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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第二章 オートル魔法科学研究所 (前編)
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エピローグ⑤:先へ進む者達

 王都レスティムにピンク色の花びらが舞い落ちた。


「……いよいよ、か」


 ふと、呟いたアランは自分の眼前に聳え立つ三つの機関に足を踏み入れた。

 オートル魔法科学研究所、中央管理局、オートル学園。

 王都レスティムを――いや、アルカディア王国を支えると言っても過言ではないこの巨大な研究、統治、教育機関に集まるのはアランと同じ第六七期オートル学園入学生だ。

 あのひと冬。合格通知を――それも、魔法特別進学科を受け取ったアランだったが、フーロイドの表情は芳しくなかった。

 もっと褒めてくれてもいいだろうとは思ったものの、むしろファンジオとマインによる褒め殺しが行われていたために気にしていた程度ではあったが。

 思いの外フーロイド、ルクシアの反応が良くない中で迎えた入学式。


 オートル学園は高等部から全寮制になる。つまり、アランはもう家には帰らなくなる。

 本格的な春季、夏季、秋季、冬季休暇以外はオートル学園附属の学生寮で魔法術を磨く毎日に勤しむことになる。


「これでしばらくは会えなくなるんだよな……フー爺とも、ルクシアさんとも」


 今日、入学式を出る際に二人に発した言葉だったが、苦笑いを浮かべていたことが脳裏に過ぎる。

 ふと、オートル学園の門をくぐった先にはたくさんの人の姿。

 よく見れば、オートル受験の際に相対したルクシア・シンやその付き人もほかの者とは一線を画す雰囲気を醸し出している。

 他にも、集団の中にいても存在が際立つ者は多い。

 一次試験で出会ったアランの隣にいた不思議な剣を持つ少女に、はしゃぎすぎて石壇に腰を打ち付けて悶絶している者もいる。

 そんな中で、アランの後頭部を軽くチョップして現れた一人の少女。


「おぉ、エーテル」


「ひさしぶり、アラン。あれからサボったりしてないわよね?」


「任務受注八七個。というわけで下級任務以外にも中級任務、指定任務も来るようにはなったかな」


「……ふーん。案外順調なのね」


 藍色のポニーテールを春の風にたなびかせて少女――エーテルは学園に高く聳えたつ中央闘技場の時計をちらりと一瞥した。


「そういえば、あなたクラスは?」


 そのエーテルの問いに、アランはにやりと笑みを浮かべて「特進だ」と呟いた。


「ふ、そう来なくっちゃね。もちろん私も特進科。お互いいい一年になるといいわね」


 そう告げてアランの手を引っ張って、入学式が行われる広い中央通りに向けて走り出した二人だった――。


○○○


 闘技場は、ホール型をしていた。

 よくそこで楽器練習が行われると聞いていた中で余興ともとれる音楽が小さく、そして美しく奏でられている。

 入学式が行われるこの中央闘技場では、壇上は円型になっておりライトも完備されている。

 通常はこの場所で魔法訓練を施しているそうだが、今日に限っては入学式仕様にしているみたいだった。

 普通科、魔法科、魔法特別進学科の三つに分けられたそこで、アラン達は左端に配置されていた魔法特別進学科の方へと赴いた。

 そこにはおおよそ二十名と少し――他の科よりは圧倒的に少ない数の生徒たちが備え付けられた椅子に着席している。


「ユーリ・ユージュ……」


 エーテルが眼を飛ばした先で主に寄添う形で護っているのはユーリ・ユージュ。


「ルクシア・シンか」


 その横では華麗に団扇で自らを覆う幼げな少女――ルクシア・シン。

 アランが一瞥すると同時に、彼女たちもその目線に気付いて小さく邪悪な会釈をした。


『ただいまより、オートル学園第六十七回入学式を執り行います。まだそれぞれの科の席に着いていない方は速やかに――』


 着席を促す音声案内が場内に響き渡ると同時に、不服ながらもエーテルとアランは椅子に座っていく。

 前方の席にはユーリとルクシア、そしてアラン達の後方には不思議な剣を持った少女が座る中で、息を切らせながらアランの隣にやって来た少女がいた。


「お、遅れました……! あ、アラン君……隣、空いて……!?」


 胸に手を置きながら息切れを直そうとする少女に、エーテルは「誰? この子」とアランに耳打ちするように呟いた。


「あぁ、久しぶり、エイレン。というか、エイレンも魔法特別進学科なんだな」


「うん、運よくね……。一次試験の全科目が満点だったっての、加味してくれたみたいで……!」


「満点!? あなた、一次試験で満点も取ったの!?」


 そのエイレンの言葉に驚愕したエーテル。言った途端に「ハッ」と口を手でふさいだエーテルに、エイレンは短く自己紹介をした。


「エイレン・ニーナです。アラン君とは同じ村の出身で……。これから、よろしくお願いしますね」


「あ、あぁ……えっと、私はエーテル・ミハイル。この国の未来を背負う者の名よ。よろしく」


 二人が、アランの眼前で握手を交わす中で、辺りは暗闇に包まれた。

 代わりに壇上に上がったのは、アランもよく見覚えのある人物――三大機関の長であり、エーテルの父親でもあるオートル・ミハイルだ。

 彼が壇上に上がると、エイレンもアランの隣に着席した。


「えー、この度は我がオートル学園への入学、心より歓迎しよう」


 病弱そうな体つきをしたその男性の言葉の一つ一つに会場中がピリとした絶妙な緊張感に覆われる。

 それもそうだろう。アルカディア王国発展の礎を造った人物だ。世界中でもかなりの有名人が目の前で話しているとなると、生徒たちの緊張も一気に高まっていく。


「さてさて。そんな中で、早速――各科の担当講師を紹介させて頂こう」


 壇上でふと呟いたオートルの言葉に、アランは「担当?」と首を捻らせた。

 その様子に、エーテルは嘆息する。


「大体一クラスに一人は担当講師が付くのよ。まぁ、例年魔法特別進学科(ウチ)は魔法科学研究所のトップ層――宮廷魔術師が担うけどね」


「他は違うのか?」


「魔法科だと宮廷魔術師よりは少しランクが下がるし、普通科はそもそも中央管理局の講師から引き抜かれるの。それほど、私たちはここにいる責任があるのよ」


「……なるほど……そんなもんか」


 アランとエーテルの会話が終わると同時に、壇上で「では、最初は魔法特別進学科――通称、特進の担当をする講師からご紹介をいただきましょう」


 ――と。

 そんなオートルの発言と共に、舞台脇から出てきた人物は――。


「……あ、アラン君……! あの人って……!?」


 エイレンが驚きを隠せないようにアランの肩を叩くが、アランは言葉すら出てこなかった。


「あー……んー……ゴホン。今年度の特進科を担当することになった、フーロイド……否、フーロイド・ミハイルじゃ。左におるのは助手のルクシア・ネイン。王国の礎となる若人わこうどよ。ここで存分に技術、知識を磨くとよい」


 突如出てきたその老人と、耳の尖ったエルフ族の女性に、エーテルは「ふーん」と小さく呟いた。


「『ミハイル』……ね」


 意味ありげに呟いたその一言に、エーテル自身が訝しむ中で。


「おいおい……どういうことだよ……何であんたがそこにいるんだよ……! フー爺!!」


 アラン・ノエルは運命の渦に着々と身を投じつつあった――。


面白い、続きが気になる、作者頑張れ!と思っていただけたら是非とも新しくなった★評価(この話の下部から出来ます)、感想など宜しくお願いします!

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