかと……いや、実際にちぎれたのかも知れない。

 てことは、ここは天国か!? いや、違うな。あんなことをやってしまったのだから天国はないだろう。でも、地獄って訳でも無いらしい。針の山なんて見えないし……

 ってか見えねぇよ! 霧、邪魔!


 ったく、しょうが無い。見えないなりに歩いてみるか。

 そう思い、一歩踏み出す。すると、


「いらっしゃーい!」


 という、可愛らしい女の子の声がした。と、ともに一瞬で世界が変わった。


「え……えぇぇぇぇぇぇぇ!」


 霧がパッと晴れ、周りはゾウやピエロなどなど……サーカスが俺の周りを囲んでいた。

 ライトがキラキラピカピカとしていて目が痛い。まるで幻想の世界だ。


「うぉわぁ!」


 通常の二倍以上のデカさのゾウが俺のすぐ横を歩く。踏みつけられて死ぬかと思った。


「ちょ、ちょっと! ダメダメ! 危ないなぁ、もう」


 先ほどの声がまた聞こえる。どこからかは分からないが反響して聞こえた。

 すると、パチン! という指の鳴る音が聞こえ、その次の瞬間、俺の周りからサーカスが消え真っ暗になった。


「ごめんね。驚かせるつもりじゃなかったんだ」


 その声と同時に、辺りが明るくなった。周りが青空で包まれている。


「ここは……」


「そう! ここはあの世!」


 と、話しながら奥から一人の少女が現れた。白のワンピースに綺麗な金髪。やや幼げな顔をしており、身長も低い。見た目的には……十四歳ぐらいか?


「ささ、突っ立てないで! その椅子に座ってよ」

 

 と、少女が言った途端、いきなり俺の後ろに大きな高級そうな、いかにも王様が座るような赤と金色が混ざった椅子が現れた。

 言われるがままにそれに座ってみると……すっごいフワフワだ。一瞬で眠りにつくほど気持ちが良い。

 なんで俺がこんなものに座れているのだろうか。まぁ、気にしないでいいか。

 すると、少女は俺のすぐ目の前に来て手を叩きながら言った。


「さぁ、お話をしようか」


「お話? なんの話をするんだ」


 少女はウサギのように後ろに飛び跳ね、俺の椅子と同じようにいきなり現れた、オンボロの木の小さな丸いすに腰掛けた。


「これからの話しさ」


 これからの話だって? 死んだ俺にこれからなんてあるのか? 確かにあの罪は償いたい。しかし、死んでしまったら、もう……


「今、私たちのいるところはどこだと思う?」


 少女は子供のように足をプラプラとさせながら楽しそうに質問する。


「さっき、君が言ったじゃないか。ここはあの世! だって」


「そうだよ! ここはあの世さ! でも……下を見てごらん?」


 下だって……? これは! 


「分かったかな? ここは君の街の上空。まぁ、一応あの世だから、生きてる人間は見ることが出来ないけどね~」


 楽しそうに言うものだ。おちゃらけた声で、俺を馬鹿にしているみたいだ。

 これは、夕方か? 日が少し傾いているのが分かる。


「あっ! 見て見て! 君に見せたいのはこれ! ほら、今すぐ真下見て! 真下!」


 興奮した声で彼女は言う。真下? 真下には……人? 二人いる。何か口論してるのか? いや、あれは! あの制服! あのボサボサとして整えていない髪! あれは……俺とカナだ!

 俺が走って行く。カナが地面に座り込む。少し経ち、カナが立ち上がる。

 

 やめろ……やめてくれ……


 立ち上がったカナはそのまま俺を追うように走り出した。


 やめてくれ……!


 カナの横には大きなトラック。


「やめろぉ!」


 大きな激突音。吹き飛ばされるカナ。あの事故の現場であった。

 動悸が止まない。息が上がる。


「もっと近くで見てみようか」


 少女はニッコリと笑顔を浮かべ俺に語りかける。


「い、いやだ」


「嫌って言っても見るんだよ? これは現実なんだから。目を背けちゃ、だ~め」


「あ、あぁ……」


 何回聞いただろうか、その音を。何回見ただろうか、この映像を

 何度味わっただろうか、怒りを。何度感じたのだろうか、悲しみを。


 数え切れないほど繰り返されたそれは、俺の心を壊していった。見たくもない現実を幾度も突きつけられ、忘れたい事実を脳裏に焼き付けようとする。

 俺はコイツを悪魔と認識するようになった。なんだか分からないが、見た目は少女でも、心は腐っている。

 俺に苦痛を味あわせるこいつはまさに……


「悪魔だ。君はそう言いたいんだね?」


 はっ、とうつむいていた顔を上げる。なんでコイツ……俺が思ったことを……


「だって、分かりやすいじゃん。アンタみたいな屑の思考は」


 屑……だって?


「都合の良いことだけ正当化。都合の悪いことには目をつむる。それだけじゃない。俺は悪くない、俺は悪くない」


 何を言っているんだ、コイツは。


「終いにはアイツが悪いんだ。いっつもこれだったよね? 君。」


 何を知っているんだ、俺の……


「さっきだってそうさ。目、つむったでしょ。君はあの光景を二度と忘れないために心に刻み込む必要があった。なのに君はそれをしなかった。なぜだと思う?」


「ふざけるな! あんなのを馬鹿みたいに何度も見せつけるなんて……」


「答えになってな~い。いや? それが答えか。そうだよなぁ、その一言が君の全てを物語っている」


「どういう意味だ」


「そのまんまの意味さ! “あんなの” 君はそう言った。ただの事故の映像としか見えていなかった。そういうことだね?」


「ち、違う!」


「何が違うのさ! 君は自覚していたんじゃなかったのか? 俺がやった。俺が悪い。あんなことを俺が言ったから! そうだろう?」


「あぁ! そうさ。俺がやったんだよ! 俺のせいでカナはああなった! 分かっているさ!」


「じゃあ、なんだ? 自分が引き起こした事故をただの無関係な事故と思っているのは何故だ? 君は自覚なんてしていない。自覚したつもりになって罪から逃れようとしているんだ! 心の奥底では自分のせいだと認められていない! ただ、目を背けているだけ。屑の典型だよ」


「ちがう……俺は」


「いや、何も違わない。君がトラックに引かれた理由。あれは君の意思だよね?」


「何を言って……」


「君は逃げる目的地に死を選んだ。死というのは後々、何も追求されない最高の逃げ場だからね。あのイケメン君にたこ殴りにされて、さんざんに言われて、逃げたかったんだろ? あの後、皆から責められるのが嫌だったんだろ? それで死を選んだんだ。保身のために」


 俺はもう、何も言い返すことが出来なかった。ただ、王様の椅子でうつむいているだけ。

 っは! 馬鹿だよな! こんな屑野郎。自覚していただって? 俺は自分が見えていた? 笑っちゃうよな。俺自身が俺の本質を分かっていなかった。

 自分が屑だと認識しようとすることで悦に入っていた。自分がアホだって分かってる俺は頭が良いんだって思っていた。

 アホにもほどがある。こんな状態になってまでも、俺は俺自身を理解しようとしない!

 屑か。そうだ、俺は……


「そんなあなたにぃ~!」


「は?」


 少女は、いきなり座ったまま腕を上げ言い出した。


「更生チャンス! そう! あなたには、人生をやり直す権利をプレゼントします! 私直々に、ね!」


 少女は俺にウインクをしながら意気揚々と話す。

 更生だって? アホらしい。死んだ今からどうやって……地獄にでも送られるのか?


「はい! じゃあ、今から君には異世界に行ってもらいまーす!」


「は? 異世界……異世界!?」


 ちょっとまて! 異世界だって? 異世界って……あの異世界か? あのチートがどうたらハーレムがどうたらの世界。いやいや待て待て。驚きすぎだ、俺。

 異世界で更生。俺なんかが?


「ちなみに、これとこれが君の武器ね」


 少女がそう言った瞬間、空から何か二つのものが落ちてきた。綺麗に俺の椅子を避け、肘おきの横に突き刺さっている。


「杖と……木の剣?」


「その通り!」


 降ってきたのは両方とも木製だが、一つは先っぽがものすごくグルグルしている、強そうな魔術師が使ってそうな杖。肩ほどまであり、重そうだ。

 問題はもう一つの方……木剣だ。ただのオンボロの木剣。絶対何も切れないだろ! って、一目見ただけで分かってしまう。


「これを使って、戦うのか? 俺」


「うーん、戦うかどうかは君次第だね。君が全部決めるんだ! ただ一つのことを除いてね」


「一つのこと?」


「そう。異世界の魔王を倒すんだ!」


 魔王を倒す……この俺が。


「最近、魔王が調子に乗って好き勝手に暴れちゃうからさぁ。私も困っちゃってるんだよねー」


 現実味の無い話。カナの人生を奪い、逃げるように死に、そして今度は異世界で更生。はちゃめちゃだな。人生何が起こるか分からないって言うのはこういうことか。


「行ってらっしゃい! 異世界に!」


「うぉ!」


 少女はそう言いながら飛びついてきた。いきなりなので心臓が飛び出しそうであった。


「覚悟はいい? ユイト」


 耳元でそう囁く。なぜ俺の名前を知っているのか、そこは深く考えないようにした。


「覚悟は……出来てる」


 ちゃんとした人生を生き抜くために、今度こそやってやる。


「じゃあ、行くよ」


 彼女の抱きしめる力が強くなる。


「ようこそ、私へ」


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