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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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「正面奥七歩目に一、手前左五.三歩に一、右奥十四歩に三……か」


 自身もめまぐるしく動き回る。

 持ち前の跳躍力のバネ、力強い腕の振りと冷静な判断力、強靭な肉体。

 その全てを駆使してオーブルを的確に追い詰めていくシドの顔は先ほどよりもいっそう険しいものとなっている。

 木と木の間を器用にすり抜け、または幹と幹の間を華麗に跳躍する。

 本来ならば集団統率されているはずのオーブルの指令系統を瞬時に見つけ出したシドは、何の変哲もない直剣を下段に構え、オーブル以上の素早さを持って一刀両断する。

 指令系統を失ったオーブルが森の中を混乱して走り回る中で、シドはその森で最も高い木の枝にジャンプを重ねて飛び乗った。


「――アラン!」


 そこまで、シドの戦いぶりをただ傍観しているだけだったアランに向けられた言葉。

 シドの後ろを付いて行くしか出来ていないアランに、シドはにやりと笑みを浮かべた。


「未知の属性魔法、見せてくれるんだろ?」


 挑発するかのようにシドは高みからアランを見下ろした。


「ギシャァッ!!」


 直後、アランの右斜後方から現れた一頭のオーブル。


「……飛斬エルソード!!」


 魔法具剣を装備していたアランが仕様をオンに変更。

 魔法の粒子を飛び散らせながら魔法具剣から放たれた飛ぶ斬撃は一発でオーブルに命中。

 返り血を浴びないように後方へと下がったアランに、シドは短く「お見事っ」と賛辞を贈った。


「――これで残りは五頭だ。お手並み拝見と行こうじゃねぇか……アラン!」


「……上等!」


 瞬間、枝の先から一直線に地面に向けて飛び出したのはシド・マニウスだ。

 まるで、そこに重力の問題など最初からなかったかのように枝と枝の間を跳躍し、逃げるオーブルに剣先を向けて屠っていくその姿。

 返り血を頬に浴びても、その鋭く鈍い眼光は衰える様子はない。


 アランは、眼前で繰り広げられている紅髪少年の狂乱(戦闘)に生唾を飲み込む。

 整えられているオールバックの髪型には微塵もズレがない。眉間に軽い皺を寄せただけでほぼ表情を崩さないシドの戦闘は、威風堂々たるものだ。

 その姿は――さながら、だ。


「……これが……!」


 

 ――剣鬼ラグール、シド・マニウス……ッ!


 剣の鬼という呼び名も伊達ではない。

 負けじとアランも、上空に漂う暗雲を見つめた。

 天属性魔法。アランに与えられた魔法の才だ。

 受験前と受験後ではその扱いでも大きな差があった。かつては力に呑まれ、自己を過大評価して天属性の魔法のみでオートル学園の頂へと昇ろうと思い上っていた。

 だが、あの頃の自分では確実に眼前の男に勝つことは出来ないだろう。ただ力にかまけていたあの頃では、フーロイドの言った通り入学すら出来なかっただろう。

 にやりと、自然と笑みを浮かべたアランは自身の右腕を天に掲げた。

 それに呼応するかのように、天に広がった暗雲が風を生じさせて木々を揺らす。


「……ぐっ……!」


 直後、アランの脳裏をかすめるのは浅い痛みだ。

 天属性の魔法を使用する際に、アランは軽い頭痛を覚えることが多い。その理由は定かではないが、耐えられない物でもない。恐らく、暗雲が立ち込めて空気の気圧変化が起こるためだろうと、アランは推測を立てていた。

 天属性魔法を使うには、この頭痛に耐えなければならないことは織り込み済みだ。

 だから――。


 オートル学園入学式で、エーテルとの共闘時に放ったその大技。

 体内の魔法力の大部分を消費してしまうものの、その威力は絶大だ。

 暗い雲の中から雷を知らせる不吉な轟音が鳴り響く。全てのオーブルの目標を定めたアランは右腕を一気に振り下ろした。


「――雷神の落雷(ラッセ・アラン)!!」


 瞬間、天を裂くほどの轟音と共に、幾重にも分岐した落雷が森の中を的確に進み、残ったオーブル全てを弾き飛ばす



――はずだった。




 ―――――――。




「……がぁっ!?」


 突如アランを襲ったのは激しい頭痛だ。今までの痛みより、数倍も――いや、数十倍も激しい。

 頭を引き裂かれるかのような鋭利な痛みにアランの視界は一気にグラついた。

 無論、腕を振り下ろしてもいつものように落雷は振ってこない。それどころか先ほどまで天を覆っていた暗雲が見る影もなく去っていく。

 森に再び太陽の光が降り注ぐ。

 そんな中で――。




 ―――――。――――――。




「だ……ッ!」


 アランはがくりとその場に膝を付く。その様子をチャンスとしたのか、森の中のオーブルが一斉に茂みから五頭、姿を現しアランがいる方向へと駆け出していく。


「……どうしたアラン!」


 チッと小さく舌を打ったのはシドだった。額に冷や汗を搔きつつ、身体中の全エネルギーを足に集約させてオーブルよりも遥かに速い速度で膝を付いて頭を抱えるアランに駆け寄っていく。


「う……っぐ……ぁぁ……!」


 両腕で頭を護るようにしてその場にうずくまるアランの目線に歯、茶色い地面しかない。

 その光景さえもグラつき続ける中で、異変は続く。


 ―――。――――――。


 ギリギリと歯を食いしばるようにして空を見上げるアランだが、その先には何の異変もない。

 だが――。


「……何だよ……! 何だってんだ……!」






「――お前(・・)……ッ! 誰だ(・・)!?」






 声を大きく上げた瞬間、オーブルは大挙してアランを囲う。その鋭い爪の先で的確にアランを狙い撃ちしていた。


「おい、どうしたアラン! 聞こえるか……って、おい! アラン!」


 薄れゆく意識の中、アランの眼前では襲い掛かって来たオーブル五頭を一気に薙ぎ払って返り血を浴びながら。

 直剣を投げ捨てて地に伏せるアランに話しかけるシドの姿が見えた。


 ズキリ、ズキリ――。


 アランの頭を襲う謎の痛みは未だ止まらない。――いや、むしろひどくなる一方だった。

 身体が悲鳴を上げている。この世の全てが、アランを拒絶している。


「………くそっ!」


 アランの脳に直接的に聞こえてきたのは、何者かの()だった。

 だが、どんな言語で話しているのか、どんな声音で話しかけてきたのか、どんな者が話しかけてきているかなどはさっぱり分からない。

 ただ、()が聞こえた、という事実だけははっきりと理解できた。

 シドに何度も呼びかけられる中で、アランはゆっくりと自身の視界が暗くなっていくのを感じていた――。


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