第一章 第1話 真夏島 漂着
プロローグ
暗いーーーーーーー
ここはどこなのかーーーーー
わからないーーーーー
なんとなく耳を澄ましてみる
・・・・・サーーーッ、ササーーーッ
・・・波の音がする・・・ここは海の近くだろうか・・・
ふと、まぶたが軽くなった気がした。
うっすらと目を開けてみる。
ーーー次の瞬間、目に光が差し込んできた!それも強烈な!!
春、秋、冬にはない真夏の日差しである。
「うわっ!」
慌てて目を閉じる。
目がくらくらする。
目眩が収まるまでしばらく目を閉じていた。
ーーーーー数分後。
「ふぅ。ようやく目が慣れてきた」
またうっすらと目を開けてみる。
やはり日差しが強い。
ゆっくりと体を起こして、周りを見渡す。
・・・どうやらここは海岸で、砂浜のようである。
遠目に、見慣れない建物群と、花畑が見える。
あそこは天国だろうか?
それにしては全身がだるい。
?
遠くから鳥のようなものが近づいてくる。
いや、違う。金属でできた小型の乗り物という表現が近い。
あんな小さな飛行物体は見たことがなかった。
乗り物には年端もいかない娘が乗っていた。
何故か胸がざわめいた。
因縁めいた大きな予感がするーーーーー
飛行物体は近くまで飛んできて、静かに垂直降下した。
娘は物体から降りると、こちらにかけてきて
こう尋ねてきた。
「ドザえもんが動いてるのよ」
ーーーーーそして、この娘との出会いが、島国を、大国を巻き込んだ
世界史に残る物語へと繋がるのであったーーーーー
「勝手に人を殺すな」
男は一息つき、
「だいたいあの距離からわかるわけねぇじゃねぇか」
「ううん、わかるの。なんか倒れ方も死人ぽかったし」
「わかると言いつつ外れてるじゃねぇか」
「それはそれとして」
娘は一息おいて、
「おじさんは、なんでこんな所で倒れてるの?」
「なんでって・・・そりゃあ船が難破して・・・」
!!!
「そうだ!!カバン!!!」
急いで辺りを見回すと、少し外れたところに
旅行トランクがあった。
「よかった・・・これが無ぇと商売できねぇんだ」
「ところでおじさん」
「ん?何だ」
「服、砂まみれなのよ」
「ああ、ホントだな・・・どこか宿があればいいんだが」
「私の家が宿屋なのよ」
「ホントか?」
「安くてお手軽、リーズナブルなのよ」
「よっし、さっそく案内してくれ」
「案内は必要ないのよ。これに乗るの」
と、玩具のような小型飛行機を指差す。
「これは一人乗りだろ」
「これに乗るのよ」
折りたたんであったロープを取り出すと
一つのブランコになった。
「なるほど」
「さ、早く乗っていくのよ」
「二人も乗ってホントに飛ぶのか」
「出発!」
小型飛行機は垂直上昇し、、街に向かって進んでゆく。
ブランコに乗ったドザえもん
全身に吹き渡る風が心地よい。
塩水まみれの服が乾いてゆくからなおさら良い。
しばらくすると街に近づいてきた。
遠目ではわかりにくかったが、だんだん輪郭がはっきりしてきた。
高さの違う青と白の色をした円柱形の建物が無数にそそり立っている。
さらに進むともっとはっきりしてきた。
青色の部分は窓ガラス、白の部分は壁だった。
屋根には小型飛行機と同じ、それと同じ以上の飛行機が停泊している。
「ひゅう♪ 壮観だな。今までいろんな街を旅してきたが、こんな街は初めてだぜ」
ドザえもんが歓声を上げる
「もう少し行くと市場があるけど、少し見ていく?」
「ああ、頼む」
と、答えると小型飛行機は少し傾き、人通りの多い方へ進む。
少し行ったとっころに市場らしきものが見えてきた。
人、人、人、人の群れ。
両サイドに所狭しと並ぶ屋台。
果物、パン、ジュース、弁当、魚、穀物などなど
「賑わってるな。
屋台の規模以外は他の街と変わりないんだな。
てっきりビルの中にあると思ったんだが」
「ビルの中にはデパートがあるのよ。
だけど他店との比較があまりできないから
ブランド品以外はみんなここで買うの」
「なるほど」
「じゃあそろそろ宿に向かうのよ」
そう言うと小型飛行機を方向転換させ
市場を後にするのだった。
なのよ達は市場を後にして宿へ向かった。
「もうそろそろ着くのよ」
前方の高台に長いエスカレーターが見える。
その頂上に一件の宿屋が見える。木造の。
「・・・・・・・・・」
「どうしたの?}
「いや、なんだか一気に過去の時代に飛んだ気になっただけだ」
「見た目はレトロでも中は機能的なのよ」
「機能的ねぇ」
なのよは小型飛行機を脇に下ろすと
宿の中に入っていった。
玄関はやや広く、調度品や台所などが規則正しく
配置されている、無駄と呼べるものが一切ない。
カウンターには隻眼の老婆がいた。
おとぎ話に出てくる魔法使いのような格好をしている。
なぜかこちらに向ける眼光が鋭い。
こちちらを一瞥して
「そこの砂まみれはお客さんかい?」
「ドザえもんなのよ」
「ドザえもんだ。よろしく」
「・・・まあ金さえ払ってくれりゃ何も言わないよ」
「そうかい。・・・ああ、そうだ。シャワーは付いてるかい?」
「付いてるよ。食事込みで一泊3500キャシュだ 」
「確かにお手頃価格だな」
湿った財布から湿った紙幣を取り出し、渡す。
娘はこちらを振り向き、
「あらためまして、私はなのよ、なの」
「変わった名前だな、俺はセカイノだ。あらためてよろしく」
「そっちの名前も変わっているのよ」
「お互い様だな」
そう言うと、セカイノは個室のシャワー室に向かった。
ーーーーー宿屋ーーーーー
セカイノはシャワーを浴びトランクの中にある服に着替えた。
「洗濯機はそこ。脱水が終わったら屋上に干しな」
言われたとおりに洗濯物をかた付ける。
「ロープにあるフックに洗濯物をかけな」
右手にあるフックに洗濯物ををかけた。
「左手にあるロープを引っ張りな」
すると天井が開き、洗濯物が吸い込まれるように上に移動し、干されてゆく。
最小限の動きで洗濯が片付いた。
「なるほど、確かに機能的だな」
ぱん、ぱん、と手をはたきながら振り返る。
「さて、なのよは居るか?」
「いるのよ」
「この町を案内してほしいんだが」
「別料金だけどいいの?」
「金取るのか、いくらだ?」
「300キャシュ」
「まぁチップ渡したと思えばいいか」
300キャシュをなのよに渡した。
「まいど~。安くてお得な店とか紹介するのよ」
「さ、いくのよ」
玄関先まで出たセカイノは、ふと、宿屋の屋根を見上げる。
そこには、
ーーーーーセカイノの下着が万国旗のように干されていた。
「おい!」
「何なのよ?」
「俺の下着がすごく目立ってるだろうが!」
「今の世の中、別にベランダに女性物の下着が干してても何もおかしいところはないのよ」
「女物の下着もあそこに干すのか?」
「女物の下着はもっと奥の見えないとこに干すのよ」
「俺のもそこに干せよ!」
「わかったのよ」
そう言うとなのよはエスカレータ-に向かう。
「飛行機は使わないのか?」
「人ごみの中では使いづらいのよ」
「それもそうか」
セカイノは下りのエスカレーターに乗り、納得した。
ーーーーー市場ーーーーー
上空から見たときからだったが、間近で見るとさらにすごかった。
左右に延々連ねる屋台、屋台、屋台
そして行きかう人の波、波、波
みなぎる熱気につい立ち眩みしそうになる。
「なあ」
「なに?」
「この街にはどれくらい人が住んでいるんだ?」
「街というか正確には都市国家なのよ。
人口は500万くらい」
「5・・・500万か!?
どおりで混んでるわけだぜ」
「まぁ他の街も含めての数だけどね」
「とりあえず食料、水、服屋の場所から教えるのよ」
「はぐれたらいけないから遠くに行ったらだめなのよ・・って
ーーーーーーもういないし!」
振り返るその先にセカイノは居なかった。
「どこ行ったの~!世話焼けるのよ~!!」
ーーーーー同時刻、別の場所ーーーーー
「いかん、すかっり迷っちまったぜ」
「いや、俺が悪いんじゃない。通りがかったあのねーちゃんの
お尻が誘惑してきた、それが悪い」
とりあえず目に付いた青年に声をかける
「ちょとすまん、少しいいか」
「私に何か?」
「いやぁこの街広くってさ。道に迷ったんだ。
で、迷った人が集まる集会所みたいな場所はないか?」
「それならこの道を50m戻ったところに十字路があるから
右手沿いに100m進めば教会がある。
そこが尋ね人の避難所になってる」
「おう、ありがとよ」
礼を言うとセカイノは教会に向かった。