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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第二章 オートル魔法科学研究所 (前編)
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昼食

 長いようで短い二時間だった。

 もともと、フーロイドはアランをオートル学園に入れるつもりだっただけあって、勉強面ではあまり苦労してこなかった。

 だが、入学時期を早めたのもあり、アランのここ半年の努力だけでは一次試験を突破できるかどうかはかなり怪しいところだった。


「……くぁぁ……」


 解答用紙がまとめて回収されて、一次試験の終了が告げられる。

 アランとしては全力を出しているつもりだった。試験中は無我夢中で気づかなかったが、いざ終わってみると身体が一気にだるさを主張し始めていた。


「これで午前の部は終わりです。次は午後二時から行われる二次試験。それまでは各々、しかるべき準備をしておくことをお勧めします」


 そう言ったのは、試験開始の合図も担当した初老の試験官。

 試験官が退室すると同時に辺りはザワつきを取り戻す。一種、張り巡らされた糸がプツンと切れたかのように静寂から喧騒へと移り変わる様は、いかにも受験会場特有のように思えた。


 そんなアランの隣ではふと、目を閉じて考え込んでいるらしい一人の少女が長机に立てかけられている武器を手にした。

 カシャリとなったその長細い剣であろうそれを持ったその少女は、長い黒髪をふるふると振って、まるで何らかの悪いものでも払うかのようにして席を後にする。

 アランに背を向けて広い受験会場を出ていくその姿は、凛としたものだった。

 他の受験者とは違う、独特で、異質な雰囲気を醸し出すその黒髪の少女をアランはじっと見つめていた。


「そういや、ここには学食があったな」


 アランは、以前にオートルから案内された場所を思い出す。

 学生食堂――通常、学食と呼ばれる憩いの場。

 そこでは、授業後の昼食などを比較的安く振る舞ってくれる学生御用達の食事場だ。


「――行ってみるか」


 実際にこの前に案内されていた時は、生徒が大勢いて利用することは叶わなかった。

 だが今日は受験者以外の生徒は見当たらない。ここの受験者も同じことを考えているだろうが、早めに席を取るに越したことはない――。

 そう考えたアランは中央管理局外に出て、オートル学園に向かっていた。

 中央管理局組、オートル学園組、魔法科学研究所組が一斉に学園内の学生食堂に向かっているらしく、混雑気味だったその人混みの中で誰かがアランの服を引っ張っている。


「こ、こりゃ無理そうだな……」


 ふと呟いたアランだったが、ふと右後ろからは「アラン、ちょ……聞いてる?」となおも服を引っ張る者がいる。

 流石にアランも無視し続けることは出来ずに注意を施そうと右後方を見ると――。


「こっち、人多いでしょ? 人少ないところから食堂に入れる裏道あるの。そっち行きましょう」


「え、エーテル……!?」


「驚くのはこっちの台詞。何がオートル学園なんて知らない、よ……。思いっきり受験しに来てるじゃない」


「そ、そりゃ……まぁ……」


「とにかく、ここじゃ周りが邪魔だわ。付いてきて」


 そのままがしと手を握られてアランはエーテルに連れられて行く。

 揺れる藍の一房の髪が何故か張り切っているかのように揺れ動く。

 実際にエーテルの表情を見ることはままならないアランだったが、エーテルの耳はほんのりと赤くなっていた。


 ――と、その時だった。


 ふわりと、アランの眼前に入ったのは見知った顔に似ていた。

 制服指定がない今現在の状況からは到底判別はつかない。

 肩まですらと伸びた澄んだ茶の髪に伸びた鼻筋。凛とした表情に少し陰が感じられる円らな瞳に華奢な体躯。

 ふと、アランは一瞥された気がした。

 だが――信じられなかった。

 ここにいるはずがない。

 あの村から、出たのか? わざわざオートルに? でも、何故?

 様々な憶測が脳裏に浮かんでは、消えていく。

 エーテルに手を引かれるままにアランは足を動かすが、すれ違い様に確かに、麦わら帽子を被り、白いワンピースに身を包む少女の姿が透けて見えた。


「え、エイレ――」


 アランが少女を呼び止めようとするも、その少女はすれ違ってからはアランの方へ顔を向けることはなかった。


○○○


「さっきから妙に浮かない顔してるわね」


 食堂に着いたエーテルとアラン。

 食堂への道をショートカットしたため他の人たちの混雑を受けずにささっと入れた二人は円型机に対になって座る二人の前にはそれぞれが取った料理が添えられている。

 アランの場合はごく単純に日替わりで出される定食。

 アルカディア王国における一般的な主食であるサモと呼ばれる食物を炊いたもの。毎年秋に収穫される一粒一粒が細かい白い食物は、今のような冬では湯気をもくもくと上げている。

 それに加えて豆を発酵させたムタと種々の野菜から作られるムタ汁、そして筋肉狼マッスルウルフのステーキ。そして野菜にタレを付けたものの四品。

 エーテルは麺類のローレインをつるつると喉に流し込んでいる。


「この期に及んで、二次試験に緊張しちゃったとか?」


「さぁな、もしかしたらそうかもな」


 別段話すことではなかろうと、アランはエイレンのことは何も言わなかった。

 それに先ほど見た少女が、たまたまエイレンに似通っている別人だという可能性も充分考えられる中で、昔のことを思い出しても意味がないと思ったからだ。

 そんなアランの様子を怪訝そうに一瞥するエーテルだったが、「まぁいいわ」とその場を流すかのようにローレインの出汁を飲み込む。


「ここを受験するからには、私は絶対に合格する。もちろん、親のコネなんて下らないものを一切使わずにね」


 そう言って、エーテルは続けた。


「だからこそ、こんなところであなたに躓いてもらっちゃ困るのよね。あなたがいないままに私が入学したとして、年の最後の模擬戦争試験に勝ち残っても、何も勝った気はしないもの」


「……すげー自信あるんだな」


「当たり前よ。私はこの国の未来を背負う者よ。これ以上の負けは許されないわ。だからこそ、あなたが(・・・・)いる(・・)オートル学園で生き残らなければ、何の価値もない」


 そう切り捨てたエーテルはふと遠い目をした。


剣鬼ラグールだか、シチリア皇国の王妃継承者だとか、武士モノノフだとか、海属性魔法使用者とか、未知の魔法使用者とか……。世間は散々に騒ぎ立ててるわ」


「未知の魔法使用者って……魔法に未知も何もあるのか?」


 アランの問いに目を丸くしたのは、エーテルだ。


「いや……未知の魔法使用者って、あなたのことだけど」


「……は?」


「突如現れた新星。かの神童エーテル・ミハイルの海属性魔法を完全に封じた男がオートル学園に参入するのも近いうちだって。憎い噂が水面下では流布してたのよ」


「成程ね、俺も有名人ってことか……」


「そんな悠長には構えてられないわよ。何なら午後の試験、一番に狙われるのは私たちのような『実力者』扱いされる人よ。何せ、ここで私たちを蹴落としておけば本番の模擬戦争試験でかなり優位になる。だからこそ、この試験は私たちにとっては鬼門なのよ」


 エーテルは空になったその器を見てぽつりと呟いた。


「アラン・ノエル。絶対に合格を勝ち取るわよ……。あなたのいる学園で私が一位になる。これを果たさないことには私の受けた屈辱は覆らない」


 確固たる目つきをした少女は、じっとアランを見据えていた。

 


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