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死に神とさいきょうのよふかし

 玄太を警察に凄く丁重に引き渡し、僕達はいそいそと清水さんを連れてアトリエを後にした。運転は勿論僕で、彼女達女性陣は後ろの座席、加藤さんが助手席である。後ろの彼女達は肩を並べて小さな寝息をたてている。

 加藤さんは、後ろの彼女達に気を使っているのか、黙っている。

「聞きたいことがある」

 初め、これが誰から発せられた声なのか、僕は理解できなかった。バックミラーを見て彼女達が眠っていることを確かめると、助手席に左目を向ける。するとやはり、加藤さんが此方に目を向けている。と言っても、加藤さんは僕と目が合うと、直ぐに目を逸らしたが。僕も前に向き直ると、加藤さんはそれを肯定と受け取ったようだ。

「何でお前、あの子の隣に居るんだ?」

 あの子、とは彼女――瀬良那美――のことか。隣に居ると言うか、無理矢理付き合わされていると言うべきなのだ。そこを勘違いしてもらっては困る。彼女の行動に僕の意思は一切関与していないし、好きで彼女と隣に居るわけでない。

 返答に困っていると、加藤さんはそれをどう受け取ったのか、鼻をフンと鳴らした。

「お前、彼女が本当に必要としているのか。本来、お前は要らずに相沢さんだけで十分だろう」

 もしかしたら、僕は加藤さんに例の僕の特異体質のことを言わなければならないのかもしれない。というか、知らなくて当たり前なのか。彼女が話してない限りは。けど、あれを説明しても、理解してくれるかどうか。

「言っておくが、お前のそのふざけた死に神体質のことは聞いてる。それでも、俺には体質のことがあってもお前を傍に置いておくということが有り得ない。それよりも彼女が相沢さん以外の人間を傍に置いていること自体有り得ないんだよ。あんな不信感を擬人化させたような彼女が、お前みたいな人間的に不安定な奴と行動を共に出来るなんて思えない。一体お前と何があったんだ?」

 そんなことを言われても……。

体質以外の理由があってもそれがどんな理由なのか僕は知らないのだから。そういう話をするべきなのは、僕じゃなくて、相沢さんか彼女本人に聞くべきだと思うが。何かあったとすれば、僕の記憶で一番古い彼女との事件しかないのだが。しかし、あの時の記憶はあやふやだし、あの時の事件はあまり語りたくない。

僕は加藤さんに、あの事件について掻い摘んで説明した。だが、加藤さんはそのことを聞いてもあまり納得していない様子だった。

「その事件についてもう少し詳しく――」

「あんた達、何を話してるの?」

 加藤さんが後ろを振り返った。彼女は半分寝ているような状態で此方を睨み付けているのが、ルームミラーで確認できた。どうやら、話し声で起きてしまったらしい。

「何でもありません。ただの世間話ですよ」

 と、彼女に言うと、彼女は、五月蝿いから静かにして、と僕に告げると、再び眠りについた。加藤さんも流石にこのまま話を続けるのは不味い、と思ったのだろう、助手席で寝る体勢をとった。



 途中で加藤さんと清水さんを降ろし、僕達も帰路に着く。邸宅に着いた僕は、静かに寝息をたてて動かない彼女を寝室まで運ぶ仕事を相沢さんに仰せ仕り、おんぶで部屋まで運び、器用にドアを開け部屋に入ると、ベッドの上にそっと――国宝の陶器でも扱うように慎重で繊細に――置いた。その間、彼女は一切起きる気配を見せず、深い眠りについているのが見て取れた。

 そんなに疲れていたのだろうか。と思ったが、そんなに彼女が疲れるようなことをしているのを見ていない。ということは、僕の知らないところでまた夜更しをしていたのだろう。全く、成長期の夜更しは成長に悪影響を及ぼすというのに、困ったものだ。

 僕が少し呆れた溜息をついて、寝室を出ると、相沢さんがドアの前で待っていた。

「どうしたんですか」

「少し、お茶会をしましょう」

 こんな時間から、お茶会? 時刻はもう、零時を通り越している。どちらかと言えば、飲み会の二次会でも始めそうな感じだが。

 まぁ僕が相沢さんの誘いを断れるはずがなく、渋々了承し、相沢さんの後ろをついていくことにした。

 つれてこられたのは、相沢さんの屋上庭園だった。相沢さんはいつの間に用意したのか、紅茶をポットからカップに注いでいる。僕は席につくと、相沢さんが紅茶の入ったカップを前に置いてくれた。紅茶を一口啜る。相沢さんも向かい側に座り、同じように紅茶を啜った。

「それにしても、楽しい話をしていましたね」

「何の話ですか?」

 と、本当に何のことか分からなかった僕は、質問を返す。相沢さんはニコニコと笑いながら、車の中での加藤さんとの話です、と答えた。

「聞いてたんですか」

 起きていたのか。いつから聞かれていたのだろう。それにしてもあの話を聞いていたのなら、加勢してくれても良かったと思うんだが。僕がバツな悪そうな顔をしていると、相沢さんがまた笑った。

「それにしても、あの時の話をしましたか」

 あの時の話、というのは僕が加藤さんにした話のことだろう。しかし、あの場面ではあれぐらいしか話すことがなかったし。相沢さんは笑顔で何も言わない。きっと、あの時のことについて思い出しているのだろう。そういえば、相沢さんに聞きたいことがあったのだ。

「そういえば、一つ前の事件で僕が帰ってくれば彼女も喜ぶって言ってましたよね。あれってどういう理由なんですか?」

「ん~、加藤さんと同じようなものですかね」

 答えの意味が理解できなかった僕は首を傾げた。相沢さんはそんな僕を見て、笑顔を向け続けている。夜はまだまだ長い。


死に神と女神としんめとりー<終>


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