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ANDOLL*ACTTION未来世界編  作者: 文丸くじら


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将来未来到来

小学校において子供達に進路希望という明確な内容を聞くことはない。

だからこそわかりやすくも好きなように書ける用紙を渡す。

簡単な文言が書かれており、子供達は悩んだり最初から決めていた事柄を書く。


将来の夢は何ですか?


竜宮健斗はその質問に対して全くペンが動かなかった。

これになりたい、あれになりたい、それもいいなという夢はいくつもある。

でもそれは本当に紙に書いてまで叶えたいかどうかと言われると、答えは否である。

結局授業の終わり、チャイムが鳴るまで竜宮健斗は何も書けなかった。



放課後、久しぶりに東エリアの事務所に顔を出した竜宮健斗と崋山優香。

崋山優香がメール管理のパソコンを開けば、そこにはNYRON大会の内容告知。

竜宮健斗がすぐに画面に注目し、相川聡史や瀬戸海里、鞍馬蓮実も集まり始める。


NYRON大会開催地は中央エリア。

開催時刻は十一時、受付時刻は九時。混雑が予想されるのでエリアチームは八時集合。

大会内容はフラッグウォーズの多人数対戦のメニーフラッグ方式。

エリアチームとユーザー対一般参加者の紅白対決。

受付の際にアニマルデータ所持の確認を行うため、各エリアは登録準備を進めるように。

大会後にはマスコミの取材が来ると思われるので、適切な態度で自分の意見を述べるように。

もしマスコミの取材内容が不適切であったり、不快感をもたらすものだった場合、係官を即座に呼ぶように。

こちらから子供達の意見を限定するようなことはしない。好きに自分の意見を述べると良い。

エリア管理員会、御堂霧乃より。


追伸:色々問題は転がっているが、お前達なら大丈夫だろう?気合入れろよ。



必要事項だけを記入したようなメール。

添付されている画像ファイルには大会ポスターが入っており、開催日も決定されていた。

それだけで竜宮健斗は期待を膨らませる。新しい大会、しかもユーザーとアニマルデータを持ってない一般参加者の対決。

今までの大会はNYRON内の子供だけに限定されていたが、今回はアニマルデータの注目により外からの子供が多く参加するだろう。

もしかしたら参加していなかった強敵も現れるかもしれない。少年漫画のような展開に竜宮健斗はテンションを上げていく。

崋山優香はユーザーではないがエリアチーム所属なのでユーザー側になる。そのことに一息つく。

同じようなメールを受け取ったのか、南、西、北から事務所回線で通信が入る。

パソコンのテレビ電話プログラムを起動させ、自由に会話できるようにする。


『大変だにゃー!!!』

「神楽?どうしたんだ!?」

『西のチビうるさいぞ』

『こちらのパソコンのスピーカーが音割れするような声出すんじゃねぇよ!』


四つに分割された画面の内の一つ、その全てを自分の顔で埋めながら葛西神楽は必死な形相で大変大変と繰り返す。

後ろの方で袋桐麻耶がカメラから顔を離せ単純、と怒鳴っている声がする。

筋金太郎がゴリラのような巨体を生かして葛西神楽の体を持ち上げて他の場所に移す。

凜道都子が顔を近づけすぎて曇ったカメラ画面を清潔な布で拭く。

すると一番後ろの方で無表情でヴァイオリンケースを片手に立っている仁寅律音がいる。


「神楽―。なにが大変なんだ?」

『り、律音さんが…律音さんがボスににゃるって!!!!』

「ににゃる?」

『ちっがーう!!!!だから律音さんが西のボスになるんだよぉおおおおおお!!!!!!!』


キャラ付けの猫語も忘れて興奮したように叫ぶ葛西神楽。

西のエリアボスは今まで空席で、副ボスの葛西神楽がボス代行をしていたようなものである。

というのもずっと仁寅律音をボスにしようと奮闘して失敗していたからである。

仁寅律音は何度頼み込まれても断り続けていた、それは竜宮健斗達も当たり前のように受け取っていた。

なのに今更どんな心境の変化があったのかと仁寅律音に注目が集まる。

表情を変えずに仁寅律音は人差し指だけで一のジェスチャーをする。


『僕は一年だけならボスになっていいと言っただけ』




仁寅律音はヴァイオリンの稽古を続けていた。

週に何度か知り合いの音楽教室に向かいレッスンする。

家でも練習を欠かさず、上手く弾けなくて苛立つときは楽譜を紙飛行機にして飛ばす。

今では通院を繰り返す母親と一緒に稽古することもあり、充実な生活を送っている。

前まではヴァイオリンの大会でも技術は認められても、感情がないと言われて金賞などを取る機会がなかった。

しかし己の感情を自覚した頃から、仁寅律音は何回か最優秀賞をヴァイオリンの大会で貰えるほど成長していた。

知り合いの音楽教室には貰ったトロフィーがいくつも飾られ、また大会の審査員をしていた有名な音楽家から留学の提案をされた。


『で、僕は一年後留学するつもり。その間ならボスくらい思い出にやってあげてもいいよってこと』

「お、音楽留学ぅううう!?お前英語とかできんのかよ!?」

『行き先はフランスだからフランス語だけどね。音楽用語とか基本くらいなら母さんから教えて貰うつもりだよ』


相川聡史の疑問に仁寅律音は流すように答える。

海外では英語と考えていた相川聡史はすぐに顔を真っ赤にする。

それにしても同い年の子供が留学するという単語だけで、竜宮健斗達は驚きを隠せない。

葛西神楽はやっと自分の熱い思いが届いたと恋愛お守りを改造した友情お守りを握り締めている。

仁寅律音としてはそのお守りを速やかに処分したいので、ボスになったのではないかと袋桐麻耶は怪しんでいる。


『最近はさ…母さんと父さんの話をするようになってね…』


仁寅律音は目線を伏せて、零すように語っていく。

仁寅律音の母親、仁寅董子は夫である仁寅奏を飛行機事故で亡くしている。

あまりにも唐突で若い夫の死に錯乱してしまい、息子を夫と勘違いしてしまうほど気を病んだ。

そのことで仁寅律音は母親のために父親を演じたが、父親との思い出は少なくてほとんどが祖父母からの伝聞だった。

母親が自分の勘違いに気付いたのは事故から十年経った、つい最近でありやっと二人は親子として過ごせるようになった。

かつてはオペラ歌手だった母親は夫と同じようにヴァイオリンを弾く息子に対し、懐かしそうに夫との過去を語るのだ。

もちろん二人を混同することはない。仁寅奏は大切な思い出、仁寅律音は大切な息子として接している。

仁寅奏と最も長く接してきた母親の話は、仁寅律音が思い描いていた父親像とはいくつもかけ離れていた。

美しい外見なのに身なりを気にせず、なのに料理だけは上手い。しかし折り紙を折れないほど不器用な面も。

有名なヴァイオリニストだったが気分じゃなければいくつも公演を断り、ついた二つ名が気まぐれ奏者。

だが彼が出演するとそのコンサートチケットは必ず完売するという伝説までついたという。

母親が大事にしまっていたコンサートCDのヴァイオリン独奏は、その伝説が信じられるほどの素晴らしさだった。

仁寅律音はそのCDを聞いて、父親のことを深く知り、そして決心した。


『父さんを超えるヴァイオリニストになる。これが僕の夢』


心の底から笑う仁寅律音はその美しい容姿も相まって、見る者を惹きつけた。

特に葛西神楽には効果抜群だったらしく、デバイスのカメラ機能で即座にシャッターをきり、保存する勢いである。

その保存した写真は五分後に密かに仁寅律音が消すことも知らずに嬉しそうに眺めている。


「…夢、かぁ。なぁ皆は夢とかある?」


将来の夢について何も書けなかった竜宮健斗は尋ねる。

すると各自好きなように自分の夢を述べていく。


崋山優香はアパレル関係。可愛い洋服をデザインできるデザイナーになれたらいいなと思っている。

相川聡史は小学校教師。今の担任に憧れて目指したいと小声で顔を真っ赤にして言う。

瀬戸海里は習字教室開講。実家の料亭は兄が継ぐだろうということで、好きな習字に関わっていきたいため。

鞍馬蓮実は保育士。子供達と遊ぶ職業で、また就職先を増やすためにも得意のそろばんを生かして会計士の資格を取るつもりらしい。


籠鳥那岐は刑事。キャリアもいいが現場で動き回りたいので入念な下調べをして決めると断言する。

錦山善彦は敏腕マネージャー。目立つのは苦手だが誰かを支えるのは得意だからと照れくさそうに言う。

伊藤一哉は消防士。赤い消防車が大好きでカッコいいからと笑う。

伊藤二葉はパティシエ。甘いもの好きで悪いかこの野郎と逆ギれする。

伊藤三月は女優。南エリア全員がある意味適役だなと納得してしまう夢である。


葛西神楽はダンサー。将来的には家のダンス教室を引き継ぎたいと明るく言う。

筋金太郎は実家の花屋。跡取りとして今から手伝いをしている。

袋桐麻耶はミュージシャン。丸刈りされても実家の神社は嫌だとげんなりしている。

凜道都子はお嫁さん。しかし内情を知っている者達は姉御かぁ、と若干ひいている。


玄武明良は既に働いているが、工学者。ロボット産業の発展。

扇動美鈴はタイムマシン開発。そのために必要な文献や新発見を集めているらしい。

猪山早紀は確定しているが玄武明良の嫁である。安泰な未来なため問題はない。

残るは絵心太夫と時永悠真の二人である。


『俺は父親である偉大な牧師の上を行くエクソシストを目指そうと思う!!!!』


絵心太夫はいつもの調子で中二の発言をしたと誰もがスルーしようとした。

しかしスルーするにはあまりにも大きな発言があり、特に同じエリアの玄武明良達は目を丸くしている。


『び、病人!?おまっ、ち、ちち、父親が牧師って…』

『ん?言ってなかったか?俺の家は北エリアにある教会を運営をしているんだ』


牧師の息子、という普段の行動から似合わない絵心太夫の背景が唐突に現れる。

しかしエクソシスト目指す辺りはまだまだ普段通りかな、と何人かは動揺を抑え込んだ。

エクソシストとは相応の経歴や人格者であること、他にも様々な厳しい審査基準がある。

その審査基準を乗り越えてバチカン市国から認定許可が下りて初めてエクソシストと名乗れる。

審査基準には何十年という経験が必要な場合があり、容易なことではない。

それでも絵心太夫は謎の決めポーズをとり、悪魔退治は任せろーと意気込む。

ファンタジーな存在の悪魔という単語を聞いて、ファンタジー嫌いの玄武明良は鳥肌を立たせる。

必死に悪魔という存在の科学的根拠とその正体を書いた論文内容を思い出して呪文のように口にする玄武明良。

そんな玄武明良を無視して、絵心太夫は最後の大トリとなった時永悠真に将来の夢を聞く。

しかし時永悠真は少し困ったような笑顔で朗らかに告げる。


『僕はまだわかんないや。未来なんて…遠いから』


いささか拍子抜けであったが、それ以上追及はできない。

そこから話は変わってNYRON大会について話していくことになった。

竜宮健斗は意外と皆将来のこと考えてるんだと感心していた。




<…なぁ、健斗。俺達アニマルデータからも話したいことがあるんだ>


セイロンは画面越しのシュモン達にも確認をとりつつ、ずっと話せなかったアダムスからの通信について語りだす。

アダムス・フューチャーズというものが動き出し、アニマルデータが世界中に知られていく今。

もう放って置けないとセイロン達は判断した。懺悔をするように粛々と語っていく。

竜宮健斗はセイロンの記憶を見たことがある。確かにクラリスには幼い弟のアダムスがいた。

そしてやっと気づく。アダムス・フューチャーズのアダムスという名前の意味を。


<王子は…クラリスが死んだのを知っていた…おそらく自由に通信できる状態になって通信を試みたのだろう>

「…なくなったアニマルデータに通信するとどうなるんだ?」

<…DEAD。まだ復活していない者達はLOST、通信が取れないだけの者は圏外。そうやって表示される…そういう仕組みだった>


セイロンはクラリスが死んだ後にいくつか通信を試した。その結果である。

死んだと思っても納得しきれず、少しだけ足掻いた。だが明確な表示に自分が決めたことなんだと我慢した。

そして認めた。二度と会えない者のことを。本当に手が届かない場所まで逝ってしまったのだと。

セイロンはクラリスの死に際を見ている。最後の言葉も交わした。だからまだまともでいられる。

しかしアダムスは知らない内に大好きな姉が死んだことを、通信表示だけで知ってしまったのだろう。

どれだけの衝撃を受けただろうか。どれだけ絶望したのだろうか。そう思うだけで思考を止めたくなる。


<もうこれ以上お前達を俺達の事情に巻き込みたくなかったが…すまない、健斗>

「謝んなよ、セイロン。別にお前が悪いわけじゃないだろ?」

<だが…俺達は…>

「クラリスにキッキ…最初は敵になった奴は皆悪いのかなって考えたこともあった…」


扇動涼香をアニマルデータにしたクラリス、それを頼んだ御堂霧乃。結果、扇動涼香は死んだ。

感情を知るために母親のために竜宮健斗達を利用した仁寅律音。

死んだ娘のために扇動美鈴の体と魂を犠牲にしようとした扇動岐路。

竜宮健斗に勝とうとして秘密裏に裏切っていた相川聡史。

自分の夢と孤独を紛らわすために出口のない遊園地を作った地底人キッキ。

ウィルスAliceのせいで記憶を手放して暴れたゴーレムのレム。

同じウィルスのせいで破壊衝動で埋め尽くされ、体も改造されたピエロ。

青頭千里を見返すためだけにシステムエッグを使ってウィルスを作った青い血のジョージ・ブルース。

敵として子供達を攪乱するためだけに作られたチェシャ猫、帽子屋、ドードー鳥。


もしかしたら知らない内に敵になっていた者もいたかもしれない。

竜宮健斗達は何度もそんな敵と分類できる者達と相対してきた。

そして簡単な答えに辿り着く。見落としがちなとても小さくて簡単なこと。


「皆必死に生きてるだけなんだ…必死に、自分の意思で戦うことを選んだんだ」

<…健斗>

「だから俺達にできることは全力で自分の意思をぶつけることだと思う」


自分のため、誰かのため、なにかのため、そうやって生きてきた相手達とぶつかってきた。

到底理解できない思考の者もいた。それでも自分の意思で進んでぶつかってきた。

するとその意思に賛同する者、協力してくれる者、仲間が集まった。


「アダムスだって人間だろう?ならきっとわかりあえるって俺は思うよ」


快活な笑みを浮かべる竜宮健斗にセイロンは安心する。

いつだって竜宮健斗はそんな笑顔で乗り越えてきた。

今回のアダムスだってその笑顔で乗り越えられるかもしれない。

そうやって余裕を出してしまったセイロンは気付かない。

時永悠真がその呑気な会話を聞きながら、ポケットにしまっている十徳ナイフに触っていることに。

事態は現在の時間だけで終わらないことに、気付けるはずもなかった。



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