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雪水に溶け込む復讐心

人間に憧れるのは、人間に戻りたいのは、人間がいるからでしょう?

なら皆ロボットになれば、もう悩む必要ないんだよ姉さん。





竜宮健斗は欠伸を噛み殺しながら、崋山優香と登校する。

セイロンやラヴィなどのアンドールは玩具に分類されるため、学校には持ち込めない。

放課後になったら走って家に帰り、ランドセルを置いて事務所へ向かうのだ。

なので今は二人っきりと言えば二人っきりなのだが、いつも通り何気ない話をするだけである。

すると後ろから何人かが二人に声をかける。


「優香りん~」

「あ、七海ちゃん、吹雪ちゃんと真琴ちゃんも…」

「健斗―!おっはよー!!」

「光輝おはよう!泰虎は………おき、てるよな?」


気の強い恥ずかしがりやの山中七海はいつもの二人、二宮吹雪と七園真琴と一緒に。

さらに竜宮健斗に声をかけたのは羽田光輝という少年、そして手を引っ張られている白子泰虎。

白子泰虎はランドセルをお腹の方に背負い、頭をがくがく揺さぶりながらかろうじて歩いている。

何故お腹の方に背負うかというと、寝ながらこけてもランドセルがクッション代わりになるからだ。

寝ながら歩くことを前提とした背負い方だ。

羽田光輝はツンツン頭を毎朝セットしている少年で、髪の尖りに命を賭けている。

しかし校則違反なため、同じクラスのクラス委員長浅野弓子に怒られている毎日である。

二宮吹雪はまーたランドセル逆に背負っててチョーウケると笑う。

その笑い声につられて七園真琴は爆笑している。まさに爆発する勢いの笑いである。

盛大な笑い声にも白子泰虎は目覚める様子を見せない。むしろ欠伸を出し始める。


「泰虎―、起きろー!」

「泰虎くん…光輝くんはお隣でいつも大変だね」

「本当だぜ…なのに本人は…」

「んがー…」


返事をするような欠伸の声に、七園真琴は近所迷惑になりそうな声で笑い続ける。

山中七海は早く学校に行って机に座らせようと提案する。

そこで竜宮健斗が優しいと言うと、顔を真っ赤にして違うと大声で否定する。

すると近くの家で飼われている犬が威嚇するような声で吠えたので、全員が一時的に黙る。

学校に向かって再度歩き始めながら、今度は先程より小さい声で話を再開する。

今日の漢字の小テストは面倒だの、や、給食なんだっけという他愛ない話である。

竜宮健斗はそんな日常が大切で大好きだった。


セイロンは竜宮健斗の部屋の中でぬいぐるみのように静止して休んでいる。

アニマルデータが入ってることは基本秘密である。そのため家族の前では話すことはできない。

また勝手に動いては竜宮健斗に迷惑がかかるため、充電しながら帰りを待つのだ。

多大な暇を持て余す訳だが、実はその時間の間にアンドール通信機能を使って他のアニマルデータ達と会話したりする。

他のアニマルデータと言っても同じように家に置かれているアニマルデータは間借りしているユーザー達の脳が近くになければ、多くは記憶が一部欠落する。

中には無理に思い出そうとして緊急停止する場合があるため、基本は元から確立した個性を持つアニマルデータ達と会話することになる。

上げるとすれば、シュモン、ガト、シラハ、ビャクヤ、キッドといった面々である。

例外的に扇動美鈴は学校ではなく通信教育のため、ホチも会話に参加できる。

世間話からそれぞれの持ち主達との自慢話など、なるべく記憶に関与しない話で盛り上がる。

今日もいつもと変わらない話をしていた。最近起こった地底遊園地の話のその後についても盛り上がる。

その会話を断ち切るように、全く知らないアニマルデータの音声通信をセイロン達は受け取った。






≪姉さんが死んだのに呑気な民達だね…≫







セイロンが跳ね起きるように体を動かしてしまう。

アニマルデータ、民達、姉さん、その欠片達を合わせていくとある少年の顔を思い出す。

クラリスという女王の傍にいつもいた、幼い王子。

同じくアニマルデータになったアダムスという少年。

しかし届いた通信内容からすると、幼さが抜けてどこか影を含めている。

そして明らかな敵意が言葉に込められている。

会話をしていたシュモン達も気付いたいらしく、通信会話ログが急激に増えていく。


≪しかし君達を責める気はない…ただ協力して欲しい≫

≪協力、とは?≫


一番年配であるガトが言葉を最小限に要点だけを尋ねる。

セイロンはどんな内容が返ってくるかわからなかった。

しかし返ってきた言葉に、ロボットでありながら背筋が凍るようだった。






≪全人類アニマルデータ化…そしてアンドール化だよ≫






そして一方的に通信は切られた。

まるで足跡を消すように会話ログも何事もなかったように、今の言葉を抹消している。

しかしセイロン達のCPUには確かに今の言葉が記録されている。

アニマルデータは多くの悲劇や欲望を呼んだ。不老不死に近いエッグシステムが生み出したシステム。

かつてはそれで何十人の子供が犠牲になろうとしたか、そして何人犠牲にあったか。

忘れるはずのない悪夢が、セイロンのCPUに襲い掛かる。

黒焦げになった体、西洋人形のような姿のロボット、死んでしまった少女。

データ化されたことに気付かないまま、二度目の死を嫌って消えた少女。友達に死を望まれた少女。

全部思い出して迷って竜宮健斗の体を乗っ取ろうとした忌々しい自分。

またあれを繰り返すことになるのだろうか、とセイロンは今のこと全てがなかったら良かったのにと願った。

しかし無情にもCPUは今のことを確かな事実として認識していた。







時永悠真は同居人である柊の報告を受けて、急いで家に帰る。

学校には通ってないため、すぐに雪道を走り抜けて玄関の扉を勢いよく開ける。

閉めることも忘れて柊が操作しているパソコンの前に向かう。

そこには抹消された会話ログと、抹消される前の会話ログが残っている。

柊はアニマルデータ達の会話を盗んでいたのだ。もちろん毎日ではない。

確実にこの日のこの時間と確信した上での行動である。これは予め知っていた事実である。

時永悠真は暗い部屋の中で、光るパソコン画面を凝視した。

その光に照らされた顔はいつもの余裕そうな微笑みではなく、憎しみに彩られたものだ。


「やっと…やっと見つけた!アダムス!!」

「…悠真さん。ここからは博士も知らない未来となります…くれぐれも間違いを起こさないように」

「わかってるよ…これが僕に与えられた、最初で最後のチャンスなんだから…」


歯ぎしりするように時永悠真は、口元を引き締めて真剣な顔をする。

ポンチョを着ているその下に隠れたズボンのポケット、その中には十徳ナイフという収納できる刃物。

見つかれば銃刀法軽違反で逮捕される危険性もあるもので、時永悠真はそのナイフを常に身に着けていた。

いつもは持ってないような素振りで人当たりの良い少年として過ごしている。

しかしあるタイミングのために時永悠真はずっとそのナイフを持っていた。


「これが…あいつを殺すたった一回のチャンスなんだ」


それが叶うなら死んでもいい、そんな覚悟を滲ませて時永悠真は絞るように呟く。




時永悠真は学校に通ってない。

それどころが現在では戸籍も身分も証明できない。

親や家族友達とも二度と会えない。

住処などは全て同居人であり保護者のような柊が用意した。

しかしこの柊すら知り合い程度の仲である。

梟のアンドールのロロも本来ならここにはいない存在。

帰る場所はない。二度と戻れない場所だから。


時永悠真だって好きこのんでこのような状況にいるわけではない。

しかしこうしなければいけない理由があった。

彼には大切な友達が二人いた。哲学好きの少年と、明るい少年。

どちらも死んでしまった。時永悠真は一人だけ生き残った。

なにも力がない自分が悔しくて辛くて、ある人物が伸ばした手を掴んだ。


「クローバー博士から伝言です。大変不本意だけど頑張れ、だそうです」

「…ありがとう、って伝えておいて。そして、ごめんって………今なら彼が送らなければいけない意味も分かった」


これは時永悠真の復讐の話である。


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