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異世界の気象予報士~世界最強の天属性魔法術師~  作者: 榊原モンショー
第三章 オートル魔法科学研究所(後編)
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海属性VS多属性

 王都の東の果てに、ぽつり、世の理から外れた区画が存在する。

 そこは、王都から出る膨大なゴミ処理場とも言われ、それに群がり王都を追い出された者や、その日暮らしを余儀なくされる者が集まる。

 そうして、徐々に人口を増やし、一つの街が作られた。


「ンヴァ」


「そう、まだ魔法の気配は海竜(レヴィ)でも感知出来ないの……。それにしても、アステラル街は嫌な思い出ばかりね」


 そんなアステラル街を歩く一人の少女。

 ゴミが堆積して、不安定な足場がどこまでも続く。

 アステラル街の住人が作ったと思われる藁葺き屋根や、錆びた鉄を骨代わりに作った食糧貯蔵庫などが精巧に再現されている。

 加えて、所々から乱流する魔法力さえ感じられる。

 これは、オートル学園に入学する前――アランと少女が盛大に闘った後に残った爪痕のものだ。

 世間的には極秘扱いで終わっているが少女、エーテル・ミハイルは未だに乱流を続ける魔法力を感知するだけで気が滅入るのを感じていた。


「結局、私の暴走が生み出した結果だものね。うぅ……しかも、負けちゃったし……」


 軽く頭を抱えたくなる。

 アステラル街に、マダムの大切な指輪を奪った犯人を見つけるつもりが、自身の軽率な行動で何も関係の無いアランを見つけて激情に駆られてしまい、勝負を持ちかけてしまったのだから。


 そんな思い入れのあるアステラル街を主戦場に選んだ友達に、敬意の念を抱きながらエーテルは顔を上げる。

 魔法力の嵐渦巻くアステラル街では、相手の気配や魔法力の発動などがなかなか読みにくい。

 普段、魔法力発動の気配や大きさなどで攻撃種別を判断する魔法使用者にとって、なかなかに労を費やす場所であることは間違いない。

 そして、擬似的な空間であるアステラル街に、乱流する魔法力まで再現することは完全に予想外だった。

 そもそもアステラル街の乱流魔法力のことなど完全に忘れてもいたのだが――。


海竜レヴィ、警戒レベル上げておいて。ちょっとでも動きがあったら、迷わず喰らいなさい。……友達だからって、遠慮はしないわよ、エイレン」


 澄ました顔で、アステラル街の中央に立つエーテル。

 王都中央通り側に向かったアランとシドとは対照的に、エイレンとエーテルはアステラル街方面へと向かった。

 それは、エイレン側からの挑発の意思でもあったのだ。


 エーテルはその挑発に堂々と応えるべく、アステラル街へと繰り出した。

 だが、到着後数分あたりを見回してみても、エイレンの存在は確認出来ない。

 ()の利く海竜レヴィでさえも、この乱流する魔法力に戸惑っているようだった。

 エーテルの海属性によって作り出された擬似的な命。魔法術師イカルス・イヴァンの炎の鳥に類似するそれは、全長にしておおよそ二メートルと、入学前のよりも大きく成長している。

 エーテルの魔法力の増大に加え、消費こそ増えるがより実体に近くもなっている。

 蛇のような長い胴体は宙に浮き、頭からは一対の黄金の角が生える。

 海竜は辺りを伺うように、エーテルの肩からふいに離れた。


「――そこね!」


 瞬間だった。

 エーテルは海竜レヴィに素早く指示を繰り出した。

 微かに揺れ動いた魔法力は、発動寸前の気配だった。

 乱流する渦の中で、微かに見えた穴だった。


「ンヴァッ!!」


 指示を受けた海竜レヴィは、胴体を精一杯伸ばして魔法力の乱流する渦を掻い潜っていく。

 首を伸ばし、その口の中に魔法力を溜める。


「吐き出せ、海竜砲レヴィアタン!」


 エーテルの叫びと共に、海竜レヴィは微かに魔法力の蠢いた箇所にビームを吐き出した。

 オンボロの藁葺き屋根が連なる家屋の合間に向けて深蒼の砲撃を打ち込む海竜レヴィが、謎の感覚を覚えた瞬間だった。


「ン……ヴァ?」


 海竜レヴィの真下の地面から、紅い色の円陣が光を帯びて浮かび上がる。

 紅い円陣に、乱流していた魔法力が集約する。

 集約した魔法力は一気に解放され、直上の海竜レヴィの身体に絡まるように炎の渦を檻を形成する。


「罠……!?」


 円陣が燃え尽きると、そこには海竜を囲う炎の檻。そしてその動きを拘束する炎の魔法力が海竜レヴィの身体を締め付けていた。


「――火属性魔法、火弾デクス!」


 海竜の拘束に気を取られていたエーテルの後方から聞こえる声。

 藁葺き屋根の上からエーテルに手を伸ばし、火の弾を数々撃ち出すエイレンの姿が、そこにはあった。


「……っ! 海壁の渦潮(エデー・ラル)!」


 エーテルは即座に、海属性の魔法を繰り出して数々の弾丸を防ぐ壁を作る。


「やってくれたわね、エイレン!」


 不適な笑みを浮かべながら、エーテルはエイレンを見つめる。

 後方で縛られている海竜は、完全に脱出を諦めて沈黙してしまっている。

 エイレンは、ほっと息をついた。


「エーテルちゃんの最大の相棒から、無力にさせてもらったの。海竜レヴィちゃんは、一度消えちゃうと再召喚が出来るけども、あのまま実体化させて無力化していれば、もう出せないもんね」


 にこり、優しい笑みを浮かべるエイレンにエーテルは苦笑いを隠せない。


「さっすが、しっかり弱点握られてるのね……」


「いつか、エーテルちゃんとは闘わなきゃって思ってたからね。私、全力で行くよ」


 白いワンピースがふわり、魔法力の渦によって揺らめいた。

 エイレンの周りに噴出した魔法力に、エーテルの首筋が思わずぞわりと逆立った。


「私も、あなたに言いたいことはたくさんあるの」


「奇遇だね。私もなんだ」


 エイレンは、土色に鈍く光る結晶を手に持った。

 小さく息を吐いて、まるで自分の気持ちを落ち着かせるようにして、かしりと口に咥えて――。


土属性魔法(・・・・・)


 魔法発動の魔法力を蓄積させ始める。

 その様子をじっと見て、エーテルはギリと歯ぎしりを浮かべた。


「ねぇ、エイレン。あなた、もしかして――」


 エイレンの土属性魔法の発動を契機に、口で交わし合うことのない二人の勝負が始まった.


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