別れ道
寝ぼけまなこのまま時永悠真は病室を見回す。
誰もかれも呆けた顔でいる中、息を荒げている笹塚未来。
それは大きな声を出した後のようで、少しだけ顔が真っ赤になっている。
病室を再度見回して、自分の状況を確認し、一回頷いてから呟く。
「うん、夢な予感がする」
「ちっげーよ!!大馬鹿野郎!!俺が命令して無理矢理起こしたんだから現実だよ、ボケ!!」
「…むしろ、夢の方が良かったかも」
ベットの上で体育座りのように体を丸めて、殻にこもるような態度を見せる時永悠真。
しかしそれを許さないように笹塚未来が大股で近づいて、患者着の胸ぐら部分を掴む。
なされるがまま胸ぐらを掴まれた時永悠真は視線だけを笹塚未来から逸らす。
それすら笹塚未来の細胞に命令する能力によって、無理矢理視線を合わせることになる。
「…おい、暢気に寝てんじゃねぇよ…」
「やめてよ…僕はもう疲れた。アダムスも殺せない上に…僕を殺す刺客まで来たんだ…もう、未来は…」
「変えられないってか?じゃあさ、この世界の直線上にあるお前の友達はどうすんだよ!?見殺しかよ!!?」
「…君に、アダムスに味方する君には言われたくない!!!」
「ふざけんなよ!!誰かどう言おうか関係ないだろ!?お前が諦めたままじゃアダムスは確実にお前の友達を殺すぞ!?アダムスはそういう奴なんだよ!!」
笹塚未来はアダムスのことを知っている。自己中で身勝手、意外と執念深い。
子供のように我儘で、笹塚未来もうんざりするほどである。
だからこそ理解している。アダムスがこのままでは時永悠真が守りたかったものは守れない。
未来に生まれるであろう時永悠真も殺される、今目の前にいる時永悠真も殺される。
そして同じような犠牲者がクローバー博士のタイムマシンによって、また別の過去世界に挑んで未来を変えようと足掻く。
単純で繰り返されるリサイクル、笹塚未来はそんな未来が簡単に想像できていた。
だからこそここが正念場と言わんばかりに戦う。戦ってこその人生、人間だと相談した担任教師は言っていた。
「だから!!お前は諦めちゃ駄目なんだ!!」
「うるさい!!そう言って君はどうしたいのさ!?いまさら僕に味方?それとも結局はアダムスの味方?蝙蝠にも程があるよ!!」
「俺はいつだって俺の味方だ!!俺は正しいと思った方向に進む!!だから…お前を起こしたんじゃねぇか」
<み、りゃ、い…にゃ、Na、ん、デ…>
「悪いなアダムス。でもよ…俺はお前のために生きてんじゃねぇんだ。お前が俺のために生きてないように、な」
<うら、ぎる…の?>
「そうだよ。悪いが俺は変わったんだ…俺の考えてた未来は悠真みたいな奴を生み出す未来じゃない」
<う、りゃぎり…もにょ…>
「好きなだけ言えよ。だけど俺は人を殺すのが当たり前みたいな、世界を巻き込む大馬鹿にはもう呆れたんだ」
「未来、ちゃん…」
「アダムス、ここが境界線だ。悠真を殺すか、否か……ここが未来の別れ道だ」
馬鹿のように味方だと信じてきた相手に裏切られたアダムス。
ずっと同じ考えでついてきてくれると思っていた。しかし笹塚未来は違った。
少しずつアダムスの考えに賛同できなくなって、生死の選択を迫られてやっと決めた。
笹塚未来の願いは簡単だ。誰もが救われる未来、死の恐怖に怯えなくて済む未来。
アダムスの願いも簡単だ。アニマルデータが広がった世界、自分のために世界が回る未来。
もともと二人の願望は違っていたのだ。ただ曖昧な問答によってたまたま合致していただけの話。
そして笹塚未来はアダムスに反旗を翻す。別れることも辞さない覚悟で迎え撃つことにした。
<y、うる、SAない…許さない!!未来も死ね!!悠真と一緒に死んじゃえ!!うわああああああああああああ!!!>
「そうやってお前は一人になっていくんだ!!アダムス、お前の未来でお前は一人ぼっちなんだよ!!」
<ち、がぅううううう!!ぼくの、妾の、僕の未来はぁあああああああああ!!>
「楓がいた未来では俺は死んでいた!どういう理由かは知らねぇが、俺はお前と一緒じゃねぇんだよ!!」
<み、らい、ミライを、未来を知った今なら僕は、僕は同じ間違いをおかsないいいいいいいいいい!!>
「そこが間違いなんだよ、アダムス。同じ未来はもうやってこないことを俺達が動いたことで証明されてんだよ」
笹塚未来は冷淡に言う。アダムスは弾かれたように顔を上げる。そして気付く。
楓が来たことは未来では起きなかった出来事。複数世界理論やタイムマシンの構造、そして時永悠真が足掻いたこと。
その時点でこの世界の時間は、時永悠真が来た未来とは全く違う内容になっている。
同じ未来はやってこない、時間は戻ってこない、アダムスは自分の間違いがどれだけ大きいかを気付く。
気付きながらも時永悠真を殺したいという感情で思考が埋め尽くされていく。
<楓!!悠真も未来も殺してよぉおおおおおおおおおおおおお!!!>
「りょ、うかい…」
少しずつ柊の拘束を押し返そうとする楓。だが扇動美鈴がその体に手を触れる。
そして覚悟を決めた様子で呟く。
「クローバー博士として命令します。誰も…殺さないでください…そして死なないで」
「…了解しました」
楓は扇動美鈴の言葉に従った。それは未来の証明。
クローバー博士、別名切札三葉の正体………それは扇動美鈴の未来の姿。
あらゆる物事の水面下で動いていた科学者は、そのあらゆる物事を未来から関与していた存在だった。
将来タイムマシンを開発し、柊や楓を作り、そして竜宮健斗達を助けていく。
あらかじめ未来を知っていたような言動は、クローバーが体験してきた出来事だからである。
扇動美鈴は驚きつつも、あらゆる物事に説明ができる事実に納得した。
そして一抹の不安を感じつつも、そのクローバーという存在を利用することにした。
楓はアダムスによってクローバーを守るために行動していた。しかし誰の命令を聞くかというと主であるクローバーには変わりがない。
未来だろうが過去であろうが、一番優先するべきはクローバーの命令である。
だから楓は扇動美鈴の言葉に従った。創造主であり、主でもある存在に対して敬意を払いながら。
<な、なんだよ…なんあんだよぁぁおらぁおおおあjldksじゃlはlwfはうぇ;えjf;えj;efjqs;qfj;dgj:jf>
「アダムスさん。これが間違いの結果です。人間の…結果です」
<うるさぁい、aljljlfsdj;ふぁ;sdjgぽsjpjgvpjふぇjpg>
「うるさいのはお前だよ、アダムス。俺も楓もクラカも…誰も殺したいと願っていたんじゃねぇよ」
「未来…」
「ただ皆して大切なもののために戦ってたんだよ……」
アダムスが騒ぐ中で布動俊介の瞬間移動によって他の子供達が病室にやってくる。
また隣室で待機と様子を探っていた玄武明良達も部屋の前で様々な表情で病室を覗いていた。
青頭千里も病室に入っていまだに騒ぎ続けるアダムスを黙らせる一言を言う。
「そうそう未来の君だけど…先程クローバー博士から通信があってね、死んだよ」
<l釈迦kjfhkだshk……あ?>
「し・ん・だ。わかる?君は間違いまくって、ツケがやって来ただけなんだよ」
<…>
「詳しいことは後で話してあげよう。とりあえず今日はもうこれでお終いさ。君の未来もね」




