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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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魔法特別進学科

 オートル学園魔法特別進学科。

 それは、入学試験で第一次試験をある程度の成績をあげ、重視される第二次試験で特に優秀な者を主として選抜された特別クラス。

 在籍人数は二十人。その中にはアランもよく知るエーテル・ミハイルやエイレン・ニーナ。更にはルクシア・シン、ユーリ・ユージュなどの面々も見られた。

 その他、学園側が当初特進科進学濃厚と見ていた剣鬼シド・マニウスや地属性刀使いのレイカなどの有力者の面々も特進科に在籍している。

 国中――果ては国外からも集められた有望多才な学徒達が二十人。

 他のクラスとは少々離れ、比較的オートル魔法科学研究所の近くに隣接された一教室の壇上に立っていたのは、一人の女性だった。

 「あー……今年は粒揃いだなぁ、おい」と、眼を飛ばすかのようにクイ、と目の付近に装着した器具を整えた。


「本年度、特進科を受け持つ第二担当宮廷魔術師――ナジェンダ・セルエルクだ。以後よろしく」


 短く綺麗に整えられた紫の髪。その長身に見合う踵まで伸びた白衣。白衣のボタンを留めていないため、大きな胸の膨らみが女性の大人の色気を一層加速させていた。

 白衣の上からでもわかるスタイルの良さ、白い腕と足はまさに理想的な大人の女性を呈していた。

 そんな中で、アランの隣に座るエイレンが、おずおずと手を挙げた。


「あ、あの……私たちの担任って、フーロイドさ……フーロイド先生だった気がするんですが――」


 そんなエイレンの質問に、「だから私が第二担任なんだ」と両目に装着した補助具のようなものをクイと手の平で持ち上げ、告げる。


「基本的に宮廷魔術師ってなぁそんなに暇じゃない。フーロイドの爺も一応復職扱いの宮廷魔術師だ。宮廷魔術師は魔法科学研究所(あっち)の貴重な研究員でもある。んな奴らが付っきりで付属学園こっちを見てられるわけねぇからな。しかも今回、爺の復職は異例中の異例――。まー、そんな奴が特進科担任こっちにずっと付きっ切りって訳にもいかんだろうよ」


 嘆息する形で溜息をついた女性――ナジェンダは、皆の異様な目線の先が自分の目の元の物だと気付いたようで、補助具のようなものを取り外してそれを指さした。


「あー……っと、これは『眼鏡メガネ』っつーオートルの開発品だ。いや、私昔っから魔粒病マーズってのにかかってんだよ。人間体外に放出した魔法が粒子みたいに見えるって難病でなぁ。誰かが魔法を使うたびに魔法の粒子が目の前を霞むんだ……。しかも面倒なことに、これ誰も魔法使ってなくても体内で循環する魔法まで見えちまうから生きた心地しねーんでな」


 そう告げたナジェンダは、補助具――眼鏡を目に掛け直した。


「これを付けることで、魔法粒子を屈折させて視界の外に飛ばすことが出来る。……というかこれを開発、研究させて貰うためだけに宮廷魔術師目指してなったんだ、私。だからこれ開発した時点でここ辞めても良かったんだが――今までいらないと思っていたこの無駄な力に使いどころを見出しちまってな」


 トントンと黒い出席簿のようなものを肩に打ち付けたナジェンダはにやりと笑みを浮かべた。


「発展途上の魔法流動をこの目で見ることが出来る。それも、優秀な奴等ならば特に魔法流動を完成させているのが多い――ということは、その流動の無駄を私が見て、矯正してやればお前等はもっと上のレベルに行けるってことだ。そういうわけで毎年特進科の担当をあてられている。……っと、こんくらいだな、私の自己紹介としては」


 言い終わったナジェンダは「ふぅ」と一息ついた。

 その第二担当の話に聞き入っていたのは特進科の生徒たちだ。

 自身の魔法や技術を高めるために入って来たその生徒たちにとって、眼前の教師が告げた一言一言が現実味を帯びて胸にストンと落とされていく。


「さて……っと、そんでもってだ。この特進科は他のクラスと大きく違う点が三つばかりある」


 そう言って第二担当のナジェンダは三本指を立てた。


「一つ、このクラスともなれば、そもそもの加入条件が『冒険者ハンターギルド』への登録が必須だった。その理由はここにある。何せ、粒揃いの特進では既に幾人もの生徒が指定任務、上級任務を請け負っているのが多い。お前達は一人の学生である前に一人前の『冒険者証明書ライセンス』を取得した冒険者ハンターでもある。だからこそ、緊急要請を受ける生徒も増えてくる。授業中での指定任務――それも緊急要請の場合は、後で手続きを提出してれば勝手に抜け出してくれてもいいことになってる」


 ナジェンダの言に、アランのもう一方の隣に座っていたエーテルが「へぇ」と相槌を打った。

 確かに、海属性魔法使用者としてエーテル・ミハイルの知名度は抜群だ。

 冒険者ハンターギルドには何度も多額の金を積んでエーテルに依頼を出す者もいるほどだ。

 そんな緊急要請型指定任務や通常型指定任務を多く受け持つエーテルにとってこれは朗報とも言えるだろう。


「第二に、この教室がオートル三大機関の一つであるオートル魔法科学研究所に隣接されている理由にもなるのだが、お前達は魔法科学研究所で研究開発された試験魔法具の使用が多くなると思う。現在市場に流通している魔法具は、過去にこの特進科が試用を担当し、負荷、使役試験に合格した物が元となっていることが多い。基本的に入学時から様々な項目で高評価を得ているお前達だ。魔法具への魔法注入循環も滞りなく行える場合が多いからな。なんにせよ、研究所の開発も完全じゃあない。耐久値、使用難易度も試さずに市場に通すことは不可能だからな。主にお前達が協力する場合はその魔法具の雛形がほとんどだ。だが安心しろ、危険な魔法具試用は絶対に行われないことを約束しよう。まぁこんくらいか……?」


 ――と、語り終えたナジェンダが眼鏡をクイと引き上げる。

 言葉の節々でエイレンが険しい顔で自身のポケットに手を突っ込んでいたのをアランはふと確認していたが――。


 ――それだけの下級任務をこなしたお主ならば、もうワシの名を貸さずとも問題なかろう。


 オートル学園に入学する前、フーロイドに言われたことを頭の中で反芻するアラン。

 アランは、しばらく前までは『フーロイドの名のもとに』任務をこなしていたが、下級任務達成実績が百を超したあたりから少しずつ上級任務にも着手するようになっており、少しずつではあるがお得意さんとの関係も含めて指定任務もちらほらと舞い込むようにはなってきた。

 その大部分を天属性を使わずにリストバンドを嵌めて対応しているアランだったが、それなりの実績を積んでいる。

 だからこそ、『オートルの名のもとに――』という文言が使われることはなくなった。

 そんなことを脳裏に浮かべつつ、壇上の第二担当ナジェンダを見据えるアラン。


「そして三つ目。一年次最後に行われるオートル学園伝統の『模擬戦争試験』。全クラスを合わせた上位十名の生徒たちが学園内の仮想バトルフィールドで繰り広げる最終試験だ。アルカディア王国に現存する四人の『魔法術師』と呼ばれる英雄たちも皆、この模擬戦争試験を勝ち抜いた者達だ――。模擬戦争試験の最終勝者になれば、オートル学園を飛び級卒業という名誉が与えられる他、将来も随分安泰となるだろう。その魔法術師四人は皆、模擬戦争試験の最終勝者ってのは、有名な話だ」


 ――と、一息を入れてナジェンダはクラス全体を見回した。


「だが、勘違いするな。今の魔法術師が皆、この特進科から輩出されたわけではない。入学時点での総合成績ではお前たちが上かもしれないが、一年後――下のクラスの奴等がお前達の実力を抜かし、模擬戦争試験出場資格を獲得し、最終勝者となることだって十分ありえる。それを念頭に置いたうえで、この一年間をどう過ごすか、どう自らのスキルアップに努めるかを考えておいてほしい――以上。特進科の大まかな説明は終わりだ。っつーわけで私はちょっと煙草吸って来るからあとは自由にしな。今日は授業もないしな……」


 眠たそうに伸びをした第二担当教師――ナジェンダは小さな欠伸と共に特進科教室を後にした。

 先ほど一気に緊張の糸が張り巡らされた中で一瞬でそれをぶつ切りにして出ていった教師に皆も緊張が解けたようだった。


 こうして、アラン・ノエルの学園生活は遂に幕を開けたのだった――。


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