第2話 首都、ひざしの都
ーーーーー教会ーーーーー
「やれやれ、うまく合流できればいいんんだが」
セカイノはつぶやき、教会の扉を開ける。
すると目に飛び込んできたのはーーーーー
なのよの体当たりだった。
ドス、と鈍い音がし、みぞおちに見事にきまった。
「うげっ!・・・」
セカイノは、ふらつきながら二歩後退する。
「何すんだ・・・」
「・・・この都市国家は、比較的裕福で大通りはそうでもないけど
路地に入ったら危険なの!」
「だから宿屋には案内人がいるのよ。
教会が迷い人を保護するのにも訳があるの!!」
なのよはまくし立てるように言った。
「・・・そいつは済まなかったな。つい尻に・・」
「尻?」
「いやなんでもない」
「ま、何事もなかったし、案内の続きでもするのよ」
そう言うとセカイノの手を取り市場に戻る。
「すまねぇな」
「いいのよ。最初に説明しなかった私もわるいのよ。
・・・それじゃ、市場に行くのよ」
ーーーーー市場ーーーーー
「で、? 何買うの?」
「たしかお前の宿は調理器使えるんだよな?」
「うん」
「では晩飯は俺が料理してやろう」
「ほんとに? じゃあ私も手伝うのよ」
「よし、じゃあ使えそうな食材を探そう」
ーーーーー数十分後ーーーーー
「よし、こんだけあれば、だいぶもつだろ」
「一週間ぶんはあるのよ」
「まとめ買いが賢い買い方のコツってな」
「さてと、とっとと帰るのよ」
なのよはふと、セカイノを見上げて
「ねぇ、セカイノはこの街には、何日くらい滞在する予定なの?」
「滞在期間は2週間くらいかな」
「この街に来た目的は人探し。」
「ふーん、短いのよ。そんな短い期間で人探しなんてできるの?」
「目立つ奴だからな。その心配はない。
ただ街から街へ行くスピードが速いからな。なかなか捕まらない。
ま、じわじわ追い詰めるさ」
「その人を捕まえたらもう来ないの?」
「俺はこの街を好きになれそうな気がする。また来るさ」
「その時はまたこの宿を宜しくなのよ」
「ああ」
「もう、なんだかもうお別れの気分になってしまったのよ」
「お前が聞いたからだろうが」
「さて、と。残りの買い物は、と」
「聞いちゃいねぇ」
「そうだ、帰る前によってほしいところがある」
「どこ?」
「服屋だ。いま着てるこれと同じやつを頼む」
「・・・・・・」
「どうした?」
「もっとおしゃれに気を使わないとモテないのよ」
「なに言ってんでぇい。この服は俺様のチャームポイント、
漢のフェロモン大放出ってやつだ」
「意味不明なのよ」
「ま、特に問題なしって事だ、さ、行くぞ」
ーーーーー服屋ーーーーー
「お、あったあったこれ」
セカイノの手には今着てる服とほとんど同じ服が握られていた
「おい、なのよ」
振り向いたその先、ショーケースを見つめるなのよがいた。
ケースの中には・・・ウエディングドレスが展示されていた。
「いくらなんでも早いだろ」
「今十二歳だから早ければ4年後には着れるのよ」
「わかったわかった。さ、行くぞ」
そう言うとセカイノ達は服屋を後にした。
ーーーーー市からの帰り道ーーーーー
カートが宙に浮いている
「なんだこれ?」
「荷物を載せるのよ」
「へー、便利だな」
しげしげと見る。
「使用料一回50キャシュだけどね。荷物がかさむときには重宝するのよ」
「なるほど。なんていうかこの国だけ技術がひと回りくらい進歩してるな。大国をのぞいては、だけど」
「特にこの国は東の大国の圧力を受けてるから、技術の進歩も速いのよ」
「くわえてこの国には資源もあるしな」
「この国のこと知ってるの?」
「大雑把にはな。だからそのまま話してくれ」
「うん。・・・で、最近その東の大国が急激に軍備を増強しているのよ」
「そのわりに街は賑わってるな。緊張感がない」
「首都だから当然なのよ」
「・・・は?」
「どしたの?」
「首都?・・・ここが?」
「そうなのよ。ここをどこだと思ったのよ?」
「北の都じゃねぇのか?」
「北の都はここから街道を1週間、北に向かったところにあるのよ」
「なんてこった。遭難する前に航路を間違っていたってことか!」
「どれだけ間違えばそうなるのよ」
「ま、いい。2週間の滞在が3週間に増えるだけの話だ」
「あ、もうそろそろ宿なのよ」
「そうか」
「宿に荷物置いたら行くところがあるのよ」
「いいけど・・・どこにだ?」
「工房」
ーーーーー工房街ーーーーー
午後4時、街の東地区、工房街。
工場や工房がところ狭しとひしめきあっている。
浅い夕日が工房を夕焼け色に照らし出していた。
「そういえばこの小型飛行機、なんていうんだ?」
「飛行機じゃないのよ『小型飛翔機』」
なのよの小型飛翔機がその中の一工房の屋根に降り立ち、
「こっちこっち!」
と、誘導し、屋上口から階下に入る。
「博士ー」
「おお、助手A」
「見学者を連れてきたのよ」
「ほう」
「セカイノだ、よろしく」
「うむ。私のことは博士と呼んでくれ」
「じゃあ始めるのよ」
「何を?」
「アルバイト」
「アルバイトぉ?
おまえ宿のほうはどうすんだ?」
「あっちは本業こっちは副業。でもこっちのほうが収入がいいし、むこうはお婆がいるから大丈夫なのよ」
「うむ。優秀な部下には見合うだけの賃金を与えないとな」
「それで、何をするんだ?」
「今日は全自動皮むき機の実験テストじゃ」
「おお」
「世界中の主婦の皆様の味方、万能キッチン機能③じゃ。
さあはじめるぞ」
機械はジャガイモを固定し。包丁が振り下ろされた。
ーーーーーカッ、と閃光が走るーーーーー
そして光が収まると、そこに真っ二つに分断された
ジャガイモが転がっていた。
「・・・むくんじゃなかったの?
真っ二つにしてどうするのよ」
「今の光はなんだったんだ!」
しかし博士は二人の様子など気に留めることも無く、
「うーむ。・・・そうだ!短冊切りにすればいいんだ!!」
「それだ!」
「違ーう!のよ」
ーーーーー博士の工房ーーーーー
「うーん、・・・そうだ!
野菜の中心に鉄串刺して、それを回転させて、刃物で外側を上から下に切るようにしたら出来そうなのよ」
「むっ、ナイスアイデーア!
それでいこう!」
なのよがカリカリと設計図をひく。
「お、さすが優秀な助手。やるじゃねーか」
「うむ、特許をとったら何割かボーナスを出そう
助手Bもなにか思いついたらどんどん言っていいぞ」
「勝手に助手にすんな」
「よし、設計図が出来上がったら、今日はこの辺で終わりにしよう」
「はーい」
なのよはセカイノに向いて
「きょうの夕食はセカイノが作ってくれるんでしょ?私も手伝うのよ」
「ああ、そうしてくれ」
ーーーーー宿ーーーーー
シャワーを浴び、夕食の準備をする。
まず煮えにくい野菜の下ごしらえをする。
なのよと一緒に野菜の皮むきをした。
「お、なかなか手つきがいいじゃねーか」
「毎日やってるから慣れてるのよ」
「料理のできる有無は将来必要になってくるからな、できれば出来てたほうがいい」
「そのとおりなのよ」
「じゃ、次は魚介類の下ごしらえだ」
野菜を鍋に入れ、魚介類を準備する。
エビの背わたを取りながら
「セカイノこそ器用なのよ」
「俺は基本独り身だからな、自然と身につく」
言いながら魚介類を鍋に入れる。
「さて、あとは調味料をいれて、と」
しばらくぐつぐつ煮込む。
「さ、特製魚介シチューの出来上がりだ」
「わお!美味しそうなのよ」
「いっただきま~す」
スプーンでシチューをすくい、ほおばる。
「美味しいのよ」
「だろ?」
セカイノとなのよはシチューをパクパクと食べ終えた。
「よし、腹ごしらえも済んだし、情報集めといくか」
「どこにいくの?」
「酒場。お前さんにゃちと早いところだ」
「む~」
なのよがふくれる。
「じゃ留守番よろしく」
「11時までには帰ってくるのよ」
「へーい」
ーーーーー酒場ーーーーー
時刻は20:30、仕事も食事も終わった後、
店は活気につつまれていた。
その中にセカイノの姿もあった。
「ねーちゃん、酒もう一杯!」
「はーい」
「しっかしあれだねぇ、他国の情報では大国とかなり緊張関係にあるってことだけど、ここはかなり緩んでるな」
セカイノが隣の飲んだくれに尋ねる。
「そりゃそうさ。この国にゃ大国から逃げてきた科学者で成り立ってるようなもんだ。
簡単にゃいかねえ」
「科学者数名にどうにかできるもんじゃないと思うが」
「それが出来るんだよ。逃げてきたのは科学者百余名。さらにその中には最高軍事顧問もいるって話だ」
「もしかしてその科学者はペンギンみてえな眉をした目つきの悪いおっさんじゃあねえだろうな?」
「なんでわかったんだ?その人だよ」
「・・・・・・」
ため息と同時に肩が落ちる。
セカイノは無言でジョッキを見つめる。
「ま、いいや。もうひとつの情報についても何か知ってるか?」
「あ、そうそう。約1週間前、北の都にお前さんが言った風貌の男が
港に着いたらしいぜ」
「ほんとか?」
「ああ。お前さんが言った条件に合うやつだ。背高で黒ずくめの服で十字架をこれでもかってくらい体中に背負っていたやつだった」
「そいつだ」
「関わるのはよしといたほうがいいぜ。
あいつは危険な雰囲気をしてるって話だ」
「そいつは無理だな。俺はあいつから取り返さなければならないものがあるからな」
「ま、どうするのもお前さんの勝手だ。死なない程度にせいぜい頑張りな」
「ありがとよ」