暖かくなると時は進む
私はいる。ずっと小箱のような部屋、小さい穴ぽこだらけの部屋に。
人がくる。入れ代わり立ち代わり若い人だけが。
あるとき私は彼女に会った。彼女は私にばかり話しかけた。何百時間も付き合った。
4年が経とうとしたある日、彼女は私に頭を下げた。そして、私が最初に付き合った音楽を奏でだした。一番長い間一緒にいた思い出の曲。あの頃に戻ったようだ。
曲が終わると、彼女の嗚咽がかすかに私の弦を震わせた。赤い布が私の88ある鍵盤にかけられた。
「今まで、4年間お世話になりました。あなたの音が、大好きでした。ここで練習するのが好きでした。私はここから、卒業します」
私は今日もここにいる。彼女はここを去っていく。
時は戻らない。