エピローグ:戦力差②
「どんな願いでも、か。俄には信じがたいがお前等が襲名戦に勧誘ってことはそれほど嘘では無いんだろうな。何故俺なのか聞かせてもらおうか」
シドの問いに、ユーリは淡々と答えていく。
「一人の候補者ルクシア・ネインの側にアラン・ノエルとエーテル・ミハイルの両名が代理者に登録されたそうです。知っての通り、かねてより特異者に対抗できるのは特異者のみ、というのはもはや世界においての常識となりつつあります。こちら側に対抗できる手札があるとすれば、剣鬼である特異者のシド様に白羽の矢が立ったということです」
「ほぅ。それじゃ一人足りないな」
「ご安心を。地属性魔法使いのレイカ様は既にこちら側の代表者として登録されております」
ふと、シドの頭の上にレイカの姿が思い浮かんだ。
学校生活においてはほとんど会話した記憶が無い。
そういえば、最初で最後に刃を交えて会話をしたのは入学以前の入学試験までに遡る。
「よくあんな得体の知れない奴と組めたな。あいつは何か要求してこなかったのかよ」
「ただ一つ、強い人と戦えるならば何でも良い。とのことでしたので」
「可愛い顔して戦闘狂のタイプかよ、あいつ」
ポリポリと頬を搔くシドは、少し考えてふと呟いた。
「アランとエーテルの奴が、ルクシア・ネイン助教授の下に行くことは端から分かっていたことだ。俺もそっち側につくことは考えなかったのかよ」
「もちろん、ルクシア・シン殿下はそのことも含めてご検討なさいました。ですが、彼らはあまりにももう一人の候補者への思い入れが強すぎました。必要以上の説得は逆効果でしょう。私たちは私たちの持てる情報で、シド様への説得を試みたまでです」
「……情報によりけりだな」
「お聞きいただけるようで何よりです。ではまず、何も根拠を示さないよりは見てもらった方が早いでしょう」
にっこりと笑みを浮かべたユーリはパチンと指を鳴らした。
すると、そよ風に乗って四枚の羽が生えた掌サイズの小人が姿を現す。
「四大精霊、風の精霊。エイレン・ニーナさんの魔法門の様子はどうですか?」
「――。――――。――――」
「そうですか。彼女の中にある欠陥した魔法力の補修は可能。魔法力の渦を閉じることによって昏睡状態からは回復するも、門そのものを治すことはエルフの巨大樹の加護がないと不可能。ならば思いのままやってしまって下さい。報酬は……そうですね、壱千年樹の枝葉をお渡ししましょう」
「――――! ――――!!!」
ユーリの言葉にぴょんぴょん跳ねたその小人は、ひゅーん!と一瞬で集中治療室を突き抜けエイレンの元へと飛んでいった。
「今のは何だ」
「エルフ族が大長に代々伝わる風の精霊と短期契約を結び、エイレンさんの暴走した魔法門の補修を頼んだのです。これで彼女はこんな狭い室内に閉じ込められることもなく、すぐに普段の生活に戻ることが出来るでしょう。……魔法はまだ使えませんが」
「……!? そ、そんな大それたことが出来るのか、エルフってのは。しかも、大長ってことは――」
「はい。我が主、ルクシア・シン殿下は、現大長の実娘ですからこのくらいのことは造作もありません。この精霊も、殿下から預かったものですのでお気になさらず」
「エルフ族25000を束ね1000年間シチリア皇国を守り続けた大長の娘、か。支持率未だ90%超のバケモノ総長。噂ではよく聞いていたが、なるほど規格外も納得だ。あいつも随分良いトコのお嬢様だったってわけだ」
「庶民風情のルクシア・ネインには到底出来そうもないことでもこちらに付いていただけるならば何でも提供致しましょう。例えば、襲名戦に負ければエルフの巨大樹に候補者ごと取り込まれてしまう慣わしさえを覆すことも。例えば、亡国であるオルドランペル国の残滓を国を挙げて追求していくことさえも」
「何故そこで俺の故郷の話が出てくる?」
「簡単なことです。エルフの巨大樹は1000年絶えずこの世界を見守り続けていたのです。オルドランペル国に深い関係を及ぼした天属性魔法についても、探ってみる価値は充分にあろうかと思います――が。我等が大長はこうおっしゃっているのはふと耳にしましたね」
オルドランペル国の天変地異には、天属性魔法が絡んでいる。
というのは薄々感じてはいたことだ。
だが、持ち主であるアランを問い詰めてみても、何かを知っている様子はない。
より謎は深まるばかりだったシドに、ユーリは言う。
「天属性魔法の使い手は二人いる。一人は全世界の天候を自由自在に操れる。一人は天を統べる獣に見初められ、その能力を使役出来る。その二つが合わされば全世界規模の天変地異が起きる。その境界線上に今はいる――とかなんとか」
全世界規模の天変地異。
部族を崩壊させ、帰る国すらなくなった――シドの全てを奪った悪魔の魔法の正体に近付けるならばと。
その言葉を耳にしたシドは、ぞわりと殺気を漂わせてユーリの肩を持った。
「……どうやら、お前等の掌で踊ってやることになりそうだ」
ユーリは肩に置かれた手を握って、にっこりと笑った。
「もちろん歓迎致しますよ。シド・マニウス様」
傷付いたエイレン・ニーナの魔法門を再び完全回復させるため。
国を葬った天変地異の解明のため。
シドは迷う間もなく、ユーリ・ユージュの手を取ることになったのだった。
まずはお詫びです。3章終わるのに3年と半年がかかりました。本当に申し訳ありませんでした(土下座)
めちゃくちゃな更新間隔でしたがお待ちいただけた方、本当にありがとうございました……(汗)
おかげさまで書きたいことは書き切れたような気がします。
当初のプロット通り、5章のうちのこれで3章までが終わりました。
次章は「ルクシア襲名戦」になります。本編の開始は7月中旬辺りを目安に(書き溜め作ります)します。
それまではいつものように番外編を書こうと思っているので、何か「このキャラの番外編見てみたい!」などあれば感想欄などで仰っていただければ、それを書いてみようかなーと思っていたりしています。
最後に面白かった、今後も頑張れと思っていただけたら評価、感想など是非よろしくお願いします!
今後ともよろしくお願いします。




