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【没ネタ】サクラ聖教国<天>

本当は第27話として作成していましたが、諸事情によりお蔵入りしたネタです。



「エメナ、少し休んだら? お茶を持ってきたわよ」

「ありがとう、エン姉。そうね、これが終わったら休憩するわね」


 さっきお茶を持ってきた時にすぐ気づいたが、執務机の上に大量の書類が山のように載せられている。

 これはまだまだ時間がかかりそうね。


 従妹が再び資料に目を落とすのを見た後、執務室の隅にあるお茶を用意した席に足を運ぶ。

 長椅子に腰を下ろすと、急須に茶葉を入れて湯を注ぐ。

 お茶の葉が開く頃合いを待ち、急須から湯のみに均等につぎ分ける。

 エメナは熱いのが苦手なので、待ってればちょうど良く冷めた頃にこちらへ来るでしょう。

 

 湯のみを口元に運ぶと、お茶独特の仄かに香ばしい匂いが鼻を刺激する。

 うん、今日も美味しくできたようだ。


「ごめんなさいね、エン姉。ゆっくり話相手もできなくて」

「良いのよ。貴方も大変そうだし、気にしてないわよ」


 私がお茶を楽しんでると、ようやく仕事に区切りがついたエメナがこっちにやってきて、私と対面になるようにして長椅子に座る。

 疲れた表情を見せながら、応接机に置いてある『日本茶ニャンちゃ』と書かれた湯のみを手にとり、口へゆっくりと運ぶ。


「……美味しい。やっぱりエン姉が淹れてくれると、全然違うわね。私と何が違うのかしら?」

「愛情を込めて淹れてれば、自然と美味しくなりますよ」

「そんなものかしらね?」


 よく見れば、エメナの目の下に隈ができている。

 あまり寝てないのだろうか?


「はぁー。彼が来てから、碌なことが無いわね。……んー」


 エメナがお茶と眼鏡を置くと、伸びをするかのように腕を伸ばす。

 そのまま背もたれに身体を預けるようにして、長椅子に深く座る。

 

「サクラ聖教国の貴族の身分を偽ってるかと思えば、忌々しい人間のくせに『戦女神様の加護』を持ってるなんて、お陰様で仕事に忙殺の毎日よ。今年一番の忙しさだわ……」


 エメナの目が細く鋭くなる。

 確かに『戦女神様の加護』持ちだと言う話は、我が国でも激震が走りましたね。

 これが闘牛祭で優勝した牛人の男性がという話であれば問題ないのですが、見た目は普通の人間が持っているというのが大問題ですからね。

 

 もしこの情報が牛人の女性達の耳にでも入ったものなら、迷宮都市イルザリスは一夜にして上級者迷宮に匹敵する地獄絵図と化するところです。

 今の所はエメナが機転が利かして、探索者ギルド内で一部の者を覗いて完全に情報規制をしているようだから、表面上はいつも通りの光景を見せてるようだけど。

 

「人間が皆、悪とは言えないわ。ヴァルディア教会の上層部は、真っ黒な連中が多いけど」

「でも、最近のヴァルディア教会の連中のやり方には、目に余るものがあるわ。マルシェルじゃないけど、そろそろサクラ聖教国も介入した方が良いと思うわ。国を跨いだ大きな組織だから、もはや1国の力ではどうにもならないわよ? 地方からも国への要望だけでなく、サクラ聖教国の政治的介入を望む声が大きいって話よ。同族の人間達からも、ヴァルディア教会は信用できないって声が上がってるのは、どうなのかしらね?」


 エメナが不満そうな顔で頬を膨らます。

 湯のみを置くと、私も相槌を打つように頷く。


「教会本部があるイシュバルト共和国には、他国からの輸入品を安く提供してもらう代わりに、各地に治療を専門とする教会を置くという決まりで始まってますからね。それで治療費が年々高くなるようでは、不満が溜まるのもしかたないのかもしれませんね」

「今の教皇になってから特にひどいわね。前教皇も亡くなったのも、誰がみても謀殺をされたようにしか思えない流れだしね。今の教皇の親族が、やりたい放題になってしまってるし。前教皇の親族が何とかしようと頑張ってるみたいだけど、現状は難しそうね。今、『打倒、ヴァルディア教会!』とかマルシェルみたいに言い出す貴族でも現れたら、手を貸す人達が沢山でてきそうね」

「そしてヴァルディア教会に暗殺されるという流れでしょ。裏で碌でもない連中を雇ってるという話だしね」

「難しそうねー。そういえば、貴族と言えば『サクラザカ』というふざけた名前で身分詐称してる彼のことだけど……」

 

 せっかく話を逸らそうとしたのに、話が戻ってしまう。

 

「よくもまあ、神聖な戦女神様の名を勝手に使って、あそこまで堂々と身分詐称をできるもんだと逆に感心したくらいだったわ!」

「それは大変ですね」


 エメナの言葉に適当に相槌を打ちながら、例のことを話すべきかと頭を悩ます。

 まだ正式に法王様からの指示が無い以上は、まだこの事は話すべきではない。

 何しろ今回のことは憶測等で決めてすむような問題でなく、評議会でも念を押した証拠検分や証言調査が行われてますからね。

 もし、彼が本物だとすれば、史上2人目となる大騒ぎとなりますからね。

 おそらく今日の午前中の会議で、評議会の最終決定の指示をもらって帰ってきたカルディアが、何らかの指示を出すと思けど……。


「そもそも今回の件に関してはふに落ちないことが多すぎるわね。人間ごときが、できもしないサクラ聖教国の貴族の身分詐称をしていると本国に申し立てしようとすれば、ヤミサクラ家の者達が今は様子を見守るようにと指示してきたり、上の方達は何を考えてるのでしょうか? アクゥアが奴隷になってるのに、なぜヤミサクラ家は黙認してるのでしょうか?」

「さあ、なぜかしらね……」


 湯のみを口に運びながら、とぼけたふりをする。

 まあ、私もつい最近までエメナと似たような感情を持ってたので、エメナの言いたいことは分からなくもないが……。

 刻一刻と状況が変わりつつあるので、今はおいそれと口に出せないところですね。


「そういえば、探索者ギルドの方は大丈夫なの? 今日は会議の為に仕方なく休みをとってきてると思うけど、副ギルド長が1日もいないといろいろ現場が大変なんじゃないの?」

「探索者ギルドの方は大丈夫よ。マルシェルが現場の方をうまく回してくれているから、私があそこを少しくらい離れていても問題ないわ。本国から派遣されている職員達とも仲が良いし、後輩の面倒見も良いからかなり助かってるわ。ただ、最近あの子が彼にご執心なのが気に障るわね。ヴァルディア教会が関わると、周りが見えなくなって感情的になるのは彼女のよくない癖ね。まあ、私もヴァルディア教会のことは大嫌いだから、今は彼の動向を見守る程度にしてるけど」


 戦女神様への信仰心が強過ぎて、よく周りが見えなくなるのも貴方の悪い癖ですね、というのは言わない方が良いのだろう。


「でも、妙なのよね。今回、加護も判定できる最高級の身体検査用の魔道具を使ったのに、見た事の無い結果がでたのよね。本国にはすぐに報告しておいたけど」

「あー、私も確認しました。解析班を総動員しましたが、結論として『職業制限』が発生しているという結果が出たそうですね。体力的にも魔力的にも、戦士職にも魔法職にもなれる素質があるはずなのに、支援職である神子しか条件解放できないという結果が出てるということですよね。あのままLvを上げ続けても、僧正と大僧正に転職する道しか無さそうですね」

「『戦女神様の加護』があるのに、『職業制限』をかけられてるなんて聞いたこと無いわね。まるで支援職しかできないように、戦巫女でも手が出せないような細工されてるしか思えない話よね。これでモモイ様も手が出せないとなると、本当にお手上げになりそうね。そうなるとそんなことができるのは、戦女神様くらいなものになるわ……本当に何者かしら?」


 扉を叩く音が室内響く。

 

「どうぞ」

「エメナス、会議が始まるそう……!? え、エンジェ様!」

「お邪魔してるわね」

「は、はい……」


 恐縮したように顔を伏せる彼女の横を通ると、エメナと一緒に会議室に移動する。

 既に他の者達も席に座っており、私達が最後の方になってしまったようだ。


 私は皆に配られた資料に目を通す。


「これは……。エン姉、これって……」

「事実よ」


 資料に目を通したエメナスが、困惑した表情で私を見る。

 周りにいる者達からもザワめきの声が漏れてくる。

 どうやら法王様の予想通り、評議会もこの事を認める決断を下したようですね。

 予想以上に早かったのが少し驚きですが。


「静かに」


 カルディアの一言で、会議室内が静寂に包まれる。

 普段の間延びした言い方はなりを潜め、この迷宮都市イルザリスの統括者である本来の顔になるカルディア。


「皆さん、資料は行き渡りましたね。驚いてるかたも多いかと思いますが、まずはハヤト様(・・・・)がこの地にきた経緯から説明します」


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