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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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エピローグ:シチリア皇国①

 オートル学園にフーロイド教授の助教授として新しく赴任していたルクシア・ネインが女系エルフ族の纏う民族衣装を着ることはこの一年で一度たりともなかった。


 理由としては至極簡単で、女系エルフの民族衣装は露出の多いものとなっていて多感な青少年の多く通う学園に似つかわしいものではないから――というものなのだが。


 今回ばかりは事情が違うらしく、エルフの正装をしたルクシアは今さらながら恥ずかしそうにそわそわとフーロイドのいない研究室を行ったり来たりしていた。

 ルクシアは若干緊張した面持ちでアランとエーテルにお茶を差し出した。


「……粗茶です」


 アランもエーテルもフーロイド個人の研究室に入ることは初めてだった。

 辺りを見回せば、王都のフーロイド宅とほとんど同じように古びた器具と怪しげな液体で埋め尽くされている。

 アランの目線を察知したルクシアは苦笑いを浮かべる。


「これでも随分と掃除している方なんですよ? ほら、フーロイド様はお片付けが苦手な方ですから……使った食器もなかなか下げてくださいませんし、使い終わった魔法具はいつまでも放置されていますし、ね」


 せっせと辺りの魔法具を棚に戻してみたり、食器を洗ったりしながら師の愚痴を言うルクシア。

 ルクシアは、本題をなかなか切り出せずにいるときは何かをして気を紛らわせていないと落ち着かないのだ。

 その良くも悪くも優柔不断な姉弟子のことを昔からよく知っているアランは、変に催促することなく見守ろうとしていたのだが――。


 ここには一人、そんな回りくどいことを何より嫌う者がいた。


「で、私たちがここに呼ばれたのはルクシア襲名戦の件についてでしょう? アランもどうして黙ってるのよ」


「ど、ド直球だなぁ……」


「いつまで経っても話始まらないじゃない。それと、ルクシア襲名戦における詳細は全て国外秘って言われてるのに本当に私までここにいて良いの? 聞いちゃいけないこととかたくさんありそうだし、私何も分からないんですけど」


 エーテルの問いに、ついに観念したルクシアは小さく息を整えた。


「構いませんよ。アラン君に声を掛ける以上、あなたにも無関係ではありませんから。エイレンさんやシド君にも声を掛けるつもりでしたが、エイレンさんはあんな状態ですし、シド君は連絡がつきませんし……。これよりお話しするのは、完全に私個人の私情となりますが、大丈夫ですか?」


 ルクシアが居住まいを正す。

 二人が小さく頷いたのを皮切りに、ルクシアは震える口をきゅっと結んで語り出した。


「翌年の春に、我等がエルフの族長が齢1000年の時を経て死期を迎えます。ルクシア襲名戦は次の1000年間、世界中のエルフ族のべ25000人を代表する者を決める国事になるのです」


 ルクシアの語りに、二人は興味深そうに耳を傾けていた。

 エルフ族はもともとが世界の西の果て――人類種が足を踏み入れない地に拠点を置いており、謎に包まれている部分が極めて多い民族である。

 くわえて、国外秘という襲名戦に関しては名前だけは知っているものの概要が分からない、といった人がほとんどだ。


「お二方は、『輪廻の巨大樹』――通称、ユグドラシルと呼ばれるシチリア皇国の聖木を聞いたことはありますか?」


 ルクシアの問いに、アランは頭の上にはてなを浮かべるが、エーテルは思い当たる節があったようだ。


「確かシチリア皇国を支える聖なる大木、でしたね。ただ1000年の時を経て朽ちかけているということも伺いました」


「その通りです。我等がエルフの民は、『輪廻の巨大樹(ユグドラシル)』の恩恵を受けて日々を生活しています。人類種との過度な接触を妨げるために察知不可能な魔法領域を敷いたり、その枝葉一つ一つにすら生命の源が流れてエルフの民を加護したりとその恩恵には天井がありません。意志すら宿るその大木を、太古の昔から我々は『神』として崇め続けています。朽ちかければ、新たな芽が息吹出す。今の我々はそのちょうど境目を生きているのです」


 謎に包まれたシチリア皇国――というものはあながち嘘ではないことはアランも知っている。

 どういうわけか、世の中にはシチリア皇国に実際に足を踏み入れた者もほとんどいない。

 シチリア皇国に関する文献もなければ、どこにあるのかすらも明らかにされていない。

 なんとなく、『西の果て』に存在するとあやふやに皆が認識している程度に過ぎないそれは、どうやら外部からの無駄な侵入を防ぐべく仕組まれたエルフ族なりの処世術だったらしい。


「そしてルクシア襲名戦とは、そんな『輪廻』と冠する朽ちたユグドラシルの輪廻転生体である『ユグドラシルの新芽』を探しだし、新たな王として認めていただくための聖戦なのですがそのためにはどうしても、協力者(・・・)が必要になるのです」


 輪廻の巨大樹(ユグドラシル)というエルフ族の神木を介して世俗と自らを完全に断ち切って生活しているエルフ族が、このような話をするということは本来危険なこと以外の何物でもない。

 詳しく聞き耳を立てていたエーテルですらも、口をヒクつかせながら「そ、そこまで全部喋っちゃうのね……」と若干引いているほどだ。


 恐らく今の世界でもアランとエーテルは、ルクシアを介してシチリア皇国の情報を得た数少ない人間だ。


「そしてここからが本題です。第二十三代ルクシア襲名権を持つ、ルクシア・ネインとして正式な依頼です。来たるルクシア襲名戦ではアラン・ノエル君、エーテル・ミハイルさん。あなた方二人には、私が全エルフの長になるための協力者(・・・)としてシチリア皇国に来ていただきたいのです」


「……ね、アラン。エルフ族って、精神干渉魔法とか、記憶消し能力とか持ってないわよね?」


「聞こえていますよ、エーテルさん。安心して下さい。あなた方の身の安全は私の方からは保障致しますので」


 苦笑いを浮かべるルクシアだが、「私の方からは……?」と首を傾げるのはアランだ。


「私の方からは――ってことは、他の方では安全は保障されない、ということですか」


「……まぁ、そうなります」


 アランの言葉に、ルクシアは口を濁す。


「もしも私がルクシアを襲名出来なかった場合、私と共に聖木の養分と化してしまうことになります……。『輪廻の巨大樹(ユグドラシル)』からは王を一人としか認めていただけないので、残りの王候補は今後1000年の反逆の目を詰む、と言った名目もありますので……」


 エーテルは眼光鋭く、「それじゃ私たちのメリットが何もないじゃないですか」と詰め寄った。


 そんな折り――ルクシアは「その代わり――」と一本指を立てて、呟いた。


「王として認められた暁には、輪廻の巨大樹(ユグドラシル)の聖なる力を持ってして、この世の理の埒外を行く願いもどんなものでも一つだけ、叶えることが出来ます。そんなユグドラシルへの願いの権利を、私はあなた方にお渡しすることをお約束します」


 ルクシアの提案に、アランもエーテルも脳裏には同じ考えがふと、過ぎっていったのだった。

次回更新は4/5(日)です。

面白かった、続きが気になる!頑張れーと思っていただけたら是非感想や★評価などぜひとも宜しくお願いします!

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