表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第二章 オートル魔法科学研究所 (前編)
48/119

アステラル街

「な、何が……起こったんだ……っ!?」


 アランは、チカチカと目の前が点滅しているかのような錯覚に陥っていた。

 何が起こったのか全く分からない中で、アランの眼前に広がっていたのは薄暗い場所だった。

 空気が汚れているのか、太陽の光もあまり届いていない。

 ふと周囲を見渡してみると、ボロボロの布地に身を包んだいくらかの子供がアランをじっと見つめていた。

 アランがその子供の方向に足を動かしてみるも、子供たちはアランに対して恐怖でも感じているかのようにそそくさと逃げていく。


「……どういうことだよ……」


 歩くたびにアランが感じるのは電撃のような感覚。

 ピリピリとした痺れるような感覚が頭の先からかかとの奥まで突き抜ける。


 ――ここは、さっきいたとこと違うのか……?


 上空を見ても、先ほどいた龍鷲アイアンの気配はどこにもない。

 それどころか、アランの右手に納まっている今はしおれた藍の花は周りを見回してもどこにもない。

 眼前にある埃をかぶった看板に寄ってみて、それを手で払いのける。


「アステル……いや、アステラル街……? す、スラムじゃねえか……!」


 灰色の埃を被った見えにくい看板を手で擦ると、そこに書いてあったのは『アステラル』という小さな街だった。

 それは、アルカディア王国が王都レスティム。その一番東端に作られたと言われるゴミ捨て場。

 多くの人々が密集する王都レスティムはここ最近でかなりの人口が増えたと言われている。

 その中で噴出する問題に、ゴミ廃棄場をどこにするかということが持ち上がった時期があったことはアランも知っている。

 更には、そのゴミ廃棄場に集まってきた貧しい人々が一大スラムを築き上げているとも。

 いわば、ここアステラル街はゴミ廃棄場兼国家が暗黙の了解として認めているスラム街である。

 もちろんそこには国家の法など一切通用しない、無法地帯でもあった。

 

 看板を見たアランの胸中は穏やかではなかった。

 先ほど王都外で龍鷲アイアンを狩猟しようとしていた時は、アステラル街とは全く真逆の最西端にいたはずだったからだ。


「だとしたら……俺は一瞬でレスティム最西端から最東端に来たってことになるのか」


 アランは自身の服のうちをごそごそといじり始める。

 だが、転移魔法アイテムの結晶は未だに一つ残っている。

 転移魔法アイテム結晶によって人が転移できるのは一つの結晶に付き一度だけ。

 ともすれば、転移魔法結晶以外の何らかの外的要因によってここまで飛ばされたことになる。


「うー……ん? わっかんねぇ……。とりあえずここから出ないと……」


 看板から目を離したアラン。

 いかにも古いその看板をもう一度一瞥しようとしたアランが、振り返って進もうとした時だった。


「っと……すいません」


「こちらも不注意ですからのう、お互い様ですわい」


 アステラル街の住人なのか、優し気な瞳をした白髪の老人がアランとぶつかった。

 その出で立ちは、スラム街出身ともあって薄汚いこげ茶のローブを頭まで羽織っている。

 その姿に、アランは初めて王都に来た時に出会ったフーロイドを連想させていた。


「ふぃっふぃっふぃ……。あなたのような若い人がここに来るとはまた珍しいですな」


「まぁ……その、手違いと言うか……何と言うか……」


「出口ならば向こうにありますぞ。見たところ、王都暮らしのようですな。あまり近寄らない方が良かろうてな。何にせよ、気をつけなされ」


 ローブを被ったその老人の口元に、しわがれた笑みが浮かんだ。


「あ、ありがとう……ございます」


 アランはゆっくりとアステラル街の奥へと歩みを進めるその老人に一礼を送った。

 老人が指さした方向へと歩く中で、小さな川に差し掛かる。

 そこに掛けられた橋を歩んだ先には、ここの出口が見えた。


「……ここからなら、さっきのところまでは走れば一時間か。くっそー、結構なロスだぞ……! 今日の任務受注は二回が限度かー」


 徐々に人の動きが活発になっている頃だろうと、アランは頭を悩ませていた。


 ――考えてても仕方ないか……。


 腹を括って、アステラル街の出口へと走っていたその最中だった。


「……アラン・ノエル?」


 ふと、自身の名を呼ぶ声が聞こえて隣を見つめる。

 するとそこにいたのは一人の少女だった。

 今、アランが何気なく右手に持っていた藍の花と全く同じ髪の色を持つその少女は――。


「え、エーテル・ミハイル……だったよね?」


 エーテル・ミハイル。

 その少女は煌びやかでもなく、質素でもない服装に身を包んでいた。

 そんな彼女は「何してるの、こんなとこで」と先ほどの警戒を解いたかのように後ろで束ねた髪を振っていた。


「何してる……って言われても……まぁ、いろいろ? むしろそっちこそ何してるんだ?」


 王都レスティムの最東端から最西端に瞬間移動するところだ――などと言っても信じて貰えそうにないな、と苦笑いを浮かべたアランは足を止める。

 未だにゴミが散見するその場所でも、何も顔を崩さないエーテルはふと呟いた。


「任務よ、任務。それも緊急――あ、あとは指名された……って感じの」


「緊急……? 指名……?」


「ええ。依頼主は王都でも生粋のお金持ち。多額のお金を積んで私に直々(・・)に依頼を飛ばしてくれたの。さすが、この国の未来を背負う者が誰かを分かっているのね!」


「……そ、そうか……そりゃまあ……大変だな」


「とにかく、今はあなたの相手をしてる場合じゃないわ。というか、ここは基本的に立ち入り禁止区域なんだから一般人がうろちょろしていい場所でもないわ。私があなたに出会ったことは内密にしておいてあげるから、帰った方がいいわよ」


 エーテルは額に浮かんだ汗を右手で拭った。


「あぁ、分かってるよ。ここ、言ったら何だけど結構臭うから気を付けろよ」


「抜かりはないわ。この程度の任務、十分もかからないうちに終わらせられるもの。正直、私もここの空気は合わないようだから早く任務を完遂したいのよ」


 そう言って、エーテルは右手に握っていた一つの円型上の小さな装置を眺め見た。


「……発信機つけてあるって言ってもアストラル全体を指してどうするのよ、使えないわねー……!」


 何かと忙しそうなエーテルを横目に、「んじゃな、まぁ頑張れ」と一言告げたアランは彼女に近づいた。


「縮尺は……って、これで最大!? 一メートル以内……ってことは……」


 小さな円型上の装置を見つめて頭を抱えるエーテル。

 龍鷲アイアンを仕留めるには麻帆具銃が必須だと判断したアランは、左腰に据えられた銃を一度確認してアステラル街の出口へと向かう。

 何かのトラブルがあったのかと勘繰るアランではあったが、エーテルの様子に苦笑いを浮かべるしか出来ずにいた。

 そうするうちに地面に俯くエーテルとすれ違った――その瞬間だった。


「待ちなさい、アラン・ノエル」


 アランの右手が、エーテルの左手に捕まれていた。

 エーテルの手はひどく冷たかった。華奢なその手は確固たる意志が宿っているようにアランは感じた。


「……どした?」


 ふと、アランがエーテルを一瞥しようとすると、そこには右手の上に膨大な魔法力を集約させつつある少女の姿があった。


「どした? よくも……よくも平然とした顔でそんなこと言えるわね、あなた……ッ!」


 ゾワッ


 エーテルの眼光はギラリとアランを睨み付けていた。


「――っ!」


 その魔法力は、明らかにアランに向けられた敵意を示していた。

 それに気づいたアランは本能の赴くままにエーテルの手を振りほどき、彼女と真正面から対峙する。


「な、何だよ……! その魔法、どうするつもりだ……!?」


 アランのその物言いに、エーテルは歯をギシと鳴らしたうえで、魔法力を集約させた右手をアランに向けた。


「この国の未来を背負う者として、あなたのような犯罪者(・・・)を見過ごすわけにはいかないわ! 神妙にお縄につきなさい! さもなくば深淵なる海の力を持ってして、エーテル・ミハイルの名のもとにあなたを強制的に捕縛します!!」


「……は?」


 アランの素っ頓狂な声が、アステラル街に木霊した――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字⇨ 鷲アイアンを仕留めるには麻帆具銃が必須だと判断したアランは 正⇨ 鷲アイアンを仕留めるには魔法具銃が必須だと判断したアランは
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ