変化
扇動岐路は脳波を調べる検査室において、検査結果を見て驚く。
絵心太夫に検査して欲しいと頼まれたが、ここまではっきりと結果が出てくるとは思わなかったのだ。
フラグというか冴えわたる感覚機能から全エリアの子供を調べて欲しいと言われたが、まさかこんなことになるとは。
全く予想していなかった結果に、絵心太夫の無駄に優秀な才能に驚きを隠せないでいた。
そしてなぜその才能を中二でまとめてしまうのか、口惜しいが助手にしたいかと言われたら答えは否である。
扇動岐路は院内放送で四つエリアのボスと、顕著な結果が見られた子供達を呼びよせた。
東西南北として竜宮健斗、葛西神楽の強い推薦で仁寅律音、籠鳥那岐、玄武明良。
そして結果によって呼ばれたのが絵心太夫と鞍馬蓮実、布動俊介に葛西神楽、そして錦山善彦である。
扇動岐路はまず五人の脳波結果について説明した。
「まぁ、正常なんだけどね…ただ一回だけ、電磁波が狂ったんだ」
そう言って見せてきた用紙には四本ほどの脳波図。
穏やかな波を描いていた脳波が、一時的に一か所に集まっている。
そして一本の波ができたが、すぐに元の波に戻っている。
玄武明良は機械の故障は考えられないのか、と尋ねるが扇動岐路は首を横に振る。
そして次の検査結果を見せる。それは千回図形を当てる検査の内容だった。
「この五人はESPテストにおいても顕著な結果を見せてる…まずは絵心太夫くん」
「うむ!」
「千回中、千回正解…確率的にありえない」
その結果に竜宮健斗達は驚く。
つまりはあの確信的でない問題において正解音を出し続けたということだ。
扇動岐路は看護師さんが呆然としてたよ、と笑う。
「逆に千回とも不正解が布動俊介くん。葛西神楽くんはぴったり百回正解」
「あうううう…」
「にゃんという!?縁起がいい!!」
「で、鞍馬蓮実くんはきっちり九百回正解、これももちろんありえない」
「はっきり否定されたんよ」
「で、で、俺はどないやねん!?」
まだ結果を聞かされてない錦山善彦が期待した目で扇動岐路を見る。
竜宮健斗達もあり得ない結果の数々に注目を集める。
扇動岐路は変わらない笑顔のまま言う。
「五百回正解。つまり五百回不正解…半々なんだよね…」
「…うっわ、普通」
「神楽…それは酷いんとちゃう?」
予想以上の地味さ、テストでいえば真ん中の五十点を取った時の言いようのない均等感。
籠鳥那岐も肩を震わせているので笑っているのだろう。
仁寅律音もご愁傷様といわんばかりに手を合わせている。
竜宮健斗はその結果だと何がおかしいだろうと首をひねる。
しかし一人だけ玄武明良が真剣な顔で言う。
「普通ランダムで五枚の図形を当てる場合、どんな回数にしろ二十%前後の確率で当たる」
「え?それが…」
「二十三や二十六くらいの数字なら問題ないが…こいつらの回数を計算しろ!」
そう言われたが竜宮健斗は計算できないため、ボケーとしてる。
籠鳥那岐がデバイスについている電卓機能で計算をする。
その際に絵心太夫は百%、布動俊介は0%とわかるので除外。
すると葛西神楽は十%、鞍馬蓮実は九十%、錦山善彦は五十%となる。
それは提示された二十%よりも明らかに離れた数字である。
しかもこの三人はぴったりとキリのいい数字で終わっている。
普通に考えればあり得ない話である。
「…ESPテストって言ったよな?それはなんだ?」
「超心理学という分野において人間の眠っている感覚…まぁ第六感についての検査だ。これは有名なテストでもある」
「ESPって確か超能力とかいうんじゃなかったけ?もしかしてこの五人がそんな馬鹿な力に目覚めてるとか…」
「…わからん。これは統計学や確率においても使われるテストで結果も様々な答えを合わせて審議するからな…」
玄武明良は眉間に皺を盛大に寄せて、怒るような表情を作ってる。
よく見れば鳥肌が立っている。そういえばファンタジー関連は苦手だったかと竜宮健斗が思い出す。
しかし超心理学も一応学問の一つであるため、大きな拒絶反応は起きてないようだ。
「麻耶がゼナーカードって言ってたけど…」
「このテストに使われる五枚の図形を描いたカードのことだな。今回はタッチパネルですませたが」
「へー…で、その五人の能力とかはわかるのか!?」
主人公の変身シーンに胸を躍らせるような少年の顔で、竜宮健斗は扇動岐路に尋ねる。
しかし扇動岐路は苦い笑顔で、首を静かに横へ振る。
すると明らかに竜宮健斗はがっかりした表情を見せる。
「まぁ私もこの手の分野は弱くて…それに何回当てたから何の能力とかまで精密なことはわからないんだ」
「確か潜在的能力あり、としか判断できないんだよな。じゃあ能力があるかどうかなんて…」
「うむ!俺も自分の目覚めた力については現在触れた部分の重力が操れるくらいしか判明できてない!!」
「あ、オイラもなんか筋力が増幅するくらいしかわからんよー」
絵心太夫と鞍馬蓮実の爆弾発言に、部屋の空気が一時的に固まったような錯覚を受ける。
扇動岐路は椅子からずり落ちそう、というよりこけ落ちそうな体勢になっている。
玄武明良はゆっくりと顔を動かして、二人を睨みつける。
「いつから…いつからだ?」
「遊園地の時だな!地底なのにいつもより重力が軽く感じられるな、と!」
「オイラは海里と再会した後なんよー…そういえばその後のANDOLL*ACTTIONの影響も受けなかったんよ」
快活に軽く事後報告をする二人に、玄武明良は頭痛を覚える。
竜宮健斗はそんなに早くから凄い能力があったのかと感心している。
その横で葛西神楽達三人は首を傾げている。
「俺はめっちゃANDOLL*ACTTIONの影響受けたにゃん」
「俺もやねん…俊介くんは後から来たからわからんけど…」
「は、はい。僕は…あ、でも三月ちゃんが」
思い出したように布動俊介は説明する。
地底遊園地に着いた際にすぐに皆の場所へ走ろうとした時。
布動俊介は必死で気付いていなかったが、肩に触れた伊藤三月は瞬間移動したような感覚を味わったらしい。
そう言われた時は気のせいじゃないかな、とあっという間に忘れていたのだった。
そして布動俊介の告白に絵心太夫がテンションを上げていく。
「少年、それはいわゆる一つの瞬間移動じゃないか!!!イッツアサイキックバトルコミックに欠かせない要素じゃないか!!!」
「え、え、ええ!?」
「…えー、じゃあ俺らもなんか似た感じの目覚める言うんか?」
「想像できにゃいにゃん」
検査結果を改めて眺める扇動岐路は簡単な推察を述べる。
それは本当に突拍子もないが、今までありえないことを経験し続けてきた身としては信じるしかない推察。
今更信じられないと言っても始まらんだろう、と思い口に出す。
「シンクロ現象…しかも深度の深い、クロスシンクロ並のシンクロ現象を味わった子供かな…」
「…ああ。なるほど。それで電磁波が狂ったのか…」
「え?明良、俺にもわかりやすく説明してくれ」
玄武明良は盛大なため息をついて説明する。
まずアニマルデータとその所有者は電磁波通信をしている。
というのも人間は微弱な電磁波を纏っており、アニマルデータはその電磁波と相性のいい相手を選ぶのだ。
そのことによりクロスシンクロの際、電磁波を番号代わりに個人に通信を開始しデータを交換する。
シンクロ現象はその一歩手前の症状で、脳に強く干渉していく。その副作用で潜在能力を引き出し一時的に強力な身体能力が扱える。
しかし眠っている部分を無理やり起こすので、脳が異常を感知して体に悲鳴を上げさせる。
また身に余る身体能力は体を壊す原因である。だからこそ滅多なことでは行ってはいけない。
だが竜宮健斗達、エリア所属のチーム各五人とその他数名はクラリスの事件で最低一回はクロスシンクロを味わっている。
そして地底遊園地ではクロスシンクロとまで行かずとも、一歩手前ほどのシンクロ現象で脳を痛めつけられた。
つまり何回か脳に強く干渉されている。あとは本人の才能自体だが、眠っている部分が起こされたのかもしれない。
「電磁波が狂っているのは脳が目覚めた影響で一時的に障害を起こしているのかもな。もしくは能力に合わせて脳が再調整しているか、だ」
「それとANDOLL*ACTTIONの影響とどう関係が?」
「あれは電磁波通信を促進する音楽だ。しかし登録している番号と現在の番号が違えば電話はどうなる?」
「…繋がらないよね?でもベアング達は個性を保ったまま行動しているから微弱な通信は常に行ってるはずだよね?」
「多分番号数の違いじゃないか?簡単に言えばいつもの通信は短縮0120とするならクロスシンクロの場合は0120987657653241423…と膨大な番号になる」
ここで竜宮健斗がギブアップし始める。
しかしそんな馬鹿を置いて玄武明良と籠鳥那岐、仁寅律音の話は続いていく。
扇動岐路は子供達の議論を楽しげに眺めており、絵心太夫達は黙って話を聞いている。
「とにかく能力が目覚めた奴はおそらくANDOLL*ACTTIONの影響を受けない」
「そうか。脳が再調整した後は以前と違う番号になるから…通常通信に問題がなければ今更変える必要はないのか」
「へー便利。何かあった時は神楽くんに丸投げしよう」
「そ、そんにゃあ!!?」
「え?それでなんで俺らが地底遊園地でANDOLL*ACTTIONの影響を受けたかについては…」
「あの影響で目覚めた…つまり全員が目覚めるわけでもないし、一回で目覚めるものでもない…そういうものなんだろう」
それはつまり何回か聞けばさらに目覚める者がいるということだ。
しかし多くが苦い顔をするだろう。シンクロ現象は体に何かしらの被害を発現させる。
クロスシンクロでは記憶を思い出したアニマルデータによっては体が乗っ取られてしまうかもしれない。
クラリス事件の時に時計台にいたアニマルデータ全て、体を乗っ取らないと判断した。
だからといって他も同じように乗っ取らないという保証はない。
竜宮健斗は知っている。友達と接していたセイロンが記憶を思い出して悩んだことを。
体を欲して竜宮健斗を乗っ取ろうとしたことを。もしそれがセイロンが決めたことなら竜宮健斗はそれでもいいと思った。
しかし後悔しないで欲しかった、自分の心を間違わないで欲しかった、それだけを望んだ。
決定権はアニマルデータに譲られる。セイロンは悩んだ末に乗っ取るのを止めた。
それでも悩んだのだ。愛しい少女と友達と言ってくれる少年の間に挟まれて。
アニマルデータ、元は人間である。
迷って悩んで生きてきた。そして未来に夢見て一度死んだ者達。
一億以上あるその人間達全てが同じ判断できるとは思えなかった。
老若男女の違いから生死観から育ちの違いなど、同じ思考を持つことは難しい。
不思議な力に目覚める代わりに、体に支障を出したり変えられたりする可能性ある、と言われて首を縦に振る者は滅多にいないだろう。
「…御堂会長には私が話しておこう。今日はもう帰ると良い」
「そうだな……なんかロビーの方が騒がしい?」
籠鳥那岐が扉向こうから聞こえてくる音に眉をしかめる。
病院内では患者の体を安静にさせるため、ストレスの原因となる騒音などを基本嫌う。
うるさくしていれば看護師から注意などされるが、その注意すら掻き消えるような音の波。
錦山善彦が扉を眺めながら不意に単語を呟く。
「…テレビ」
「は?」
「え?あ、ボスなんや鬼の形相で睨まんといて!!て、ロビーのテレビでなにか変なの流れてるちゃうんかい?」
錦山善彦が自己フォローするように捲し立てる。
布動俊介が慌てていると、絵心太夫が思いついたように提案する。
「少年よ、ロビーにいるイメージで動いてみれば瞬間移動できるかもしれんと俺の脳内エンドルフィンが活発な動きを…」
「え!?あ、そっか試しに、とう!!!………へやぁっ!!?」
布動俊介が一歩踏み出した瞬間にその姿は消えた。
と思ったら部屋の扉の前に移動しており、額を強かにぶつけている。
決めポーズをとっていた絵心太夫はすぐに姿勢を整えて、考えるような仕草でうんうん唸る。
そして結論が出たのか、一人頷きながら言う。
「俺の能力も触れてる物限定のように…少年も限定されているようだな」
「そ、それはどういう…」
「見た感じでは目の届く範囲での移動だな。まぁ、壁の中に移動よりはいいんじゃないか?」
布動俊介は壁の中に移動を思い浮かべる。
まずそれは窒息、圧死、出られないと言った最悪な状況である。
もちろん普段の生活ではそんなことはまず起こりえない。
しかし瞬間移動というものは空間法則を無視したような移動だ。
もし無制限の瞬間移動であるなら、壁の中に埋まる異常事態、というのもあり得ない話ではない。
布動俊介は涙目で、制限があって良かったと腰を抜かした。
「…俺は、病人の勘の良さが頭にも働いているのに、残念な面が多いことが腹立つ」
「褒められてるなー、太夫!」
「もっと褒めてくれてもいいんだぞ?照れなくてもいいんだぞボス、ツンデレはもはや古いから新しい道ったたたたたたた!!」
「褒めてねーよ!!むしろけなしてんだよ!!いいからロビーのテレビがある方へ行くぞ!!」
絵心太夫の顔面を握り潰す勢いで鷲掴み、移動を始める玄武明良。
竜宮健斗は布動俊介を立たせて走ろうとしたが、後ろから扇動岐路に走るの禁止と注意される。
歩いていく竜宮健斗の背中を眺めながら、仁寅律音もロビーの方へ歩いていく。
その後ろを猫というよりは犬のようについていく葛西神楽、籠鳥那岐も黙々と歩き始める。
鞍馬蓮実も歩き出そうとして錦山善彦の様子に足を止める。
錦山善彦は真っ青な顔をして考え込むような仕草をしている。
「…なんで俺、テレビって…」
病院にはロビーがある。待合室として多くの者が利用する。
見舞いに来た家族や通院患者、看護師など多くの者が通る。
しかし備え付けられた椅子や雑誌、備品などは各病院で異なる。
ロビーにテレビが備え付けられてない病院もあれば、中には電話機が置いてある病院もある。
錦山善彦は一日この病院にいたが検査ばっかりでロビーに気を向ける余裕などなかった。
来てすぐに受付をして、一室に案内されて検査着に着替えてからの仲間の合流や検査続きだった。
だから知らないはずなのである。テレビがあることなど。
それでも錦山善彦は確かに自分の口で言った。ロビーのテレビでなにか流れているんじゃないかと。
知らないことを口にした錦山善彦は急に恐ろしくなった。
だからこちらを見ていた鞍馬蓮実に空元気な笑顔を見せ、ボス達の後をついていこうと提案する。
子供達が去った部屋で検査結果を見つつ、錦山善彦の様子を観察していた扇動岐路は気付いていた。
しかし確証性や行動データが少ないため断定することはない。資料を片付けてパソコンをつける。
検査室でデータ共有のためにインターネット回線を引いている。見ようと思えばパソコンでテレビも見られる。
病院内で看護師が騒ぎを押さえられないほどの番組なら、視聴率や掲示板などなにかしら顕著な動きのある番組。
それはすぐに見つけられた…というのも少しおかしい。見つけられたと言うより見つけざるをえなかった。
全てのチャンネル、局や周波数の違い、地上波やデジタル、それら関係なくテレビをつけた瞬間同じ内容の映像が流れていた。
アニマルデータを知らない全世界の皆さんこんにちは。
日本という国にある街、NYRONを御存知ですか?
そこにはアニマルデータという元は人間だった魂がデータ化したものが存在します。
遥か昔の文明にて、人間達は生き延びるために自分達をデータ化してそれを設計図として残したのです。
そして見事に生き返りました。今はアンドールという子供用玩具ロボットの体で生きています。
おかげで病気することありません、五体満足で動けます、食べ物で争うこともありません、不老不死に近い生を全うしています。
今苦しんでいる人は世界中に何人いるでしょうか?確実に言えることは、いない、ということはありえません。
飢餓に流行り病、戦争に食糧危機…人間は人間のままでいる限りいつか確実に滅びるでしょう。
しかしアニマルデータになればその問題は消えます。ロボットの体になれば怖がる恐れもありません。
素晴らしいと思いませんか?でもそのアニマルデータを秘密にする者達がいます。
許せませんよね?だから皆さんNYRONで思う存分調べてください。
アニマルデータは全人類に必要なプログラムです。
アダムス・フューチャーズ
まるで会社の宣伝のような三十秒ほどの文章提示。
性質の悪いCMかと思うような映像は、言語を変えて何回も繰り返された後で十分ほどで通常のテレビ映像に戻る。
扇動岐路はありえない、と呟く。ここまで大掛かりなテレビジャックは天文学的な手間や金がかかる。
なのに実際に目の前でジャックされ、あまつさえとんでもない内容にド肝を抜かれた。
そしてこんなこと出来るのはあの科学者かと頭によぎった名前の主からメールがやってくる。
タイトル無題の簡潔な文章。宛先は辿れないように細工されている相変わらずの技術力。
『私じゃない。人外が面白がってるから人外でもない』
もう一人は可能性というよりは、こういう目立つことをするのが苦手な部類なので除外。
なにより把握できてる存在からすると、些か無理な話でもあると思える節があるためだ。
各局が慌てて放送事故のテロップや緊急ニュースとして伝えられる限りの情報を提供していく。
そして真に受けないよう、真偽を確認するまで行動は控えるようにと念を押している。
一方でネット上の掲示板やSNSでは冗談だと笑う声や、本物の電波ジャックに興奮する者達が投稿している。
さっそくアニマルデータ調べてきたなどの投稿もされており、確実に厄介な方へと事態は動いていた。
「…どうやったんだ…それにこの状況はまずい!!」
笹塚未来は蛙のアンドール、アダムスを抱えて自室で微笑んでいた。
テレビは視聴率低下や目玉番組減少など騒がれることが多くなってきた。
しかし確実に生活においてニュースや地震の緊急速報、料理番組や教育番組、アニメや映画など情報に溢れている。
どんなに視聴率が低くなろうが、多くの者がその画面をなにかしらの手段で見ている。
最近では携帯電話やゲーム機、パソコンでも見られるようになっている。
そして録画機能発達とインターネット普及において、その内容が動画投稿サイトにアップされるのが今の社会の日常である。
どんな小さなCMでも検索すればすぐに見つかるだろう。それくらいテレビというのは影響力が大きい。
かつて時代を象徴する家電としても全国的に普及しており、世界中で使われている媒体。
その媒体において異質な情報を飛び込ませれば、確実に問題として新聞やマスコミ、色んなものが飛びついてくる。
「きっかけは小石一つでも…その石は大きい方がいい」
<力強く投げ込めばそれだけで波風、波紋が大きくなるからね>
実は先程の内容、全世界宛に放送したように見せていた。
しかし実態は日本国内だけの放送である。それでも国内全ての放送番組に割り込んだ。
それもそれで問題を呼ぶだろう。だがそれでいいのだ。
国内放送のみと分かればこのCMを動画投稿サイトに取り上げて、勝手に世界中にばらまく人物が現れるからだ。
顔も見えない利用されているとも知らない人物が、騒ぎに乗じて広げてくれる。
必要なのは騒ぎと人の好奇心。あとは発達した社会が問題追及やインターネットで勝手に深く広く波及してくれる。
「ネット文明万歳!今ではオフ会とかクラスタとかサークルとか、簡単に見つけられるからね!!」
<まぁ彼らは捕まるだろうが…元から犯罪集団だから良いだろう>
ネット掲示板で電波やテレビに詳しい者達が集まるアドレスがある。
その中でもグループがいくつかできており、その中でもさらに自信過剰で犯罪自慢する集団があった。
やる気になれば全国電波ジャックできると豪語しており、周りからは煙たがられていたようだ。
それでも個人ではなく集団であったため、細々と掲示板で交流をしていたグループだ。
笹塚未来はそのグループにいつもの無邪気な女の子のフリして会話に入り込み、話が盛り上がるように徹していた。
おかげで自信過剰のグループはすぐさまいい気になり、オフ会開こうと言い出した。
もちろん笹塚未来はそれが狙いだった。そうしなければ能力が使えないからだ。
実際に会えば小学生の笹塚未来を見て興奮する者や酒を勧める者、あまつさえドラッグを押し付けてくる者もいた。
少し話した後で人気のいない場所に自ら行きたいと言い、そして能力を使って命令した。
今日のことは忘れる。でも指定された日時にこのデータを全国的に全番組でテレビ放送するように。
そして命令して眠らせた後、何食わぬ顔で一人で帰った。押し付けられた物は全て捨てた。
帰って掲示板にオフ会の集合場所わからなくて、迷ってしまい遅くなったようなので帰りましたと謝罪文を入れておく。
そうすれば残された者達は勝手に起きてオフ会の続きとやって、掲示板を見てまた今度の機会と書き込んできた。
掲示板はその後命令された内容の打ち合わせで動いていく。誰も疑問に思わないまま従っていく。
笹塚未来はその内容には参加できないと掲示板の書き込みを止めて、眺めることに徹した。
それだけで自分は関係ないと突っぱねることができる。追及されてもまだ子供だからと誤魔化せることも見越している。
放送された内容は戻せない。時間が戻らないのと同じだ。終わったことには干渉できない。
掲示板の会話していた彼らはすぐに見つかって逮捕されるだろう。元々アマチュアであったため、恐らくやり方は雑だ。
なにより掲示板の記録がある。オフ会をした日時などもそこに書き込んでいるため、見つけるのは容易いだろう。
これで笹塚未来は事の顛末を見守り、必要に応じて動くだけである。
「アダムス・フューチャーズ…チーム名として華々しく咲いて散ってくれや、腐れ野郎共」
<未来の素って本当に外見と合わないね>
放送された内容を見て、竜宮健斗達は戸惑うばかりである。
一体誰が何のためにこんなことしたのか全く見当がつかないからである。
これでは時が来たら正式な手順でアニマルデータを世界に認知させ、確かな知識の元受け入れてもらう計画が台無しである。
まだまだ未知の部分が多いアニマルデータ、それが時を待たずして最悪な形で知れ渡った。
さすがの子供達ですら分かる危機感、その最中で時永悠真は画面に釘付けになっていた。
「…こんなに早く事態が動いている…やっぱり変わってる。少しずつだけど…」
確信した目で眺めながら、拳を作って固める。
しかし他の子供達のような戸惑いや困惑は感じられない。
むしろ変化による希望と、決意するような強い意志が漲っている。
その様子に気付く者は誰もいなかった。それほど全員がテレビを凝視していた。