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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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プロローグ:師の背中

 第六十七期オートル学園入学式。

 その壇上に、魔法特別進学科の講師として呼ばれたのは、アランもよく知る人物だった。


『今年度の特進科を担当することになった、フーロイド……否、フーロイド・ミハイルじゃ』


 入学式も終わり、全員が各々割り当てられたクラス教室に向かう中で、難しそうな顔をして廊下を歩く人影が三つ。

 一つ――肩まで伸びる透き通るような茶髪を風に揺らしながら、なおも不安そうな表情で横の少年を見つめる少女、エイレン・ニーナ。

 一つ――後ろで縛った藍色のポニーテールをふるふると動かし、顎に手を当てて「ミハイル……ミハイル……?」と怪訝そうに呟き疑念を抱く少女、エーテル・ミハイル。

 そしてもう一つ――真っ黒な髪と瞳。そこから疑問と困惑、その全てが入り混じった様子で何度も首を傾げる少年――アラン・ノエル。


 まさに三者三様と言った様子で廊下を歩く三人だった。

 歩みを進める三人の中で、最初に気まずそうに右手を挙げて話を切り出したのは、エイレンだった。


「えぇっと……何で、フーロイドさんがここにいるんだろうね。それに、担任の先生って、こんな珍しいこと、あるんだね……ねぇ、アラン君、エーテルちゃん?」


 ふと。アラン、エーテルの方を振り向いて笑顔を零したエイレンに、エーテルは険しい顔を崩せなかった。


「ウチの近親者にまだ『ミハイル』姓の人間がいるなんて、聞いたことなかったわ……。もう、何が何だかさっぱり分からない。それに、あんなお爺さんが突然オートル学園に赴任、そしていきなり宮廷魔術師として特進を担当するなんて、タダ事じゃないわ。二人とも、あの人を知ってた素振りだけど……?」


 そう、顎に手をやり考え込むエーテルにアランが「知ってるも何も、俺の師匠だよ」と前置きしたうえで、左右に首を振った。


「だけど、ここに赴任するなんてことは一度も聞いたことがない。ついこの前までは普通だったしな。挙句の果てにルクシアさんは副担任と来たし、訳が分からん」


「確かに、ルクシアさんまで来るとは思わなかったね……。でも、あの二人に教えてもらえるのはいいことじゃないかな? 私も、フーロイドさんとルクシアさんのおかげで、大分魔法が上手くなったから……」


 そんな他愛もない会話を繰り広げる三人。

 その中でエーテルが、更に考え事が増えたかのように「ってことは、アランが試験の時に言ってたルクシアさんって、あの副担任……!」と呟いた。

 そして、壇上で挨拶を施したルクシア・ネインという人物を頭に浮かべる。

 翡翠のロングストレートに尖った耳、紅の瞳。

 そして慎ましくも高貴な服装に身を包むが、胸は比較的大きい方だった。


「……」


 ふと、エーテルは自身の両手を胸にやって、考え込んだ。

 小さすぎず――だが、まだまだ発展途上ともあって外からはあまり大きく見えないその両胸を確認したエーテルは恨むかのようにアランを睨みつけた。


「胸なのね! あなたも所詮女を胸で判別するような奴だったのね!?」


「……何言ってんだお前……」


「あ、あはははは……」


 しれっと自身の胸を確認するエイレンは、安心したかのように「ほっ」と一息を入れた。

 それに気付くこともないアランと、エイレンが持つ比較的大きな胸に絶望を覚えたエーテルが頭を真っ白にして廊下を歩いて自分たちの教室に差し掛かった――その時だった。


「……っふぉっふぉっふぉ……。やはり若い娘はいいものじゃのぅ。魔法も、乳も、尻も、発展途上の物に限るわい」


「何をおっしゃっているのですか、フーロイド様。公衆の面前ですよ?」


「細かいことを言うでない。今までワシの近くにおったのは人妻と年増だけじゃろうて」


「……まさか年増とは私のことではありませんよね?」


 アラン達の眼前に現れた一組は、まさに先ほど入学式の壇上で異例の挨拶を交わしたフーロイドとルクシアだった。


「…………」


 そんな二人にアランは無言で近寄っていった。


「……先入ってるわよ」


「あ、あ、えっと……私も先に行くね、アラン君!」


 何かを察したかのようにエーテルとエイレンが、一年の特進科教室に入っていく中で、フーロイドが迫り来るアランの様子に気が付いたようで表情を硬くした。


「――なにか用か……と言うのもいささか無責任かもしれんの」


 フーロイドは、それ以外に何もアランに話そうとはしなかった。

 ルクシアも歯切れが悪そうに二人の様子を見守るばかりだ。


「まさか、『ワシの力はもう及ばない』――だの言ってた人が乗り込んでくるとは思わなかったよ。最初からこのつもりだったんなら、言ってくれたらよかったのに。いつから決まってたの?」


 アランとしても、特に責める気はない。というよりも、純粋な疑問が頭の中を駆け巡る中で、ルクシアは意を決したように両の拳をぐっと握りしめた。


「ふ……フーロイド様は――」


「――お主が受験をする前くらいかのぅ」


 ルクシアの声を遮るかのようにして、フーロイドはにこりと笑みを浮かべた。


「前もって言ってしまえば、面倒なことになるでな。所謂守秘義務というやつじゃよ……っふぉっふぉっふぉ。ただし、お主にどんな目標があるとすれどワシはお主を他の者同列に扱うことを約束しよう。特別扱いなど、するはずもない。……覚悟することじゃ」


 挑戦的な笑みを浮かべるフーロイドに、アランはにやりと笑みを浮かべて「上等だ……!」と口角を上げた。


「授業が始まるぞ。お主だけ友達作りに遅れても知らんぞよ?」


 フーロイドが指し示す先は、特進科の教室。そこでは二十名の少数精鋭のクラスメイトたちが自己紹介を交し合っていた。


「……っと、ホントだ。じゃーな、フー爺!」


 いそいそとアランが教室に入ると同時に、今まで口を出せずにいたルクシアが心配そうにフーロイドを一瞥した。


「い、いいんですか? フーロイド様……」


 ルクシアの一言に、フーロイドは堅い表情を少しも和らげずに呟いた。


「お主……必ず黙っておけ。この経緯(・・・・)については、誰にも言うでない」


 そう言って廊下をパタパタと歩く師の背中が、ルクシアには異様に小さく思えたのだった。


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