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しにがみのエレジー ――Ghost and Death and Love to Death――  作者: 常闇末
しにがみのエレジー――幽霊と死神と死神の恋――
12/18

死神の独白――モノローグ――

理解できない。


理解したくない。


理解できなくたっていい。


私は死神なのだ。


あるいはなりそこないの人間。


皆が同じで私だけ違うなんてあり得ない。


私はいいことをした。私は泉のためだけに泉のことを思って何もかも省みずいろんなことをした。あなたの ために死神の掟を破って生きている人間を死に導いた。あなたが好きだから。あなたのために。あなたの ために。


どうして悲しむの?


どうして怒るの?


どうして私を蔑むの?


私はあなたの喜ぶことをしただけ。あなたの幸せのために尽くしただけ。


“化け物だ”


違う。あなたのために。


“お前は化け物だ”


違う!あなたに喜んでほしくて!


“お前は所詮、人間じゃない。化け物だ”


違う!!!私はあなたのためになんでもする!!なんでも!あなたの喜ぶことしかしない!それしか望まない!!!


“死ね”


違うッッッッッッッッッッッ!!!ふざけるな!!!違うッッッ!!


最初はあなたの父親がきっかけだった。


あなたの父親が消える瞬間に私にこう頼んだ。


『嫁を、息子を、娘を。彼らが死んだ時に頼むよ』


私は死に際に他人を思える人間に初めて興味を持った。私にはこの感情が足りないんじゃないかと思った 。


誰かを強く愛する感情。


あなたが高校に上がってきた時、私はそれを思いだしあなたに興味を持った。


そして何より、他人を救うなんて不利益な行動を気ままに行うあなたに、恋をした。


あなたは私を助けてくれたことを覚えていないだろうけど、私はそれからあなたに礼を言おうとした。


どれだけ頑張っても、ほんの少ししか話せなかったけどそれでも嬉しかった。


そんな時にあなたが死んだという話を聞いた。


その時に私が感じたのは希望だった。


死はすなわちわたしとの距離が縮まったのだと勘違いをした。


けどあなたには好きな人がいた。


だからわたしはあなたの幸せのために鎌でこの気持ちを何度も“斬り殺した”。 きっかけとなったあなたの父親との記憶も斬り殺した。


けどダメだった。


あなたへの恋は何度も湧いてきて、記憶も結局は思いだしてしまった。


ダメなのだ。


どれだけ頑張ったって忘れることはできなかった。


忘れたくなかった。


同時にあなたにこの気持ちを伝えることもできなかった。


そうするとあなたはきっと困る。悲しんでしまう。だからそれだけは絶対に阻止した。感情を殺してまで。


そしてついに成し遂げた。


生山美穂も分かってくれた。


わたしは悲願を遂げた。


あなたのために。あなたを想う私のために。


けどあなたは心を閉ざしてしまった。


いいんだよ。ちょっとショックなだけだよね。本当はいいことなのにそれが理解できないだけだよね。それで もいいの。あなたのためになったんだもの。あなたが目を覚ますまでいつまでも傍にいてあげるよ。私もそれ を望んでいる。あなたの傍にいつまでも、いつまでも。


ああ、あなたがこのまま目覚めなければいいのに。


だって、あなたがずっと傍にいてくれるんだもの。






ねえ、泉。雪が降ってきたよ。 私もあなたの傍にいるだけでだんだん感情がよみがえってくるの。


だから今、わたしはとっても幸せだよ。


泉、寒くない?大丈夫?もっとくっついていてあげるよ。 ね、暖かいでしょ。私も暖かいよ。






ほら、あなたが眠り始めてからもう365日経ったよ。


泉と一緒にいるととても短く感じるよ。会った日がもう昨日に感じちゃう。


ほら、ゆっくり休んでね。私もずっと傍にいてあげるよ。


そういや、昨日ね。工事の人がここを取り壊しにきたの。


私も人に見えなくなれるからポルターガイスト起こして追い出しちゃった。


ここは私と泉の住み処だもんね。


絶対に取り壊させないよ。






ねえ、今日で3652日目だよ。


だんだん数えるのが難しくなっちゃった。


でも年にするとまだ10年目なんだよ。 だからこれからは年で数えるね。


大丈夫だよ。


千年たっても一万年たっても一緒にいるからね。






100年目だよ。


家も崩れちゃったんだ。


けどいいよね。


私がずっと傍にいるから。


いつまでも傍にいるから。






1000年目だよ。


数えるのがまた難しくなっちゃった。これからは世紀単位で数えるね。


いつまでも一緒だよ。






36世紀目だよ。


周りはとても発展したみたい。 けどここだけは何もさせてないよ。


近づいた人は殺してでも追いやったからね。


安心して。


ゆっくり休んでね。






58世紀目だよ。


ごめんね……。


我慢できなかったの。


最初はキスだけのつもりだったの。


我慢できなかったの。


ごめんね……。






もう、数えなくてもいいよね。 私が傍にいるもん。


それだけでいいよね。


嬉しいよね。


ねえ、泉。


私のこと好きになったよね。


だって毎晩のようにシてるもんね。


私は泉のこと大好きだよ。 泉も好きだよね。


私なら生山唯の代わりに、なれるよね?


間違ってなんか、いないよね?








ごめんね。


ようやく分かったの。私があなたにしたこと。


酷いことだよね。


そんなことしたのに、泉の身体をいいように弄んでるの。


ごめんね。


私、もう死にたいよ。死にたい。死んでしまいたい。


あなたはもう目覚めないのね。 分かってたの。


こんなに時間が立てばあなたは記憶を全てなくしている。自己のアイデンティティーさえ。


知ってたんだ。


記憶のこと。


屋上で見てたんだよ。


あなたがどれだけ生山唯が好きか、も。


私じゃ、ダメなんだよね。


そうだよね。私は生山唯じゃないもの。


私じゃ……ダメ、なんだよね。


私はね、決めたの。


もう消えるね。過去からも未来からも現在からもこの世界全てから消えるね。


ずっと考えていたの。


それが私にできる全てだよね。


大丈夫。


今度こそ、あなたが喜ぶ世界をつくるわ。


あなたのために。


もう何年たったかわからないけど、私はずっとあなたのことが好きだったから。


最後にせめてあなたのために消えるね。


大好きだったよ、泉。





そう言うと、彼女は自らを鎌で斬り殺した。


もはや誰もいない荒れた大地に僕は一人、取り残された。




氷を溶かすように彼女の存在は瓦解しはじめる。 その水が蒸発するように彼女の存在はこの世界から消えた。






これからは彼女のいない世界でもう一度、歩み始める。


> Yes

No


ーーーーRestart





『Re:死神のエレジー』に続く

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