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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第二章 オートル魔法科学研究所 (前編)
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初めての任務

 アランが十五歳と言う節目を迎えてから二日が経った。

 成人まではあと三年。成人してからでは完全独り立ちとなる身でもある上で、この三年間は非常に大事な時期でもある。

 通常王都に住まう者ならば特殊な例を覗き、高等部三年間を過ごした後に進路決定をしてそれぞれの道へと進んでいく。

 だが、アランはまさにその特殊な一例である。

 フーロイドも今までと変わらずに中等部、高等部は行かなくても良いとの判断をしている。

 自らの師の方針に従うことは絶対であることは以前より常々ルクシアに教わっている。


「……とりあえずは、任務かな」


 アランに割り当てられたのは一つの任務。

 フーロイドから手渡された紙に魔法力を注入し、任務を受注したアランの手の元にあるのは二つの転移魔法アイテムだった。    

 やり方を教わった通りに、手のひらサイズの翡翠の結晶である転移魔法アイテムに微弱の魔法力を注入。

 すると、彼の周りに円型上の白い光が姿を現した。


「おおー」


 アランとしては、六歳から常々フーロイドとルクシアが来宅、帰宅するときに使っていたためにあまり驚きはなかったものの、いざ自分が使ってみると感慨深いものがあった。

 そんなアランの目の前にはフーロイドとルクシア。


「比較的簡易な任務じゃ。魔法の出力調整もちゃんと行った。周りの建造物を壊さない程度にやって来るがよい」


「帰ってきたら初任務の祝杯をあげましょう! アラン君、きっと成功させて帰ってくださいね! 私が手間暇かけたお祝い料理を振る舞って――」


「結構です」「結構じゃ」


 そんなアランとフーロイドの必死の静止の数秒後――。

 アランはふと、姿を消したのだった。

 現れた白い光を全て吸収したアランは、転移魔法アイテムによって場所を転移させられたのだ。


「……アラン君、大丈夫でしょうか? 初任務ならば採集任務で事足りるものを、いきなり討伐系の任務にして……」


 ルクシアの不安そうな発言を慮ってか、フーロイドはいつものように「ふぉっふぉっふぉ」と弟子の肩をポンと叩いた。


「奴がこの一任務の中でどれだけ(・・・・)気付くか、見ものじゃのう」


「フーロイド様の偉大さも、やっとこれであの子も分かるでしょうね」


「奴ならば、成し遂げる。ワシの目に狂いはないと自負しておる。もちろん、お主もじゃがの」


「私も……ですか」


「お主もやらねばならぬことは山ほどあろう。『ルクシア』襲名代理戦。これのためにワシの元に来たんじゃろう?」


「…………はい」


「シチリアの土地にまでワシの名が轟くとなると、胸が高まるわい。ワシを落胆させるでないぞ、ルクシア・ネイン」


 フーロイドは再び杖を持ち直して扉を開けた。

 その師の後ろ姿を見たルクシアは、小さく一礼を施したのだった。    


○○○


『依頼名:筋肉狼マッスルウルフの群れを追い払ってください

 依頼者名:エインドル村

 依頼理由:我が村を取り囲むエインドル森周辺に筋肉狼マッスルウルフの群れを確認しました。彼らは非常に獰猛且つ繁殖期に入っております。メスは子を身籠っている可能性は高く、我々が森に一つ踏み入れば群れのオスが集団威嚇してきます! 外部の森から逃げて繁殖した外来種のようなので、元いたエインドル森の生態系も破壊されつつあります。筋肉狼マッスルウルフの群れの討伐をお願いいたします!』


「……ってことですね。依頼書は拝見致しました」


 アランが着いた場所は地図上で言うと王都からしばらく離れた場所にある。

 近くを見渡してみれば、数十キロ先にはアーリの森が見える。

 どちらかというとアランの故郷に近い場所でもあった。

 そんな中でアランの眼前には複数の人が立っている。

 その筆頭でもある杖を付いた白髪の老人は、アランの出で立ちを見て苦笑いを浮かべる。


「して、あなたが依頼を受けて下さった方ですかな?」


「はい。この度依頼を受けさせていただくアラン・ノエルと言います。どうぞよろしくお願いします」


 アランは、辺り一帯を見回す。

 クスクスと笑っていたり、何か不安そうな相談を老人の後ろでしている様子に怪訝を示すアランに、代表者であろう老人は「少し質問をよろしいかな?」と険しい表情を見せた。


「この依頼は危険を伴うものじゃ。ちと……あなたは若すぎるんじゃないかのぅと思うての。ワシらも依頼料を納品しておるので失敗されては困る……。というより、一刻の猶予もない訳じゃ」


 老人は杖を地面に突き立てて声を上げた。


「今回ワシ等は『宮廷魔術師の弟子』であるからと頼み込んだのじゃが……ちと……不安と言う者もおろう。ここであなたに……ん……と、言いにくいんじゃが……」


 そんな奥歯にものが挟まったかのような物言いに苦笑いを浮かべるのはアランだ。

 過去に、遠い記憶のある物としてコシャの村人から受けた罵倒や、九年前のあの事件が蘇る。


「別にいいですよ。俺は俺の為すべきことをやるだけです。元宮廷魔術師フーロイドの名に泥を塗りたくはないですからね」


 ――こういうことか……。


 密かにアランは心の中でひとりごちていた。

 脳裏によぎるのは、三日前のフーロイドの言葉だった。


『このワシフーロイドの名に置いて、アラン・ノエル。主に一枚の任務を預かっておる』


 フーロイドの名において。

 この事実は、確かにギルドで一般の冒険者ハンターよりも任務受注の近道であることは理解が出来た。

 ただ、そんなに甘い話だけではなかった。


 フーロイドの名において――いや、元ではあるものの『宮廷魔術師の権限に置いて』と言い換えても過言ではない。

 この国において、オートル魔法科学研究所職員としての『宮廷魔術師』とは絶大な意味を持つ物である。

 それはすなわち、宮廷魔術師という多大な権力が関与する任務。

 宮廷魔術師の名に恥じぬ行いをしなければならないという責任感さえも伴っている。


「フー爺、俺に挑戦状叩きつけやがったな……?」


 この『フーロイドの名において』という一文には様々な意味が込められていた。

 第一に、ギルドでの任務受注の近道であること。

 第二に、王都から遠く離れた場所であっても宮廷魔術師を知る者にとっては、その存在がかなり大きいこと。

 そして第三。


「フーロイドの名において……。俺がギルドで任務を受ければいつまでもこれ(・・)が付き纏うってことだな、フー爺」


 「宮廷魔術師の弟子であるから」、「宮廷魔術師が関与しているから」。

 その文言は、いつまでもアランに太く絡みついていく。


 ――俺の名はアラン・ノエル。


 アランは不安顔の村人たちを正面から見据えた。


 ―『宮廷魔術師の弟子だから』だなんて言わせねえ……!


 そのためには、こなさなければいけないことは山ほどある。

 果てしなく、遠い道であることはアランも覚悟の上だった。


 ――俺だから! アラン・ノエルだから任務を頼んだって! そう言わせてやる……!


「ど、どうしましたかな……?」


 村の代表である老人がアランを思って重々しい口を開いた。

 だが、アランは人知れずにやりと口角を上げていた。


 ――ここから、始めよう。


 まずは、一つ一つの任務を着実にこなしていく。

 それが信頼へと繋がるのなら、それを信じて自らがしなくてはならないことを。


アラン(・・・)ノエル(・・・)の名において。その任務、完遂させて見せますよ!」


 アランはにかっと白い歯を見せて笑みを作った。

 心の底では、確かな決心と師への挑戦心で溢れかえっていたのだった――。


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