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それぞれの狩猟

 時刻は正午をまわっていた。

 コシャの森を通り抜けたエラム一行はアーリの森に差し掛かっている。

 ガサガサと草の根をかき分けて進む彼らは周りの警戒を怠らない。

 コシャの森とアーリの森の境界線はある種明確化されている。

 

 コシャの森を少し抜けると、そこは草原に包まれた場所となっている。

 目に見えない境界線。生物群と生物群の自然の対立が生み出すその境界線の一歩にエラムたちは足を踏み入れたのだ。


「よし、皆……行くぞ」


 そう小さく呟いたエラム。

 その後ろには総勢十八人のコシャ村猟師たちが目を凝らしていた。


「ファンジオは見つけ次第殺してもいい。どうせ『悪魔の家系』だ……。ただ、奴はこの森を数年間生き抜いている。もしかしたらこちら側に見つかり次第、逃走するか、戦闘するかの二択だろう」


 そんなエラムの言に反応した男の一人が、「でもそれはどうやって識別するんだ……?」と問う。

 そんな男に目を向けつつエラムはにやりと笑みを浮かべる。


「なぁに、どのみち俺たちはここに狩りしにきたんだ。動くもの全部殺して捕獲したらいい。あわよくば他の村との交流チャンスが増える可能性もある」


「……動くもの……全部……か。他の村との交流ってことは、村長も知っているのか?」


「このまま一村での閉鎖的な社会を形成しても死ぬだけさ。時代は変わる。これからは他の村とも積極的な交流をすべき。オルジ村長の考え方は少し古臭い部分もある。それを含めて、これからのコシャ村を支えるのは俺たちなんだ。俺たちが村を支え、俺たちが村を発展させていく……! この森はそのための足掛かりってことだ」


 自慢げに呟くエラム。

 それに対し、村人たちは「おおお……!」と感嘆の声をあげた。


「た、確かに……オルジ村長はもう年だ……。かといって、ドルジは幼い。となれば、次期村長はお前でいいんじゃないか? エラム」


 そんな一人の男の言葉ににやりと鼻の下を伸ばしたエラムだった。


「ま、なるようになればいいさ……。次期村長に関しては今は考えなくていいだろう。とりあえず結果だ。結果を出せばいい……っ!」


 ――と、猟師たちの士気が徐々に上がり始めた中で空が急に暗みだしていた。


「……降るのか、降らないのか……。きわどいところだな」


 その突如にはゴロゴロと重低音が空から鳴り響く。


 その音に、エラムが眉を顰める。

 草々から匂う青臭さが皆の鼻腔を付く。


 男の言葉に、エラムは「いや……」と首を振った。

 その脳裏に蘇るのは今朝、娘とした約束。


「必ずビッグな土産話を持って帰ると、娘と約束しちまってな……。ここから引き返しちまったら、村長にも合わす顔がねえ」


「……雨の日の狩猟ってのは大体猟師の方に分が悪いってのは通例の話だぜ? このまま行っても大丈夫なのか?」


 ざわざわと、コシャとアーリの森境界線付近で声を上げ始める猟師たち。だがそれを制止するかのようにエラムは「フッ」と笑みを浮かべる。


「どのみちコシャの森でも雨の日の狩猟は最近ではよくやっていることだ。雨の日ならばレアな獲物も多く来る。そこを全員で仕留めて、資源を配分する。いつもやっていることの延長線上に過ぎないさ」


 そうエラムが断言すれば、村一番の巨漢でありエイレンの親友であるミイの父親、アガルは同僚の提案を制止した。


「……確か、ファンジオのところの息子は天候予測が出来る……。そうだったな」


「それがどうした?」


「ならば――奴の息子はこの雨を予知していた、とも考えられる。となるとファンジオがこの森にいるというのは考えにくい仮定だ。そうは思わないか?」


「『悪魔の家系』の能力を裏目に計算した……ということか」


 アーリの森とコシャの森との境界線で立ちすくむ十八人。次第に雨は強くなり、全体の士気にも影響が少しずつ現れ始めていた。

 そんな中で今回の計画に対して、今更ながら思い出したアガルは「もう一つ懸念事項はある」と指を一本立てた。


「奴の家には王都から来たという高名な魔術師がいる……。確かそうだったはずだ。であれば、俺たちが襲撃したところで防がれて終わってしまうのではないか?」


「……『悪魔の家系』に組するあのジジイか……。そういえば忘れていたよ、そんな奴もいたな。――とすれば……」


 熟考するエラム。

 次第に雨は強くなっていく。小雨もだんだんと雨粒の大きさを変えていく中で、エラム率いる十八人はある方向からやって来る音に耳を傾ける。


 ……カラカラカラ。


「……ん?」


 音をする方向を注視してみてみれば、ちょうどアランの家から村へ続く道を縦断していく馬車に乗った一人の若い女性と、真っ白な顎鬚を蓄える老人。それこそまさに、先ほどまで彼らが話していたルクシアとフーロイドのことだった。

 二人は何やら話に熱を帯びさせている。

 とはいえ、老人の方が女性の方に何らかの因縁をつけているようにも見えていた。

 颯爽と車輪を転がして坂道を急速に下っていくその馬車は、コシャ村を縦断する道は選ばずに大きく迂回することにしたらしくどんどん遠ざかっていく。

 それを見ていたエラムは、「なるほどな……これは神が与えた好機としか言いようがない。奴さえいなくなれば、どうとでもなるさ……」と笑みを浮かべる。


「ならばこうしよう。アガルと俺で別動隊を作るんだ。アガルは『悪魔の家系』であるファンジオとその妻、そして元凶である『悪魔の子』を屠ればいい。俺たちは今からアーリの森で狩猟を行う。それでどうだ?」


「もともと『悪魔の家系』自体は屠る予定だったんだ。異論はない」


 そうして作られたグループは二つ。

 一つ――アガル・ライデン率いる『悪魔の家系』討伐隊、4人。

 一つ――エラム・ニーナ率いるアーリの森狩猟隊、14人。


 アガルが率いる隊が少ない理由としては、まずは巨漢として最も力のあるアガルがファンジオを制止。そして残りの三人がその妻子を屠る、というものだった。


「どのみち、悪魔の家系を放っておくと後々碌なことにはならない。コシャの森にわざわいが降りかかれば元も子もないんだからな……。抜かるなよ、アガル」


 エラムの突き出した拳に答えるようにしてアガルは「勿論だ」と拳を突き出した。

 両者の拳が交錯し、二人は同時に笑みを浮かべる。


「エラムこそ、そのビッグな土産話とやらを期待してるぜ。半端な狩だったら許さねえ。こっちはファンジオが居ない可能性もあるんだからな」


 そうして別れを告げて互いの役割を果たすべく、コシャ村きっての猟師たちで構成された二つの別動隊はそれぞれに行動を開始したのだった――。


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