表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

【没ネタ】【新装版】【第壱話】神子様と奴隷を望む黒猫

 プロローグ的な何か。


 これはジャンルはダークファンタジーになるのかな?

 だれかぁー、美人の描写の仕方を教えてくだせぇ……orz


 非現実なことが突然に、目の前で展開され続けたら誰だって困惑すると思う。

 まさに、今の俺がその状態だ。

 この状況を説明できる人がいるなら、即座に俺に分かりやすいように解説して欲しいものである。

 

 そもそもアイツ(・・・)との出会いが現実的でない非現実の始まりであり、アイツ(・・・)との契約によって異世界とやらに飛ばされたと仮定すれば納得がいく話ではある。

 理解はまったくできないがな。

 気付けば一面が木で囲まれた森の中であり、先程から目の前で三つ指をついて深く頭を垂れてる女性がいるのも夢でなければ、たぶん現実なんだろう。

 一見すれば、黒髪に着流しの和服という姿からして日本人と判断しそうな所だが、その頭から自己主張するように生えた三角の耳がすでに日本人では無いと判断できる。

 さっきから観察しているが、時折こちらを探るように耳がピクピクと動いており、作り物にしては出来が良過ぎるように見える。

 やっぱり本物か?

 

「とりあえず、頭を上げてもらえると嬉しいかな?」

「はい」


 一言返事をすると、目の前の女性が顔を上げる。

 

 出会ってすぐに顔を覗いた時にも思ったが、かなりの美人だ。

 目鼻立ちの整った顔と色白の綺麗な肌、猫を思わせるような可愛らしい黒い瞳、口紅は塗らないのか薄い桜色の唇。

 髪を顎の辺りで切り揃えた黒髪と黒い瞳と相まって、和服美人と称してもおかしくないくらいだ。

 あっちで俺の彼女ですと紹介すれば、かなり羨ましがられるだろう。知り合いとして紹介しても充分に自慢になる。

 ご主人様の顔色を伺う小動物のように、上目遣いで俺を見る女性。

 和服姿なためであるからか大人っぽい雰囲気を魅せていたが、好奇心旺盛な猫のようなその仕草から、もしかしたら意外と年下なのかも知れない。

 年上だとさすがに緊張するが、年下と仮定すれば普段どおりの対応ができる。

 しばらく見詰め合ってると女性が頬を染めて、俺の視線から逃れるように顔を逸らして俯く。

 そっちが目を逸らすの? 普通は逆じゃないのか?


「こっちへ来る前に軽く説明はされたんだが、どうにも未だに混乱しててね。悪いけど、この現実をまだ受け入れることができてないんだよ」

「お気持ちは分かります。いきなり、見知らぬ者に神子様と呼ばれましても理解できないとは思われます。ですが、信じて頂きたいのです。私めは、この地に不慣れな貴方様を導く案内人となる者です」


 案内人と言われてもね。

 彼女の台詞を鵜呑みにしても良いものか判断に困るところだな。

 顔が美人なだけに、俺のような凡人が誘われてほいほいとついていけば、人気の無いところで怖い人達が待ち構えていても不思議は無い。

 俺の不安な心情に気付いたのか、俯いてた彼女が突然に顔を上げて真剣な表情で俺に言う。


「決して、私が神子様の敵になる様なことはございません! もし、私めが信用できない場合は……」

 

 彼女は腰元に差していた小刀の様な物を抜き、持ち手を俺に掴ませる。

 

「すぐにでもこの首をお刎ね下さい。神子様の為であればこの命、喜んでお捧げします」

 

 刀身を自身の首元に当てると、彼女は優しく微笑む。

 彼女がそこまでして俺に尽くそうとする意図は理解できないが、そうまでしても俺に信用されたい何かがあるのか。

 

「……分かった。今は君を信じよう」

「ありがとうございます」

 

 俺は彼女から渡された鞘に小刀の刀身を収める。

 彼女に小刀を返そうとするが、彼女が首を横に振る。

 

「それは神子様がお持ち下さい。もし、すぐにでも私に猜疑あるところがあれば、即座にその小刀で私を貫いて下さい」

「いや、さすがにそれは……」

 

 あっちで人を殺めたことが無い人間に、それは無理な話ですよ。お嬢さん。

 俺の心情を知ってか知らずか、彼女は再び姿勢を正して正座をし、三つ指をついて頭を深く垂れる。

 

「改めてまして、このアクゥア。貴方様の忠実な僕となり、貴方様の怨敵になる者すべてを撃ち滅ぼす刃となりましょう。不束者ですが、以後宜しくお願いします。神子様」


 怨敵って、何か物騒な言葉が並んでるな。

 不束者とか言う台詞を聞くと、プロポーズ的なニュアンスで受け取ってしまいそうになるな。


「えーと、とりあえずアクゥアさん。その神子様って言うのはやめてくれないかな? 俺には隼人って名前があるから、そっちで読んでもらうと嬉しいんだけど」

「承知しました。それでは、これからはハヤト様とお呼びさせてもらいます。それと、私めのことはアクゥアと呼び捨てにして下さい」

「わ、分かった」


 様付けも訂正してもらおうかと思ったが、若干怒ってる様な真剣な表情で言われて思わず了承してしまった。


「じゃあ、アクゥア。これから宜しく」

「はい。ハヤト様」


 俺が呼び捨てで名を呼ぶと、とても嬉しそうな表情で返事するアクゥア。

 さん付けで読んだら、即座に目を吊り上げて怒って訂正しそうな雰囲気だな。






   *   *   *






「この森を抜けましたので、すぐに街が見えるはずです」

 

 アクゥアに先導されて獣道を歩いて森を出た後、街道をしばらく歩いてると確かにすぐに街が見えた。

 まずはこれからのことを話し合いたいとの事で、彼女が拠点としている宿に向かうことにした。

 

 アクゥアの横に並んで分かったが、背は俺よりも少し低いくらいか。

 着流しを着ているのと黒髪ボブカットのせいか、お人形さんって感じもするな。

 横顔も凛々しく、見ていて飽きないな。

 しばらく観察してると俺の視線に気付き、その後しきりに自分の身だしなみを気にするような仕草を始めるアクゥア。


「な、何かおかしな所がありますでしょうか? 着慣れない物を着ているので、変な所があれば教えて頂きたいのですが……」


 さっきまでの凛々しい顔はどこへやら、途端に不安そうな表情で俺にすがり付く様な視線を向けるアクゥア。

 頭から生えた黒い猫耳も慌しくピコピコと動いている。

 何、この可愛い生き物。


「いや、おかしなところは無いよ。アクゥアは着物が似合うなぁと思って」

「あ、ありがとうございます。この服はハヤト様の世界で殿方が喜ばれる着物だと聞いて、今回の旅のために新調してきました」


 なんという今時なかなかいない、尽くすタイプの女性。

 今すぐ元の世界に帰って、俺の彼女ですと嘘ついて知り合いに自慢してやりたいぐらいだ。

 しかも本物の猫耳つきの和服美人と言ったら、オタクの知り合いには刺されそうだな。


「アクゥアは可愛いから。恋人とか彼氏になった野郎は、さぞ皆に羨ましがられるだろうね?」

「恋人はいません。作る予定もありません。これからハヤト様と一生を共にする予定ですので」


 ん?

 思わず聞き流しそうで聞き流せない台詞に、思考がフリーズしそうになる。

 どういう意味って聞こうと思ったが、アクゥアのあまりにも真剣な表情の横顔に、即座に詳細を聞くことができなかった。


「ハヤト様?」

「えっ? あっ、何?」


 しばらく会話らしい会話がなかったので、ぼーっと思考の波を漂ってると、突然に声を掛けられる。

 

「先程、こちらに来る際に何か説明を受けてると聞きましたが、どのようなお話を聞いてるのでしょうか?」

「んーっと、要約するとこっちに来たら美女が待ってるから、その人の言う事に従いなさいかな?」

 

 アイツ(・・・)との会話を思い出しながら、適当(・・)なことを言ってみる。

 すると見る見るうちにアクゥアは顔を赤くして、その表情を髪で隠す様に俯き加減になる。

 

 ありゃ? 可愛いから意外とこういう言葉には慣れてると思ったけど、そうでもなかった?

 

「ありがとうございます。あまりそう言われた事は無いので、お世辞でも嬉しいです」

「いや、お世辞じゃ無いんだけど。むしろ、好きなタイプなんだけど」

 

 あっ? やべ、否定されると思わなかったので、勢いでつい本音がポロッと。

 

「……」

「……」

 

 何言ってんだ俺。そりゃ、困って無言になるわな。

 ていうか、俺も火が出るくらいに顔が真っ赤なんですけど。

 いきなり初対面の女性に告白みたいなことをして、自爆するとは。

 異世界とか非現実な始まりに、内心密かに興奮して調子に乗った罰かな。

 

「……はぁー」


 いきなりの大失敗に、思わずため息が出る。

 今の台詞で嫌われてなければ良いんだけどね。

 

 会話が続かなくなったのはあれですが、俯き加減で歩いてる彼女の頭に視線を移すと、頭から生えた猫耳が激しく動き回ってるのがおもしろかったので、しばらくそれを観察することにした。






   *   *   *






 楽しい猫耳観察に癒されながらアクゥアと共に街に入ると、彼女が宿泊している宿にお邪魔することになった。

 なぜか既に二人部屋で予約されていることに驚いたが、やはり俺が来るのが想定済みだったのかと納得もした。


「先程はお見苦しい所をお見せして、申し訳ございません」

「いや、俺も余計なことを言って悪かったな。気分を悪くしたならあやまるよ。ごめん」

「いいえ! そんなことないです。むしろ嬉しかったです!」


 そういって勢いよく前のめりになって訂正をしようとするアクゥア。

 かなり顔が近いんだけど。


「あっ、また私としたことが……申し訳ありません」


 今の状況に気付いたのか顔を真っ赤にして、俯く猫娘。

 なかなか忙しい娘だね。

 上に向かって立っていた猫耳も彼女の心情を表すように、今はションボリと垂れてしまっている。

 最初は近寄りがたい雰囲気があったけど、今はかなり親近感が持てるな。

 

「えっと、これからのことを話すんだったよね? たしか、迷宮に潜るのが目的だったかな?」

 

 なんとなく妙な間ができてしまったため、アイツ(・・・)との会話を一生懸命に思い出しながら、会話の中にあった単語を拾って話を振ってみる。

 正直な話、まだこの女性のことは信用しきれてないところがあるからな、アイツ(・・・)との話の整合性がとれるまでは気は許せそうもないしな。

 ここまで、俺を油断させるための演技だという可能性もある。

 

「あっ、はい! そうでしたね。迷宮の話をするんでしたね」

 

 ごまかすように両手を合わせるようにポンッと叩くと、可愛らしい笑みを見せて会話を始めようとする猫娘。

 どうやら立ち直ったみたいだな。


「でも、迷宮を潜るためにも先に大事な話をしないといけません」

「大事な話?」


 かと思えば突然真剣な表情になり、部屋の隅に移動して置いていた袋の中から何かを探すアクゥア。

 首を傾げる俺にアクゥアは目的の物を見つけたのか、大事そうにそれを両腕で抱えながらこちらにやってくる。


「これです」

「これって、首輪?」


 アクゥアから手渡された物は犬や猫につけるような首輪。

 黒を基調とした首輪に、黒いタグプレートのような物がついている。

 まさか俺にこれを着けろとか言うんじゃないだろうね?

 

「えっと、これは何?」

「はい! 従属の首輪と言う物で、奴隷契約を結ぶ時に使われる魔道具です。しかも、これはその中でも神具と呼ばれる特別製で、血の契約を結べば二度と他のかたと奴隷契約を結べぬようになり、未来永劫その方に仕えるようになる優れものです!」

 

 ごめん。何を言ってるのかまったく理解が出来ない。

 今まで見たこと無い熱の篭もったようなアクゥアの眼差しと、その説明内容に俺はドン引きしてしまった。

 奴隷契約? 奴隷ってあの奴隷だよね? ご主人様のためなら何でも従います的な?

 おかしいな。今まで可愛い猫耳美人だと思っていたんだけど実は、変態さん?

 彼女にできたら嬉しいなーと思ってたけど、俺はノーマルなんだよな。

 そういうプレイはちょっと……。

 

「ああ! この契約でハヤト様の奴隷となり、ついに私も神の僕となるのですね」

 

 まるで神に祈るような仕草で両手を握り締め、俺には理解不能なことを言うアクゥア。

 その顔は上気し頬を赤く染め、瞳をキラキラさせた様子から演技でないようにも見える。

 おいおいおい、本気か?

 

 これがアイツ(・・・)の言ってた神子の契約ってやつか、話が違うじゃねぇか。

 奴隷契約なんて言葉はどこにもなかったぞ。

 俺はここにはいない奴に、頭の中で思いつく限りの悪態をつく。

 

「それでは、まずは血の契約から説明させて頂きますね。この名前を刻む所にハヤト様の血を……」

「いや、悪いけど。奴隷契約とか、しないからね」

「え?」

 

 そもそも、女性を奴隷にするなんて話は聞いてないし、さすがにこれがアイツ(・・・)の言ってた彼女達の願いに該当する話だとしても、そうおいそれと女性を虐げるイメージの強い奴隷なんて。

 

「なぜですか?」

「……アクゥア?」

 

 最初から俺が断るとは思って無かったかのように、絶望的な表情を浮かべ俺を見上げるアクゥア。

 身体は寒気を覚えたかのように震えだし、みるみる顔色も悪くなり真っ青と言ってもいいくらいの様相になる。

 

「なぜ、契約をして頂けないのですか? 私ではハヤト様の僕として名を連ねる資格がないのですか?」

「いや、資格とかじゃなくて、そもそも奴隷とか……」

 

 これが俺をからかう冗談の類であれば、適当に話を合わせた後に「冗談がうまいね」と軽口を言ってこの話を終わらせただろう。

 しかし、今の鬼気迫るような彼女の様子を見ていると、とてもじゃないが冗談の類とは思えない。

 

 しまいには「どうして、どうして」と俯き、握り締めた両手を振るわせながら爪をガジガジと噛みだした。

 先程までの目をキラキラさせてた表情から一転して、短い時間で同一人物とは思えないような様相に変わっていく状況に、俺は唖然とする。

 

「ア、アクゥア、さん?」

「資格が、資格がないから? 覚悟が足りないから? どうすれば、神の僕に。私は、やっぱり神に認められない存在だから? また、見捨てられた?」

 

 アクゥアは、髪を己の手でクシャクシャと掻き乱しながらブツブツとうわ言のように呟き、視線をキョロキョロと何かを探すように彷徨わせる。

 その視線がある一点でとまると、その瞳が大きく見開いて猫目のように細くなる。

 彼女の視線の先に何があるかに気付き、反射的にそれを掴んだ俺を褒めてやりたい。

 俺が足元に置いていた小刀を抜けないように掴むが、俺の掴んだ手の内側をいつの間にか掴んだアクゥアが小刀を抜こうとする。

 見た目は可愛らしい女性なのに、どこにその力があるのか男の俺を超える腕力でアクゥアが小刀を抜こうとし、徐々に鞘に収められていた刀身が現れてくる。

 

「アクゥア……何をする気だ?」

「お放し下さい、ハヤト様。神子様の僕になれないくらいならいっそのこと、ひと思いにこの首を切り裂いて死のうと思います」

 

 本気かよ。

 アクゥアの視線は刀身から外れず、時間が経てば経つほど刀身が見える面積が増えていく。

 初対面とはいえ、俺の発言で女性一人が目の前で死ぬのを見るのは、流石に後味が悪過ぎるぞ。

 どうする?

 何が最善の選択だ?

 

「そもそも何で俺の奴隷になる必要がある? まず、理由を言ってくれ! そうじゃないと、いきなりアクゥアを奴隷にするとかできねぇよ!」

「理由? 理由を言えば、奴隷にして頂けるのですか?」

 

 数cmずらせば鞘から刀身が抜ける所で、アクゥアの手がピタリと止まる。

 うぉおおお、危ねぇ。

 本当に何だよこの娘は、華奢そうな見た目とは違って俺より腕力あるし、最初の可愛かったあの娘はどこいったんだよ!

 

「私が生まれた国はイルザリス聖教国と言います。ここには私達が崇める神様がいまして……」

 

 俺の動揺を隠し切れない心情を無視して、語り始める猫娘。

 

 彼女の話を要約すると、アクゥアの生まれた国には国民達が崇める神様がいるらしい。

 まあ俗にいう宗教的な話で、その神の僕となったものは死んだら神のいる天界に召されると言われているらしい。

 皆はその神のいる天界に行くために祈りを捧げ、生活をしているようだ。

 

 ただ、アクゥアは生まれながらに問題が有り、神の祝福を受けられず神の僕となることができないと神託を受けたらしい。

 そもそも神託って何だよとツッコミたい所だが、この世界には神の言葉を聞ける者がいるようです。すごく胡散臭い。

 アクゥアはその神託により国民と認められず、村八分ならぬ異端児として国に扱われたそうだ。

 15年という歳月を非国民として扱われ、彼女は孤独なつらい人生を歩んだそうだ。

 とりあえず、その神託を言った奴を連れて来い。まじで殴ってやる。

 人の人生を神託一つで棒に振りやがって、ふざけんな!

 彼女にどんな理由があったかしらんが、神様なんだからそれぐらい受け入れろよ。器の小さい神様だな。


 しかし彼女に救いはあった。神託には続きがあったのだ。

『15年後、アクゥアが成人の儀を行なった後に再び神託がされ、そなたを受け入れる神の元へ導く神子が現れるだろう』


 その神子が俺です。

 なんだその神託は!?

 ふざけんな! 責任者出て来い!

 

「神の僕になれない人生はつらいものでした。でも、いつか私を神の元へ連れて行ってくれるかたが現れると思い、それだけを頼りに生き続け来ました」

 

 15年も孤独な人生を歩んできた者からすれば、藁にも縋る想いなのだろう。

 今までなぜ初対面の俺に親しげにしてきたのかの理由がようやく判明した。

 アクゥアがこちらへにじり寄り、俺の服の裾を掴む。

 

「ハヤト様! お願いします。私を貴方様の奴隷にして下さい! 貴方のご命令であれば何でも聞きます! 私を、私を……神の僕に」

 

 そう言って、大粒の涙を流しながら泣き出す猫耳女性。

 

 重い。重すぎる。

 無宗教の俺にはさっぱり理解できない世界だ。

 でも、この娘は本気だ。

 さっきの行動から察するに、これを受け入れなければこの娘は自害する。

 無茶苦茶だ!

 

「やっぱり私では駄目なのでしょうか? 私は最初から生まれてきてはいけない子供だったのでしょうか?」

 

 虚ろな瞳で、いつの間にか握りしめていた小刀を鞘から抜き、刀身を己の首に当てようとするアクゥア。

 あれ!? 後ろに隠してた小刀が奪われてる!

 

「待て、アクゥア!」

「……?」

 

 ぼんやりと心あらずな虚ろな瞳でこちらを見るアクゥア。

 くそー、これもアイツ(・・・)の計略の一つだとすればものすごく腹が立つ話だが、もともとこっちの世界に来る時に覚悟は決めていた。あっちの世界にも戻る気も無い。

 だったら……。

 

「う、受け入れよう。君が、アクゥアが望むなら、ど、奴隷でも……」


 ようやく絞り出したかのような台詞を言い終わる前に、アクゥアの表情がみるみると変わっていく。


「本当ですか!?」

 

 途端に花が咲いたかのような満面の笑みを見せ、両手を広げてこっちに勢いよく飛び込んでくるアクゥア。

 両手を広げた際に小刀も勢いよく飛んで、天井に刺さってるけどあれは誰が回収するの?

 天井から視線を外し、俺を押し倒して抱きつきながらキャッキャッとはしゃぐアクゥアをぼんやりと見つめる。

 着流しも乱れて腰の辺りがめくれてしまって、長くて黒い尻尾が外に出て激しく左右に揺れている。

 あっ、やっぱり尻尾はあるんだね。

 綺麗なお尻が、っていうかノーパンかよ!

 

「あっ! いけない。まだ奴隷契約もしてないのに」


 嬉しそうに俺の顔に頬ずりをしていたアクゥアが正気に戻る。

 

「首輪と、あと血を採るために小刀を……あれ? 小刀は?」

「小刀なら上に……」

 

 俺が天井を指差す前に、ガラガラと何かの金属物が床に落ちる音が室内に響きわたる。

 視線を移すとアクゥアが袋をひっくり返し、その下にナイフのようなものが何本も転がっている。

 護身用にしては多過ぎないかい? この娘、本当に何者?

 

「暗殺用は切れ味が良過ぎるから駄目。こっちの投擲用が良いかな? でも、せっかくハヤト様の血が付いた記念物になるから、こっちの新品が良いですよね。はい、ハヤト様」

 

 笑顔でナイフの一つを渡してくるが、俺はやってはいけないことに手を出してしまった気がするが、気のせいか?

 今更ながら少しだけ後悔する。

 

「では、さっきの続きを始めますね。ナイフの先で少しだけ指を切って頂いて、その血をこの名札につけて下さい」

 

 俺はアクゥアの指示に従い、ナイフの先で親指をチクリと刺す。

 血が少しだけ滲み出てきたのを確認して、アクゥアに視線を移すといつの間にか黒い首輪を首に装着して、目をキラキラさせてタグプレートを前面に押し出してくる猫娘。

 若干引きながらも、首輪に付属している黒いタブプレートに触れて血を付着させる。

 

「フフフ、血がつきましたね。では、次にその手を広げて前に出して下さい」

 

 彼女の怪しげな笑みに若干の不安を覚えたが、もうここまでくれば最後までやるしかないだろう。

 アクゥアは自分の親指の腹にもナイフの先で傷をつけ、その手を俺の前で広げる。

 それを真似して俺も手を出すと、お互いの手と傷口が触れるように手を重ね合わせる。

 

「我、アクゥア。古の血の契約をもって、主であるハヤト様に従属する旨をここに誓う」

 

 祝詞なんか呪詛なのか分からない台詞をアクゥアが唱えると、突然に自分の中で熱い液体が身体中を駆け巡る感触を覚える。

 

「ぐっ……」

 

 その感触は一瞬で、今度は自分の中から抜けて行く感覚に変わり、全力で走った後のような妙な倦怠感を覚える。

 

「あっ……」

 

 艶めかしい声がしたかと思うと、アクゥアが顔を真っ赤にさせ潤んだ様な瞳でこちらを見つめ、なぜかお腹をさするような仕草をする。

 

「ハヤト様が、私の中に……」

 

 その台詞は駄目だ。

 その行動も含めて、アウトだ。


 倦怠感から妙な眠気を覚え、俺はそのままベッドに横になる。

 

「はむ。ハヤト様の血、おいしい……」


 親指に妙な感触を感じて視線を移すと、なぜかアクゥアが俺の親指にしゃぶりつき血をペロペロと舐めている。

 自分の中でいけない何かが目覚めそうになりそうになりながらも、あがなえない程の眠気にそのまま俺は瞼を閉じてしまう。

 

「私を受け入れてくれて、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

 

 暗闇の中で耳元で囁くように聞こえるアクゥアの声と、身体に心地良い重みを感じながら意識が遠ざかっていく。

 

「おやすみなさい、ハヤト様。未来永劫、あなたのお傍に……」

 

 その言葉を最後に、俺の意識は完全に途絶えた。


 これって好みが割れる作品になりそうだな……。

 

 一話目でYou抱いちゃうよ☆的なところまで書く予定だったけど、首輪と奴隷の話で終わっちゃった。

 とりえあず、エロはおっぱいバニーさんに任せましょう。

 そして、どんどん病んでいくアクゥア。

 どうしてこうなったの?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ