パフェラブノックダウン
哲学が好きな少年がいた。麻呂眉毛が特徴の冷静な子供。
兵器として育てられた少年がいた。明るい性格で年中へそだし姿が特徴の子供。
そんな二人と友達の少年がいた。穏やかで基本二人の間にいるような子供。
三人はとても仲が良かった。幸せな未来を信じて疑わなかった。
疑えばもっと違う未来があったのかもしれないと、一人残った少年はずっと後悔している。
どんな生い立ちで、どんな育ちで、どんな将来が待っていたとしても、二人がいれば大丈夫だと思っていた。
そんな二人は自分を置いて消えてしまった。一人は細かく砕けた。もう一人は派手に散った。
何度も後悔した。百回や千回なんてものじゃない。子供の頃間違って使っていた億万回が使えたとしても、それ以上に後悔した。
手を伸ばされた。二人が死ぬ原因となった元凶。元凶が殺したわけじゃない、でも似たようなものだった。
同情するような笑顔で、よく知っているけど知らない笑顔で、優しく手を差し伸べてきた。
その手を振り払って逃げ出した。赤い夕焼けだけが血のように目に焼き付いて離れない。
もう一つ差し伸べられた手があった。その手は覚悟を差し出せば機会を与える冷たい手だった。
その手を強く握りしめて少年は決意する。思い出の中でしか会えなくなった淡い笑顔二つを思い浮かべながら。
笹塚未来と浅野弓子達による竜宮健斗と崋山優香ラブラブ大作戦第三弾は西エリアだった。
味わい深いどこか昔を思い出させる西エリアのデートスポットは純喫茶店。
そこの特大パフェを二人で完食すれば両思いになるという、食い気が試される、どうしてそんなジンクスがついたのかわからない内容だった。
竜宮健斗と崋山優香、浅野弓子と羽田光輝、白子泰虎と七園真琴がその特大パフェに挑戦することに。
笹塚未来と山中七海に二宮吹雪は、ギブアップした時に残すのはもったいないのでいざという時の処理係である。
そしてどこからか噂を嗅ぎ付けたのか、西エリアチームも見学しに来ていた。
笹塚未来以前に転校した仁寅律音は浅野弓子達に久しぶりと言う。
後はお互い初対面なので葛西神楽達の自己紹介も交えて気軽に挨拶をしていった。
「ふーん、それで健斗は優香ちゃんとねぇ…どうする都子ちゃん?」
「え!?あ、あの…その…えと………麻耶くぅん…」
「情けねぇ声出すな、この奥手娘!!少しは流行の肉食系女子みたいな行動しろや、ボケェッ!!」
凜道都子は発破をかけられて頼もうとしたが、やはり恥ずかしくて言い出せないまま終わる。
その間に葛西神楽がナポリタンを頼み、筋金太郎はパンケーキを注文している。
笹塚未来は三組がパフェを減らすのを横目で見つつ、仁寅律音が気になる素振りを見せる。
そして耐え切れなくなって山中七海と二宮吹雪に気になっていることを小声で聞く。
「律音…くん?」
「詐欺だよね。でも確かに男子だよ…光輝が男子トイレで確かめたらしいから」
「チョー怒られたらしいけどね。それにしても相変わらずチョー美少女面」
「…………聞こえてるよ」
女子の会話に割り込むかどうか少し考えてから、仁寅律音はどうしても看過できずに割り込んだ。
袋桐麻耶は水を口に含んでいたせいで、その水を葛西神楽の顔に吹き出してしまう。
清涼感を与えるためのレモン水だったため、葛西神楽は目を押さえて目がぁあああと暴れまわる。
凜道都子がハンカチを手渡し、筋金太郎が暴れるのを抑え込む。
仁寅律音はそんな西エリアのメンバーに対し溜息しか出てこなかった。
竜宮健斗と崋山優香は完食したものの、テーブルでうつ伏せになってしまう。
羽田光輝が途中で胸やけすると言ってダウンし、浅野弓子ができるだけ食べたが完食にならず。
白子泰虎と七園真琴の場合は片方は食べもせずに寝続け、七園真琴一人で完食に至った。
「まじこれ一人で完食とかやばくね!?あっはははははははは!!!」
「ぐー…」
爆発するような笑い声が純喫茶店に木霊する中、仁寅律音は東は平和だなぁとのんびりしていた。
もちろん西が忙しいかと言われたら、こんな茶番に付き合ってる時点で平和そのものである。
アダムス・フューチャーズやアダムス、アニマルデータをマスコミが取り上げ続ける最中。
目立った事件など何もなく、恋のジンクスでラブラブ大作戦やっているあたり、どこでも平和だろうと考えてしまう。
平和の証である青空を眺めようと窓に目を向ける。すると知り合いが純喫茶店を眺めていた。
しかし目線が合うと慌てたように去っていく。仁寅律音は似てるだけかと疑問に思う。
その知り合いは時永悠真で、いつもの余裕な顔じゃなく、どこか切羽詰まっていた。
思いつめたような表情は初めて見たもので、思わず他人かと疑ってしまうほどである。
だが肩に梟のアンドールを乗せていた。ならば十中八九時永悠真に間違いない。
仁寅律音はどうして西エリアにいるのかと思ったが、遠出の買い物かなと気にしないことにした。
時永悠真は西エリアの路地裏でこっそり後悔していた。
今日はどうしようかと悩んでいたら、おそらく一番あの場で気付かれてはいけない人物と目が合ってしまった。
しかも今は肩に梟のアンドールであるロロが乗っている。ほぼ確定されたに違いない。
だからといって仁寅律音が積極的に時永悠真を見かけたと話すだろうか。
利益重視の性格なため時永悠真を見かけたことは利にはならないと判断して、もしかしたらすでに記憶の片隅かもしれない。
それでも疑問には思うだろう。どうしていたのかと。
急がなければいけないかな、と時永悠真は焦り始める。時間はいくらでもある。
でも早い方が安心できる。善は急げということわざが頭に浮かぶ。
遅くなってからはどうにもならないことを、時永悠真は痛感していた。
「……やっぱ僕は浅ましいなぁ…そんな予感はしてたけど」
<悠真…>
「生き残る前提で殺すんじゃ駄目かも…相打ち覚悟で…」
時永悠真は路地裏の建物の壁に額をくっつけて、小さく呟く。
残った命である。死んだ二人の分も生きようとは思っていない。
もうアダムスを殺す以外に目標のない人生。目標達成が人生の終わりでもいいだろう。
一番悪いのは目標達成できずに人生が終わることである。それだけは避けなければいけない。
今日は諦めて時永悠真は北エリアへ帰るために駅に向かう。
最近は事務所に向かうことが少なく、心配させているかもしれないと思考する。
北エリアの仲間を思いだし、時永悠真は微笑む。
騒がしくて個性が濃い仲間達。新しくできた友達。
その友達を泣かせてしまうかもしれないけど、時永悠真は止まることはできなかった。




