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ドクター検査の千問解答

絵心太夫が玄武明良の家に突撃し、呆気なく玄関口で帰されそうになっている雪の日。

雪の日と言っても冬ではない。北エリアはほぼ年中雪が降っている。

人工雪による天候変化を人為的に起こし、それに対するシュミレーションをしているのだ。

もちろん住む方にも褒章など送られるが、北エリアの多くは実験施設に関わる科学者が多い。

玄武明良もロボット開発分野で神童と言われ、同居している扇動岐路はプログラミングの天才と言われている。

扇動岐路の養子である息子の扇動美鈴はまだどの分野にも精通してないが、非常に高いIQを持っている。

いずれはタイムマシンを開発したいと言う扇動美鈴は、現在部屋のパソコンで通信教育を受けている。

外国の大学授業をネット通信でリアルタイムで受けているという、普通ではありえないような通信教育ではある。

そのため扉を掴んでなんとか話を聞いてもらおうと奮闘している絵心太夫の存在に気付けない。

玄武明良はなんとか締め出そうと力の限り閉じようとするが、いかんせん力はあっても体力はない。

時間が経つと少しずつ玄武明良が弱り、結局は意気揚々と絵心太夫は家の中に入ることができた。

近所の親戚の家に入り込むように遠慮なく廊下を進んでいき、扇動岐路の名前を呼ぶ。


扇動岐路は試作機SUZUKAの体を見ていた。

クローバーとマスター、二人とのメールのやり取りで得た技術を使った最高水準のロボット。

もし動いたなら人間と変わらない生活が可能となる、まさに夢のようなロボットだ。

骨格を柔軟な金属で作り上げ、血管はオイルチューブ、神経はチューブよりも細い電線。

筋肉は伸縮するゴム質の素材に、内臓器官や脳などありとあらゆる部分で人間を再現した。

排熱のために体中に熱を分散して外気で冷やす、つまり体温も再現できている。

もし動いたらおそらく見分けることは不可能だろう。怪我などすれば別だが。

そして扇動岐路は悩んでいた。最高水準のロボットの体がある、いつでも動かせる。

問題は肝心の中身となる魂や思考、つまりデータがないのだ。


最初は娘の体として作っていたが、自分から却下した。

その後二転三転してこの体の持ち主が決まらないまま、今に至る。

専用のプログラミングをしてもいいのだが、それではやはり味気ない。

どうせならアニマルデータ、もしくはそれに匹敵するデータを入れたいという好奇心が疼いてしまう。

もし入れるとしたら、本当に最初の最初、娘のためだけに作った人工知能で友達専用のデータとして作ったクラリスを入れたかった。

しかしあれはアニマルデータの女王クラリスと統合した、と記憶している。失った物は取り戻せない。

そして最初に戻ってしまう。入れるべき相応しいデータがないのだ。

そう悩んでいたら廊下から自分を呼ぶ声が聞こえたと思った次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開けられる。


「扇動岐路博士よ!この早すぎた中二病から折り入って頼みがあるのだが!!」

「え?な、なんだい急に…」

「うむ!俺の体を検査して欲しい!それこそすみからすみまでじっくりと頼みたい!!」


脳内春色エロ男子が欲しい女子からのキーワードおそらく第一位。

私の体をすみずみまで調べて★という悩ましくもそそられる単語を、息子よりも少し年上男子から聞いてしまった扇動岐路。

扇動岐路は冷静な頭であったため、そんなエロワードが浮かぶことはなかったが突拍子もない申し出に空いた口が塞がらなくなる。

なんでいきなり健康診断を頼まれるのか、普通の病院に行くか学校で受ければいいものをと考えてしまう。

なので理由を聞いてみる。理由を聞かなければ始まらないからだ。


「どうやら俺の中に眠り続けていた第六感なる秘められた力が目覚めたようなのだ!!!」


しかし絵心太夫の理由など、聞いても混乱が増すだけだということに扇動岐路は慣れていなかった。





後日、エリア管理委員会の会長御堂正義が各エリアの事務所に所属する団員達を、中央エリアにある大病院に呼び寄せた。

というのも設備的に優秀なのは北エリアだが、人工雪のせいでいつ天候が変わるかわからない実験を常にしている。

そのため帰れない子供が出ると大変なため、NYRONの中心でどのエリアからも同じくらいの時間で行ける場所として中央エリアの病院を選んだ。

団員達とは事務所に所属するユーザー、つまりアニマルデータ所有者達のことである。

集められた理由もおそらくアニマルデータに関するなにかだろうと、何人かは気付いていた。

しかし竜宮健斗といえば身長の結果や初めて見る自分の血圧に興奮するばかりで、集められた理由に全く気付いてない。

さらに相川聡史より一㎝高いことが発覚し、うっかり相川聡史の怒りのマシンガントークを受ける羽目になる。

南エリアのボス籠鳥那岐はその相川聡史より身長が低いことにショックを受け、待ち時間の間にひそかに牛乳を飲んでいる。


「那岐~!那岐の結果見せ…うっわ!!体重軽すぎるだろう!?というか体脂肪率ひっく!!?」

「あー、うちのボスは意外と筋力あるからなぁ…そっちに肉回ったんちゃう?」


籠鳥那岐の結果を横から掻っ攫った竜宮健斗が驚いた声を上げる。

それをフォローするように南エリアの副ボス錦山善彦がさりげなくフォローする。

体重という単語に少しずれて検査を受けている女子達が肩を反応させ、目の前の紙を凝視する。

そして誰にも見られないようにそっと胸で隠す。もちろん、それで体重が減ることはないのだが。

恥じらう乙女心というよりは、女の意地に近い挙動がそこにはあった。


「あれ?律音さんはにゃんで男子列にいるにゃあああああああああ!!!?」

「だ・か・ら。僕は前から男子だって言ってるだろう?」


余計なことを呟いた西エリア副ボス葛西神楽はその足を勢いよく踏まれる。

そして西エリアボス候補として有力なのだが、いかんせん本人は目立ちたくないため辞退し続けている仁寅律音。

男子用の検査着を着てはいるが、その細い線の体や綺麗な顔立ちのせいで、何人かがあれ?と疑問符を浮かべている。

しかし葛西神楽の悲鳴と仁寅律音の言葉から、聞かなくてよかった男かよ、という者が何人も続出した。


「ひ、酷いにゃん…」

「おー!律音に神楽―!今回のキャラ立ちなんなんだ?」

「猫語らしいよ?訳分からないよね…」


葛西神楽は所持している白虎のアンドール、ビャクヤのせいで毎回違うキャラクター性を押し付けられる。

今まででは四字熟語キャラ、侍口調キャラとやってきており、そしてとうとう迷走したのか猫語に手を出したと言う。

ちなみにビャクヤも同じく猫語を発しており、セイロン達は諦めの視線で聞き流したとらしい。

仁寅律音は竜宮健斗の血圧を見て、自分との差に目を見開く。


「健斗は血圧高いよ」

「いや、律音が低いんだろう。一番上で百超えてないじゃん」


仁寅律音のあまりの低血圧に、何人かが覗き込んであーと納得したような声を出す。

ヴァイオリンを弾いている仁寅律音は朝早く起きての練習は日課である。

しかし思い返せば確かにあまり寝起きは良くないと祖母に言われた気がする、と記憶を思い出す。


「んで…明良は………うわ」

「うわ、とか言うな!!このド低脳馬鹿が!!」

「いやだってこの項目…もっと運動して心肺機能上げましょうとか…」


竜宮健斗が真顔になるほど酷い運動能力の低さに、玄武明良は俺は頭が良いからいいんだと顔を真っ赤にして反論する。

しかし何人かが勝手に結果を覗き込み、落胆したような同情するような、もしくは憐れむような目を玄武明良に向ける。

仕返しに玄武明良は竜宮健斗の検査結果をひったくり、なにかないかと視線を動かしていく。

しかしどこにも問題がない、どころが健康そのものという結果に肩を震わせる。

むしろ健康すぎていざ病気になったら心配するほどの、健康結果が目の前に提示されていた。


「ほら、俺は健康有料児だから!!無料の反対!!」

「それは健康優良児だ、馬鹿」


頑張って頭の良さそうな単語を出したが、あっさりと切られる竜宮健斗。

全員でこいつは健康な代りに知能指数がないんだろうな、と呆れたような視線が集まる。

しかし竜宮健斗は気にせず、笑顔でアトラクションに走る子供のように次の検査へと向かった。






目の前にあるタッチパネル式のパソコン。

表示されているのは五つの図形である。

そして問題内容は、どの図形かを当てるというものだ。


「え?え?どの図形でって…え?」

「直感で答えてください」


看護師の穏やかな微笑みに押され、竜宮健斗は星の図形を選ぶ。

すると外れ音のような音が鳴り響く。悔しくて今度は波の図形を選べば同じく外れたような音。

十字、丸、四角、など次々と感覚的に選んでいく。たまに当たることもあれば外れる音の方が比較的に多い。

一体何を基準に当たり外れなのかわからないまま、千回も図形を選び続ける羽目になった。


途中からは意地になって選び続けたが、千回もの当たりかどうか確信的でない問題に取り組んだ苦労が一気に押し寄せる。

近くの販売機で飲み物を買っていたら、同じような子供達が次々と出てくる。

特に布動俊介は憔悴したような顔で出てくる。そして竜宮健斗の顔を見て涙目になる。


「ぼ、僕…全部外れましたぁ…うう…」

「え!?千回も!?」

「うう…はい」

「そ、それはそれですごいような…」


ランダムで図形を当てていく問題で千回も外すことは逆に難しいんじゃないかと思ってしまう。

竜宮健斗からすれば全部当てるのと同じくらい無理なのではないかと。

しかし千回も外れたような音を聞かされるのは精神的にくるなぁ、と同情するのであった。

その次に出てきた袋桐麻耶は検査着のため、いつものフード姿ではなく野球少年のような小ざっぱりした髪型の姿で出てきた。

そして目を輝かせている。無邪気な少年のような珍しい姿である。


「こ、これは噂のゼナーカードテスト…」

「麻耶?ぜ、ぜ、ゼナカードってなんのトレーティングゲーム?」

「阿保かぁっ!!!そんな市販品遊戯用カードと一緒にすんじゃねぇ!!」


その後は罵声をひとしきり叫び、そして怒ったまま次の検査へ向かってしまう。

袋桐麻耶はパワーストーンや占い、神社の息子という面がある。

そこから竜宮健斗はオカルト検査かな、と馬鹿な解答へとたどり着いてしまうのだった。





時永悠真は検査を受けつつ、見知らぬ子供達に視線を向けていく。

しかし目当ての人物は見つからず、苛立ったように貧乏ゆすりをする。

すると心理検査で医者が回答結果を見て、眼鏡の位置を直しつつこう言う。


「君ね、若いんだから…あまり悩むと禿げるよ?私みたいに」

「ふ、不吉な予感がすることを!?」


目の前にいる光り輝く頭皮をした医者が楽しそうにホッホッホと笑う。

時永悠真は自分の髪を触りつつ、気を付けますと小声で返すだけだった。




そうやって子供達が検査している横で、一か所に集められたアニマルデータ達はアダムスの情報を交換していた。

アダムスが計画している全人類アニマルデータ化&アンドール化について。

しかし意見は動揺によってまとまらず、結局は各判断に任せることになってしまう。

仕方ないことでもあるが、このままでは解決策が出ないままである。

公には秘密であるアニマルデータ達にとって、やはり子供達の自由に動ける長所を借りるしかないだろう。

そのためにはアダムスについて話すしかない。しかし説明しても探し出せるかどうか怪しいものだ。


<一番は…相手から動いてくれることだが…>

<それだと事態が遅い場合がある…危険性も高いしな>


手も足も出ない状況に、ただセイロン達は子供達の検査が早く終わらないかと願っていた。





そしてセイロン達の事態が動かない間に、アダムスと笹塚未来は行動し終えていた。

情報社会というのは便利な物である。個人から発したものでも重大な意味を持つ社会である。

SNSといったコミニュケーションツールの発達に、インターネット普及による世界規模の情報波及。

しかし情報が溢れるばかりに、情報源というものが重要になってくる。

どんな信憑性の強そうな話でも、情報源が怪しければまずデマカセかと一蹴される。

逆に言えばどんなデマカセな情報でも、情報源が信頼できるものであれば必ず波風が立つものだ。

信頼できる話なら性質に強みがつき、逆に怪しい話なら疑いが付属して探究される。


そんな社会に生まれたからこそ、笹塚未来はある作戦を思いつき実行することにした。

竜宮健斗達の生活を脅かすような、笹塚未来自身にもデメリットがあるが希望ある未来に必要な作戦である。


「…要はさ、アニマルデータが世界規模に伝われば楽な話なのよね」


ネット掲示板やSNS以上に情報源として信頼があり、多くの者が持つ媒体。

そこに異質を投げ込む。波風どころが嵐さえ呼びかねないほどの広がりを見せるだろう。


宣戦布告とはそれほどの威力が欲しいのである。



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