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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第二章 オートル魔法科学研究所 (前編)
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雷神の異名を持つ息子

「命を懸ける……ですか」


 フーロイドの言葉に最初に反応したのは、マインだった。

 その表情には不安性が滲み出ている。

 対してファンジオは何も言わずに腕を組んでいるだけ。そんな対照的な二人に向かって提案者のフーロイドは「とはいえ」と呟いた。


「何も最初から命を懸けろとは言わん。初めのうちは初級任務から徐々に……という感じじゃな。何せ上級任務は数が少ない上に実績持ちの上等冒険者(ハンター)に早食いされてしまうからの」


 フーロイドが指を立てて話すと、ファンジオも顎に手をやり、マインの説得に助け舟をだした。


「そういえばウチの塾にも生徒と冒険者(ハンター)を兼ねている奴等はちらほら見るな。まあ、軽い任務だと手っ取り早い小遣い稼ぎにもなる。あとは依頼された箇所だけだが色々な風土、慣習、食事を通して社会勉強にも打ってつけだ。ということで俺はフー爺に賛成だ。だが、アランのリストバンドを段階的に外すってのはどういうことだ?」


 机に出された茶を一気に飲み干したファンジオは、カタンと湯呑を机に置いた。アランは自身のリストバンドを眺めながらもフー爺の真剣な眼差しにも同時に目を向ける。


「現在、アランは一切の魔法が使用できん。そもそもリストバンドの役割は魔法力を受け流すことじゃ。魔法が風だとすれば、リストバンドはフィルター。いくら通そうとしてもリストバンド(これ)を経由して魔法力は全て霧散することとなる……じゃが、元々アラン(此奴)の魔法力を一つのリストバンドで制御するのはかなりの無理がある。というのもアランの魔法力は膨大過ぎることに起因するからの」


「……俺の魔法力が?」


「そうじゃ。まあここ一、二年はアランも無理矢理外そうとせぬから消耗せぬだけで、リストバンドはもともと消耗品じゃからのう。アランが十五歳になれば魔法を使えるようにしようというのは元より織り込み済みじゃ」


 フーロイドの笑みにアランが机を乗り越えて一人の老人に詰め寄った。


「じゃ、じゃあ……もう魔法使っていいの!?」


「ああ。じゃが勿論のこと制御は付けさせてもらおう」


「……何で」


 明らかに不服そうなアランにフーロイドは冷静に吐き捨てるように告げる。


「『天属性』の魔法術。他のどの文献にも記載されておる属性でもあるが、出自が一切判明しておらん。この世に名を残した者のほとんどが特異者(・・・)だというデータはある。その上地属性、海属性も歴史に名を残した者は多い。じゃが、天属性は名前がどこにもないのじゃ」


「……はぁ?」


「天属性の魔法術が極めて稀であることは容易に理解できる。では何故文献には朧に記載されているに関わらず、その他には何も残されておらんのか。ワシにはむしろ抹消された(・・・・・)ようにしか思えんでのぅ……」


 王都に来てからの六年間で、アランは自らのことをフーロイドから聞かされている。

 自身が類稀なる『天属性』の魔法術の持ち主であることを――。


「これはワシの仮説じゃ……。下らない老人の戯言じゃと思っても構わんがの」


 フーロイドはその場から立ち上がり、その場に座る皆に背を向けた。


「アラン・ノエル。お主のアランという名は『雷神』の異名を持って名付けられたそうではないか……」


 その言葉にマインとファンジオがアランを見つめた。

 確かに、両親である二人は落雷で助かったことも起因してアランの名づけを決めている。

 そんな中でフーロイドは神妙な面持ちで言葉を紡いだ。


「落雷で奇跡的に命が助かったと。そうお主等は言っておるが――」


 言いにくそうに言葉を濁そうとするフーロイドに、イラついたかのようにファンジオは「何だよ……。十五年前のことだろうが」と毒を吐く。


「ワシにはその落雷がどうにも自然的なものとは思えん」


「……何を言うかと思えば」


 呆れたかのように裂きウキを頬張るファンジオに、フーロイドは続けた。


「新たなる生命の誕生のその瞬間に、何者かが人為的にアランに雷を落とした。アラン・ノエルが天属性の魔法術と言う特異者(・・・)である事実と、誕生の事実は決して無関係なものではないのではないか、とな」


 フーロイドは皆を振り返る。

 ファンジオとマインは固まったまま動かない。

 アランはただひたすらにフーロイドを見つめていた。

 ルクシアも同様だった。


「『雷』というもの自体は天属性の範疇に納まる能力じゃ。うやむやにしてはおったが、ファンジオが霧隠龍(ファントム・ドラゴン)と対峙していた時にアランはこの能力を開花させた……! 雷を伝ってアランはお主の前に立ちはだかった。と考えれば、雷の能力は天属性によるものであるとも考えられるじゃろうて……」


「……あの雷を伝わせてアランに『天属性』を……? そのせいで……」


 フーロイドの考察に、声も小さく呟いたのは裂きウキを口にはさんだファンジオだった。

 強く机を叩いて周囲を威圧するようにファンジオは下を俯いていた。


「……少し、外の空気を浴びてくる」


 力なく呟いたファンジオは乾いた笑みを浮かべたまま席に背を向けた。

 アランさえも近寄りがたかったその雰囲気にも負けずに、マインはすぐに席を立った。


「ファンジオ!」


 夫の後を追うように家を出ていくマインだったが、アランはあえて動かなかった。


「……ふ、フーロイド様」


 ずっと静観を決め込んでいたルクシアが師を案じて言葉をかけるが、当の本人の決意は固かった。


「ここまで来てしまっていた以上、引き返せは出来ぬ。ワシも片足を突っ込んだ身じゃ。生半可な覚悟ではおらんよ。巻き込んでしもうて悪かったの、アラン」


 フーロイドは穏やかな目つきで弟子であるアランを一瞥した。


「……いや、いいよ」


 アランの声は、フーロイドの意に反して穏やかだった。

 フーロイド自身、どんな罵声も受け取るつもりだった。

 自らの仮説が正しければ、それがどれだけ家族を――アランを傷付けてしまうかは理解していたからだ。

 彼等のことはずっと見てきている。

 コシャ村での迫害とそれによる寂しさ、悲しさ。

 それら全てが自らの仮説通りだとすると、何という厳しく、切ない運命(さだめ)であるかは容易に理解できるからだ。

 何者かの手によって、一つの家族は茨の道を歩むことを決めつけられている。

 その事実は、何よりファンジオとマインを――そして雷の元に産まれてきたアランをがんじがらめに痛めつけるものでもある、と。


「……今、こうしてここにいられるのも……両親ふたりのおかげなんだしさ」


「――そうじゃの」


「とにかく、魔法は段階的に外すってこと……覚えておけばいいんでしょ? 具体的にはどうすればいいの?」


 アランが指で示した先にあるリストバンドを見ているのを感じたフーロイドは、「うむ」と咳払いをした。


「お主が『天属性』持ちであることは世間には大っぴらには出来ぬからの。属性のみを抑える方向にシフトする。要は、リストバンドの制約を魔法力と属性――から、属性だけをすり抜けるようにする。その莫大な魔法力だけを使えるようにするということじゃ。幸いにもオートル魔法科学研究所の発達のおかげで日々、日進月歩で進んでいく魔法具のおかげで無属性魔法使いの躍進もあるからのう」


 フーロイドはただ、淡々とアランに説明を与えていた。

 その様子をルクシアもじっと見守っていたのだった――。


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