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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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複雑な心境

「土属性魔法、土山グルドル!」


「風属性魔法――女神の御仕置ロードール


「火属性魔法、不死鳥召喚フェニックス


「水属性魔法――えっと……何にしよう……攻撃魔法……と、とりあえず水切弐連刀ジールギガス!」


 特進科生徒たちが思い思いに魔法を発現させ、吸収魔法障壁に向けてそれを撃ち出す。

 そのどれもが、至る場所から加わる反魔法障壁による圧力により威力は激減。先ほどのウィスの魔法と同じように、ゆらり、ゆらりと威力を殺したまま吸収魔法障壁に吸い込まれていく。


「私だったら、こんなもの威力を殺さずにあの吸収魔法障壁ごとぶち破ってやるわ……!」


 アランの隣に身を置いたエーテルが、眼前の吸収魔法障壁に手を向けた。


「海属性魔法――大津波グラントリメ、収縮版ッ!!」


 アランとのアステラル街での闘いよりも、そして受験の時に足場を崩すために使ったものよりも更に規模の大きいエーテルの必殺技。だが、その幅は以前のようなデタラメな大きさではなく、ちょうど二人分ほどの大きさに抑えられている。


「あれから、私だって規模収縮に取り組んできたのよ。これ使ってすぐに動けなくなるようなことはなくなった。でも、威力だけは――」


「――そのままよッ!」


 確かに、エーテルの放った大津波は勢いよく――吸収魔法障壁に吸い込まれていった。


「……あら?」


 少し息を切らせたエーテルの魔法が藍色の球になってポン、と現れる。そんなエーテルの落とした藍色の球を拾い上げたのは、アランの姉弟子――ルクシア・ネイン。エーテルに歩み寄ったフーロイドは「ふむ」と小さく頷いた。


「目には見えずともお主の魔法自体が反魔法障壁の圧力に負けたということじゃよ。先ほどウィスが見せたあの魔法ですら本来の力ではない。奴が本気を出せば吸収魔法障壁など吹っ飛んでしまうのでな」


「落ち着いて、焦らず、意識限界まで行ってみましょう、エーテルさん!」


 少しばかり落胆した様子を見せるエーテルにフォローを入れるルクシア。そんな中で、アランの方に顔を向けるのはフーロイドだ。


「お主も早くやらぬか」


 フーロイドの言を受け、アランは苦笑いを浮かべて小声で口を開く。


「そういや、最初……天属性魔法は人に見せるなって言ってたけど、あれはどうなんだ?」


「……国内最大級を誇るこのオートル学園の蔵書庫ですら何の片鱗も見つからんのでのぅ。どのみち、オートル学園特進科に入ったことで否が応でも注目は浴びる。受験でも思いっきり使っておる故な。幸い今のお主は天属性という未知の属性魔法を侮る気持ちはない。謎を解くには、ある程度の『餌』は必要不可欠じゃ」


「俺の魔法は()扱いかよ」


「情報が圧倒的に足りぬ。お主自身が情報の塊じゃ……謂わば、最終的な切り札を使ってしまっとる。油断するでない。そして周りに不用意に言いふらさぬことじゃ。何か情報が手に入れば、ルクシアを通してワシに伝えるのじゃ」


 オートルとアランの会話は軽く終わった。


「ってことは、天属性魔法を使うだけ(・・・・)なら自由ってことか……」


 アランはじっと眼前に設置された吸収魔法障壁に手を向けた。

 ふとアランの手元に目をやったウィスに、小さく声を掛ける。


「……思いっ切り、放ってもいいんですよね?」


「……えぇ。構いませんよ」


 その瞳は、まるでアランを試しているかのようだった。

 息切れをして次の魔法発動までに体内の魔法循環を整えるべく体勢を立て直そうとしつつ、アランの魔法発動をエーテルまでもが見守っていた。


「…………っ」


 天属性魔法を使う寸前の頭痛は、一向に収まらない。

 一時は吐き気を催すほどだった激痛。毎回使おうとするとその症状に襲われたために、近頃はなかなか使える代物ではなかった。

 だが、春が過ぎ――夏に入って来るとそれも改善されて再び任務でも使い物にはなってきているところだった。

 多少の頭痛に苛まれながらも、アランは吸収魔法障壁に向けて――すっと息を吸う。


「――雷突槍アラクラドルッ!!」


 魔法の出所を一点集中させてアランの掌から射出されたのは雷で作られた強靭な槍だった。

 以前は雷を象る魔法を使用する際には必ず暗雲による仲介を得なければならなかった。

 事実、雷に関する魔法を発動する際には暗雲精製、雷精製、目標ターゲット設定の三ステップが必要だった。

 だが今は、掌に極小の暗雲を精製、そこから自身の意思を投影させる雷魔法を作り出すことが出来るようにまで成長している。


 バキャッ。


 アランの精製した魔法、雷突槍アラクラドルは周囲に眩いばかりの光が支配する。その光が止んだ時、彼等の眼前に広がっていたのは無残にも崩れ去っていた吸収魔法障壁だ。

 吸収魔法障壁に吸収された魔法粒子はごく僅か――そして吸収できなかった魔法は見るも無残に障壁を破壊してしまっていた。


「……す、スペースマイアが……八千枚の金貨の価値が……!?」


 バラバラに飛び散った蒼色の鉱石を拾い上げるのはその場に居合わせていた研究者たちだ。


「お、お主……」


 アランの魔法の威力に驚いているのは何も研究員たちだけではない。

 彼の姉弟子ではあるルクシアはおろか、フーロイド、そして一部を除いた特進科の面々。

 凛とした様子でそれを見守って居られているのは、ルクシア・シン、そして魔法術師のウィスのみだった。


「……なるほど。面白いじゃない、アラン・ノエル」


 ウィスの瞳から感知されたのは教師としての瞳ではない。それはまるで、獲物を見つけた時の肉食獣の如き鋭き闘争心に塗れている。


「……どうも」


 軽くお辞儀をする横では、エーテルが目の色を変えて体内の魔法循環を最大限フル回転させている。

 打ち出す魔法はどれも吸収魔法障壁に吸い込まれていたが、それでもなお、魔法を向け続けている様子が伺える。


「――これからは少し出力を下げて障壁に魔法を撃ち出してくださいね。これからいくつも破壊してしまえば、予算がいくらあっても足りませんから」


 お咎めはなかった。それどころか、少しだけ喜ばしい様子だった。


「海属性魔法、海神砲(レヴィアタン)……ッ!!」


 シン、と静まり返った教室内でエーテルが黙々と吸収魔法障壁に魔法を撃ち出していく中で、研究者達は涙ながらに崩れ散ったそれを回収したのだった――。


「……え、えっと……ホント、すいません! ホント、すいません!」


「いいんです……生徒達が学べるように作ったのですから、その生徒の強力な魔法によって壊されたのなら、本望ですよ……」


「べ、弁償します! 弁償します!」


「……吸収魔法障壁、金貨八千枚ですが……」


「…………………すんませんでした」


 研究者とアランの深いため息、そしてエーテルの放つ海属性魔法の轟音が半魔法障壁に包まれた一室に吸い込まれていった――。

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