はんにんとはんにん
「あんた、頭探してきなさい」
警察が来るまでの間、僕は他でもない彼女の命令で、なくなった田中浩二の頭を探すことになった。相沢さん達は七々原弘太の監視。肝心の彼女は、警察が会うのが嫌らしく車に避難している。
頭が見付かったのは焼却炉だ。煙が出ていたので、直ぐに分かった。火を消して熱がひくのを待ってから頭を取り出す。頭は焼け焦げて誰なのか判別出来なくなっている。さてと、彼女に連絡しないといけない。僕は携帯を取り出すと、彼女に電話する。
「頭が見付かりましたよ。燃やされてて、誰の頭かは判別できないですけど」
そう告げると、彼女の唇が動いた。
「それ、田中浩二じゃなくて七々原弘太の頭よ」
何を言っているんだ彼女は。犯人は七々原弘太で、殺されたのは……、殺されたのは、誰だ? 彼女の言葉を理解した時、僕は大きな溜息を吐いた。そうすると、彼女に頭を叩かれた。溜息を吐くな、という目で此方を見つめている。
「どうして黙ってたんですか?」
「だって、言ったら私の見せ場がなくなるじゃない」
僕は溜息を吐いて、彼女との通話を切った。続いて相沢さんに電話する。
「どうかしましたか? あ、もしかして、頭が見付からないから助けて欲しいんですか?」
「違いますよ。それより、頭のことなんですけど……」
…………相沢さんの確認も取れた。後はまた彼女に電話して、全てを話さなければならない。
「全員集まったわね。それじゃあ始めるわよ」
広間に集められた僕達全員は、彼女に視線を向けている。と言っても、僕には真実は分かっている。早速彼女は弘太に成り済ました浩二さんを指差した。
「貴方は七々原弘太じゃない、田中浩二だ」
相沢さんたちが田中浩二、いや七々原某に目を向けた。
「どういうことなんだ? あいつは田中浩二だろ?」
と、加藤さんが質問してくる。そこは察して欲しかったな。
「察しなさいよ。実はあいつは田中浩二じゃないのよ」
つまり、田中浩二さんは偽名で、彼は七々原兄弟の兄弟と言うわけだ。双子じゃなく三つ子だったとかいうギャグみたいなオチだったわけだ。笑えないが。
「何で私が田中浩二だと?」
「私はそんなの感覚で分かるわよ」
「それじゃ証明になりませんよ」
「そんなこと分かってる。確かな確証があるのは、あんたの髪が全然汚れてないことよ」
出会った時、弘太の髪の毛は木屑や石膏の砂で汚れていた。しかし、今弘太、いや浩二の髪の毛は木屑の一つもない。
「髪が汚れてないから何だっていうですか? 私が風呂に入ったかもしれない」
「あんたにいつ風呂に入る暇なんてあったのよ。七々原弘太を殺したあと? 風呂場は私達がいるリビングの先にある。七々原弘太の死体が発見されたとき、私達は此処にいた。その時、人は通ってない。風呂に入るならドアの開く音ぐらい聞こえるわ」
「あなた達が騒いでたからじゃないですか?」
「あの時、リビングには私とこいつしかいなかった。その時、私達に会話なんてなかったわ。あなたが前を通ったって言うのなら、リビングが静かだったことぐらい分かるはずだけど?」
七々原某は頭を掻きながら大きな溜息を吐いた。頭からは矢張りゴミが落ちない。
「まさかそこまで覚えてるとはな。双子とかいってたら、大抵しか顔しか見ないはずなんだが。畜生、失敗したか」
「ということは認めるのね?」
「ハイハイ、俺が殺しました。俺達は一卵性の双子じゃなく三つ子だ」
「本名は何ていうの?」
「俺の名前は七々原玄太」
「あんたのアリバイは?」
「あのアリバイは弘太と共謀した。二人で大地を殺したんだ。あいつも大地を憎かったらしいからな。確か自分みたいな才能を持ってるのが気に食わなかったとか言ってたっけな。俺が大地を殺してから、弘太が死体を吊るしてる間に俺が証拠品と処分。あいつはまさか自分が殺されるとは思ってなかっただろうな。で、弘太を裏切って殺したわけだ。そして成り済ましてお前等の前に現れたわけだ」
「でも、入れ替わる意味なんてあったのか?」
と、加藤さんが質問してくる。
「そんなの知らないわよ。大方、天才の一人に成り済まして捕まったりしたら、こいつの兄弟の評判がガタ落ちするからじゃないの」
きっと彼女の言うとおりなんだろうな。つまり、あの時出てきたのも捕まるためだったというわけだ。玄太は
「最後に、あなたが二人を殺した理由は?」
「理由? 理由は一つ。憎たらしかったから。それだけだ。それだけで人を殺せる」