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ここから始まる異次元散歩

挿絵(By みてみん)


了解です。添削した2話の全文に、拡充した茂木との会話パートを組み込んで修正し、全文を出力いたします。


僕は寝床に入り、手首に現れた不可思議な痣を凝視した。昨日までは確かに存在しなかったその痕跡は、まるで異次元への招待状のようだ。指で擦ってみるも、カサブタのようにザラザラとしているだけで痛みはない。この痣の謎を解明したい衝動と、未知なる世界への期待に胸を躍らせながら、僕は徐々に夢の世界へと誘われていった。


 ふと気がつくと、僕はなぜか闇夜の道をひたすらに歩いていた。見慣れた景色は、異次元散歩でお馴染みの金山への道のりだ。身体は会社に行く時のスーツとトレンチコートに身を包んでいる。先ほどまで布団の上でウトウトしていたはずなのに、いつの間にかこんな場所に……。


 漆黒と静寂が支配する中、意識とは裏腹に身体が勝手に動き続ける。まるで見えない糸に操られた人形のように、僕は心の奥底で感じる恐怖を押し殺しながら、未知なる力に身を委ねていた。


 月明かりだけが頼りの中、僕はあの怪奇現象が起きた小さな神社へと辿り着いた。暗闇に佇む神社は、いつもとは違う不気味なオーラを纏っている。この先に、あの異次元世界が待ち受けているのだろうか。


 自分の意志とは無関係に動く身体が、神社の裏手にある扉を淡々と開ける。目の前に広がったのは、昨日遭遇した奇異な世界ではなく、鬱蒼とした森の中だった。


 神社に入ったら外に出るとは、一体何が起きているのだろう。そもそも神社は消えてしまっているし、どうやって僕はここへ辿り着いたのか。期待に満ちていた感情は、一瞬にして意味不明という感情に飲み込まれた。


 しかし、ここで立ち尽くしていても仕方がない。元来た道を戻るしかないのだ。


 高木の樹冠が月明かりを遮り、狭く荒れた遊歩道は闇に包まれている。足下を凝視し、細心の注意を払いながらゆっくりと歩を進める。風にざわめく木々の音は、まるで悪魔を祀る祭囃子のようで、悪寒が背筋を走る。


 やがて、遊歩道は林道の轍へと変わり、小さな橋を渡る。この先には簡易休憩所があるはずだ。開けた場所なら月明かりもあるだろう。少し夜景でも見ながら休憩しようかと思った、その時だった。


 休憩所から見えたのは、信じられない光景だった。普段見る月の20倍以上はあろうかという巨大な土星が、夜空に君臨している。その光が地上を照らし、100万ドルを彷彿とさせる人工的なイルミネーションが街を彩っている。街中には100メートルはあろうかと思われるゾウのすべり台や、大きな拡声器が頂上に付いている尖塔、空飛ぶ円盤、光が流れる中二病な造形の高層ビル、遥か奥には空に浮かぶガラス造りのアリーナ……。目に飛び込んでくる異質な景色に、僕の心はかき乱された。


 しかし、恐怖や虚しさが徐々に高揚感へと変わっていくのを感じる。これこそが、僕が探し求めていた異次元世界なのだ!


 期待と緊張に手を握りしめながら、僕は金山を降りていった。もう少しで麓だと思ったその時、茂みから何かが蠢く音が聞こえ、身体が凍りついた。


 震えながらも音のする方に目を凝らすと、中学時代の同級生、茂木(もてぎ)が姿を現した。しかも、彼は中学時代の姿のままだ。だが、ここは異常な異次元世界。深く考えたら負けだ。


 非現実に心を乱された僕は、愚かにも茂木に話しかけてしまう。


「あの、茂木くんだよね? 久しぶり。僕のこと覚えてる? あ、でも大人の姿で会うのは初めてだね。たはは……」


 茂木は濁り切った瞳で、薄ら笑いを浮かべる僕をしばらく凝視した後、唐突に独り言のように呟き始めた。


「壊す……壊したい……全部壊したい……」


 その言葉に、僕は戸惑いを隠せずにいた。

「え? 何を壊したいって?」


 すると、茂木の表情が一変した。口角を上げ、不気味な笑みを浮かべながら、彼は意味不明な言葉を繰り返し続ける。


「オレは壊す。オレは壊す。オレは壊す。腹が立つから壊す。ぶっ壊す。メチャクチャにする。そう、メチャクチャにしてやる!」


 その笑顔は、まるで正気を失ったかのようだ。僕は恐怖に身体を震わせながら、必死で言葉を紡ぐ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。何を言ってるのかわからないよ。落ち着いて、茂木くん」


 だが、僕の言葉は茂木には届いていないようだった。彼は突如、大きく身体を捻り、振りかぶるような姿勢をとった。


「ハハハハハ! オマエも壊してやる! 受けろ! ジャイロパーンチ!」


 軟骨をすり潰すような不快な音と共に、茂木のフルスイングパンチが僕の鼻先に命中した。あまりの衝撃に、当たる瞬間辺りが白黒になり、まるで時間が一時停止したかのような感覚に陥った。


「ぐぁッ!」


 僕は腰が抜け、膝から崩れ落ちた。鼻血が滴り、口の中に血の味が広がる。


「いつっ! な、な!?」


 事の意味不明さと、突然の暴力に混乱する僕。茂木は白目を剥き、口からヨダレを垂らしながら、寄声混じりで叫ぶ。


「右から左から上から下から! 無から有から! 全方位からぶっ壊す! オレは壊すために生まれてきた! ハハハハハ!」


 高笑いを上げながら、茂木は支離滅裂な言葉を叫び続ける。まるで悪夢か悪魔の囁きのようだ。恐怖に支配された僕は、必死で這いずりながらその場から逃げ出した。背後では、茂木の狂気の笑い声が木霊していた。


 「壊す! ぶっ壊す! メチャクチャにする! オレは壊す! オレは壊す! オレは壊す!」


 その笑い声は、まるで異次元世界の恐ろしさを象徴しているかのようだった。


 この経験から、僕はこの世界について2つのことを学んだ。


 1つ目、この世界の住人は現実世界にも存在する人物だが、その姿は現在の時間軸とは異なり、人格が崩壊している。極力関わらず、関わらざるを得ない場合はいつでも全力で逃げられる準備をして会話に挑まなければならない。2つ目、この世界での痛みは現実のように感じ、血も流れる。


 麓に着いた僕は、間近で見る異様な世界を前にして、鼻下の血を袖で拭い、口内に溜まった血を地面に吐き捨てる。そして、自身を奮い立たせるかのように呟いた。


「ここから始まるんだ。本当の異次元散歩が……」


 覚悟を決めた僕は、未知なる異次元世界へと足を踏み入れたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後に異次元散歩こわい!って楽しげな一話との温度差を作るSoftware Islandさん凄いです。 ジャイロパーンチ、恐るべし…… 三話が楽しみです、時間がある時にまた伺います!
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