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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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戦後処理

「さて、と……。事情をお聞かせ願おうかねぇアラン・ノエル。エーテル・ミハイル」


 オートル学園教務課。ナジェンダ・セルエルクは苛々した表情でタバコを吹かしながら二人を問い詰めだした。

 

 オートル学園模擬戦争試験は、大規模な度を超した魔法力暴走による模擬戦場の半壊、および全く別の棟にあるはずの学長室の全壊という前代未聞の事態を持って緊急終了の運びとなった。


 史上初めてのこの出来事によって、学園側は今やてんてこ舞いの有様らしい。

 くわえて、オートル学園の最高顧問であるオートル・ミハイルは全壊した教授室から何故か一歩も出ようとしておらず一緒にいたウィス・シルキーも逃げるように姿を眩ましたため、自主帰還(エズリール)したイカルス・イヴァンを中心に事後処理が行われている。


 ナジェンダは手に持っていた報告書を読みながら首を傾げる。


「被害状況は現在確認中。だが観戦していた政府要人や各国のお偉方が、君たち二人が最高顧問のオートル・ミハイル氏の学長室に……その、なんだ。魔法力を行使した津波と共に雪崩れ込んだ……? いや、何だこれ、意味が分からんが……事実か」


 巷でも大いに話題になっていることはもちろんアランたちも承知だった。

 教授室の全壊など前代未聞が過ぎるのだ。


 学長室のある棟には全面立ち入り禁止の札が貼られ、ナジェンダ含めて特進科の教員すら入ることは許可されていない。




 エーテルが、父を断罪して教授室から出たときには、すでにほとんどの生徒、要人はその場付近を離れていたそうだった。

 理由は、エーテルが放つ極大の魔法力で会場全体が危険に晒されたからだ。


 まさかそんなことが起こっているとも思わず、試験会場の模擬街を歩こうとしたら二人の真ん前に試験総監督のナジェンダが現れたのだ。


 エーテルは毅然とした表情で、ナジェンダの質問に「事実です」とだけ答えた。

 ナジェンダは小さく息を吐き頭を抱える。


「まったく。幸い要人や観覧客に怪我人が出なかったからいいものの、教授室に突っ込むバカがどこにいるんだ……。で、何のために突っ込んだ?」


 ナジェンダの目つきが鋭くなった。

 

 どちらかというと先に突っ込んだのはアランのなのだが、エーテルが先んじてアランが何か発言しかけたのをかき消して口封じでもするかのように口を開いた。


「たまたま他の受験生がいる場所を狙って魔法発動をしようと思っていたら、不可抗力で発動要領を間違えてしまったんです。まさか教授室まで届くなんて思ってもいませんでした」


 あまりにもいけしゃあしゃあと虚言を吐いたエーテルに、思わずアランは頬がヒクついた。


「……信用されてないものだな」


 ぽつりとナジェンダは毒を吐いて言う。


「では違う聞き方をしてみよう。これは特進科副担任である私からではなく、アルカディア王国に忠誠を誓う――この国を憂う一人の魔法士であるナジェンダ・セルエルクからの質問だ」


 ぞわりとナジェンダのメガネの奥から光る眼光が強くなる。


「近頃何かと噂の出所となっている多重属性魔法使用者(ヴァングレイド)についてだ。火属性と土属性を操るエイレン・ニーナの体調変化と、教授室の破壊について。何か知っていることがあれば教えて欲しい。――頼む」


 是非をも言わせぬその物言いに、思わずエーテルは後ずさりした。


(エーテル……どうするよ)


(どうするって言ったって……っていうかもう全部バレてるじゃない!)


(そりゃあれだけ派手に動けばそうなるよな……)


(身内の恥にも程があるし、今これ言っちゃうと……多分、国が傾くわ。この国の実権を握ってるのは、実際オートル機関なんだし)


 そこは案外冷静なんだ、とアランは意外にも目を丸くした。

 鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような驚き方をするアランに、エーテルは(当たり前じゃない)と目を細めた。


(今こんなことを公に告発すれば、オートル機関は壊滅。アルカディア王国も大いに失墜する可能性があるの。すっごく気に食わないけど、友達の私情と国事情は……違うわ)


 アラン達の目の前には深々と頭を下げるナジェンダ。

 元々正義感の強い教師である。このことを告げれば、非人道的な実験を続けていた張本人としてオートルは公的に断罪される。

 だが断罪されたとて、次にアルカディア王国を支えるオートルほどの人材がいないのも確かである。


(それより、アンタも何か解決案出しなさいよ! 何かないの!?)


(なかなか無茶苦茶な注文するね!?)


 二人がこそこそと作戦会議を催していた、その時だった。

 カツンと杖の音がして一人の老人が教務課へと足を踏み入れた。


「ナジェンダ先生、そこまでにしておくことじゃな」


 白髭を蓄えたその老人――フーロイド。後方で待機しているのはルクシアだった。

 だがその表情は暗い。というより、あまりにもバツが悪そうだった。


「ワシにこんな役回りをする資格もないが……ルクシア」


「はっ」


 フーロイドの命を受けて、ルクシアは持っていた書簡をナジェンダの机の上に置いた。

 フーロイドは控えめに呟く。


「アルカディア王国当代国王、ファルマ・グレイス王からの勅命じゃ。本件に置いての全ての案件は一切を不問とする。引き続きオートル学園所属の人間はこれまで通り業務を遂行し、直ちにオートル・ミハイル最高顧問の学長室を建て直すこと……とまぁ、要約するとこんな感じじゃ」


 これにはナジェンダはおろかアランやエーテルにとっても寝耳に水だった。

 場は異様な雰囲気に包まれていた。


次週より第三章のエピローグが4話くらいに渡って続きます。

面白い、続きも頑張れと思っていただけたら下の方から★評価、感想などなにとぞ宜しくお願いいます!

全五章構想のうちの第四章目である次は「ルクシア襲名戦編」となります。

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