第5話 先生
ーーー宿屋前ーーー
「とりあえず南西の区画にあるスラム街にいくのよ」
なのよはくだりのエスカレーターに乗りながら言う。
「スラム街か・・・いかにも治安悪そうな感じの場所だな」
「実際悪いのよ。へたに路地にでも入ろうものなら入った瞬間袋叩きにあって有り金全部奪われるのよ」
「そりゃあ気をつけなきゃな」
セカイノは苦笑する。
「今回も飛翔機は使えない場所なんだな」
「スラムはごちゃごちゃしてて下ろす場所が無いのよ。機体に傷つけられる可能性もあるし」
「へぇ・・・お、なのよ。あれなんだ?」
「スラム市場なのよ」
「ちょっと見に行っていいか?」
「わかったのよ」
ーーースラム市場ーーー
商業街の大通りとまではいかないが、活気ある市場だった。店は一軒家ではなくほとんどが露店になっている。
なのよがセカイノの前を歩きながら、
「ここはたまに盗品とかも売ってるのよ」
「いかにもって感じだな。堂々と店を構えて盗品を売るってのはどうかと思うが」
セカイノは物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回す。その中から一風変わった店を見つけ、店員に話しかける。
「おい、おやじ。ここは何の店だ?」
「ここにあるメガネは女の服を透けさせる・・・」
「透けるのか!?」
「・・・気になるメガネだ」
「気になるだけかよ!」
「他にもあるぞ。これは遠くのものを覗ける望遠レンズ」
「そんなもんどこにでもあるだろ」
「この高低差が顕著な街だからこそ使い道があるんだよ。例えば高いところから風呂を覗くとかーーー」
言い終わる前になのよが望遠レンズを奪い、足元に叩きつけ、踏みつける。望遠レンズは見事にひしゃげた。
「「ああーーーっ」」
店主とセカイノは同時に絶叫を上げる。
「お金は払うのよ。とっとと次に行くのよ」
「最後の一品だったのに・・・」
「恨むぜぇ」
そんな二人に構うことなく、なのよは露店の一つに並び、何かを買ってきた。
「セカイノ、これを持ってるのよ。
「これは・・・スプレー?」
「催涙スプレーなのよ。森の中で怪魚に襲われたとき思ったんだけど、これを持ってたらもう少し安全に進めるのよ。
「ああ、なるほどな。怪物対策か。いくらだこれ」
「料金は500キャシュ。案内料に上乗せしとくのよ」
「ありがとよ」
「ただ効果範囲が広すぎるから、自分が巻き込まれないように風向きとかを考える必要があるのよ」
「そういうオチか・・・」
その他にも色んな露店を見て周り、セカイノ達は目的地に向かった。
ーーースラム街ーーー
なのよはある程度大通りを進んだところで路地への入り口で止まる。
「ここを通るとかなり近道になるんだけど・・・」
なのよは口ごもる。
セカイノは、ああ、そういうことかと頷き、
「俺に任せな」
言うと路地にすたすたと入って行く。
路地に入って程なく進むと、いきなり左右の物陰から角材がセカイノに向けて振り下ろされる!
「セカイノ!」
なのよが叫ぶ。
セカイノはバックステップで攻撃をかわした。
そしてさっき買ったスプレーを勢い良く噴射する。
「ぎゃあああああ!」
左右から出てきた襲撃者は目を押さえて悶絶する。
「悪意の気配が駄々漏れなんだよ」
襲撃者達は悶絶し、答える余裕も無かった。
「一応、治安委のところに突き出しとくか」
「わかったのよ」
セカイノ達は襲撃者(街のチンピラ)達を治安委のところに引き渡しとくと、青空教室に向かった。
路地を進み、開けた場所に出る。
そこには小さな子から少し大きい少年くらいまでの子に授業をしている一人の青年がいた。
なのよは唇に指を立て、しーっとジェスチャーをし、
「ちょうど良いところなのよ。ちょっと聞いていくのよ」
と告げる。セカイノは青年の授業に耳を立てる。
青年はちらりとこちらを見たが構わず授業を進める。
「君達は何のために授業を受けるのか?」
青年の問いに少年少女らは答える。
「裕福になりたいからです」
「色んなことに興味があるからです」
「知識を深め、賢くなりたいからです」
青年は手にしていた本を置き、懐から紙切れを取り出す。
「知識というものは、カードに置き換えれる。知識というカードは様々な種類があり、手札が多い分だけ様々な局面で役に立てることが出来る」
青年はセカイノを見やり、
「どんな知識のカードが必要かを自分で考えて見につければそのカードはブタにもジョーカーにも変えれる。一つのカードを極限まで磨くことにより、必殺のカードにも変えられるわけだ」
青年はなのよを見、
「自分が何を目指し、何を身に着けたいか、よく考えて学ぶことが大事だ」
青年は一同を見渡し、
「そして社会の役に立つ人間になりたまえ。今日の授業は以上だ」
勉強道具を鞄に詰めた学生たちがばらばらと帰っていく。
なのよは先生に駆け寄り、
「先生、お疲れ様なのよ」
「やあ、なのよ君。君は今日もバイトなのかね?」
「そうなのよ」
「君は一通り重要な部分は学んでいるとはいえまだのびしろはある。気が向いたら授業を受けたまえ」
「仕事が片付いたら考えるのよ」
そこで先生はセカイノを見やり、
「君は?」
「なのよの宿の宿泊者でセカイノという。先生の授業見せてもらったぜ。・・・知識はカードか。なるほど。言いえて妙だ」
「ありがとう。今日は何しにここへ?」
「なのよに島の案内を頼んでいるんだ。それでこの島の歴史に興味を持ったら、なのよにここを勧められてな」
青年は頷き、
「なるほど。いいだろう。」
「先に聞いとく。授業料とか取るのか?」
「さては、なのよだな。・・・私は自分の知識を次の世代に受け継がせるために教鞭を振るっている。お金は取らないさ」
「ありがてえ」
「では紅茶でも飲みながら話そうか」