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【没ネタ】神子と奴隷とゾンビ

迷宮探索編 対ゾンビ戦


 ギャグ回、なのかな?

 迷宮探索になれた頃に、ハヤト君の実験につきあった仲良し(?)三人組のお話です。


 ハヤト君はいつでも真剣です。

 周りがおかしいのです。


「うんこ!」


 突然、何かを思い出したかのように叫びだす、狐娘。


「えっ? エルレイナ。さっき、家を出る時にしただろ?」


 迷宮に潜ってから、すぐに便を催すとか、勘弁して欲しい。


 俺の戸惑いをよそに、持って来た木の棒で穴を掘り出すエルレイナ。

 まさか、こんな所でことを始めるつもりじゃないだろうな!

 一応、君は女の子なんだから、もっと恥じらいを持ちなさい!

 

「用事が終わったら、すぐ帰るから! エルレイナ、もう少し我慢してくれ」

 

 ざくざくと、穴を掘り続けるエルレイナを宥める俺。

 ムスッとした顔でこっちを見るエルレイナだが、俺を見て何かを思い出したのか、目をキラキラさせる。


「うんこー!」

「誰が、うんこじゃぁあい!」


 嬉しそうに俺を指差して、うんこ呼ばわりするアホ狐につっこみを入れる俺。

 ご主人様と呼べとは言わないが、もっと他の呼び方があるだろ?

 ていうか、このやりとり何度目だと思ってるんだ!

 

 思えば、エルレイナが俺をうんこ呼ばわりするようになったのは、あの「ご主人様トイレのカッポン殺人未遂事件」がことの始まりだ。

 

 エルレイナの悪戯なのか、トイレが突然、詰まったらしい。

 俺が気付いた時には、流れずにトイレに溜まった水を、かき混ぜて遊んでるエルレイナの姿がそこにあった。

 

 アイネスにまかせようかと思ったが、皆の洗濯物を取り込むのに忙しそうにしてたのを見てたから、俺がなんとかしてやろうと思ったのが失敗だったのかもしれん。

 

 どうしたもんかとトイレと睨めっこしてると、「あいあいあー!」とドタバタと走る音が、背後から聞こえる。

 

 後ろを振り返ると、アイネスに渡されたのだろう、楽しそうにトイレのカッポンを振り回しながら、俺に向かって全力で走ってくるエルレイナ。

 

 もう、オチが読めたかな?

 あの馬鹿狐め。

 俺に渡すつもりだったのかもしれんが、あろうことかそのままの勢いで、ご主人様の顔にカッポンをジャストミートさせやがった!

 馬鹿だろ?

 

 突然、視界が真っ暗になったことで、自分自信が大変な状況になってることに気付く。

 慌てて顔に張り付いたカッポンを抜こうとするが、これがなかなか抜けないんだなー。

 このままでは、窒息死してしまう。

 異世界にわざわざ来てまで、死因がカッポンとか、死んでも死にきれん!

 どうせ死ぬなら、ドラゴンとかと戦って死ぬ方がまだマシだ。

 

 俺の大変な状況を理解したのか、エルレイナが俺の顔に張り付いたカッポンを抜くの手伝ってくれる。

 だが、悲しいかな、あの馬鹿狐はわざわざ片足を俺の喉に当てて、引き抜こうとしやがった。

 いや、それ喉が圧迫されてるから! 更に、俺の死が加速するから!

 

 カッポンでご主人様を殺しに来るとは……エルレイナ、恐ろしい子。

 

 その後、アズーラの助けがあって、ようやくカッポンの死亡フラグから救われた俺。

 

 助けてくれたアズーラに感謝しようと思ったが、

「俺を笑い殺す気か! 腹筋が割れるかと思ったぜ」

の言葉に恩を感じるどころか、殺意がわいた。

 

 カッポンを抜くのに必死になってたせいで気付かなかったが、どうやら俺が悪戦苦闘してる状況を見て笑ってたらしい。

 腹をかかえて、未だに涙を流しながらゲラゲラ笑ってやがるぞ、この不良牛娘は。

 

 そこは、早く助けろよ!

 誰も他人を笑わせようとして、命がけのコントをしてたわけじゃないんだからね!

 

 その後、アズーラに

「俺は、誰かをここまで尊敬したのは、初めてだ! 俺は、一生ハヤトについていくぜ!」

って、笑いながら言われたが、俺も初めてだな。誰かに一生ついていくぜと言われて、全然嬉しくなかったのは。

 

 ネット小説界広しと言えども、ファンタジー世界に飛ばされて、奴隷にカッポンで殺されそうになった人間とか、なにげに俺が初じゃないのか?

 

 しかも、あのアホ狐は、人の顔にカッポンを嵌めるおもしろさに目覚めたのだろう。

 完全に油断していた俺の後頭部に、全力でカッポンをはめて、そのままの勢いでトイレに顔を突っ込んだ俺を、流そうとしやがった。

 俺は、うんこじゃないからね!

 トイレに入れても、流れないからね!

 

 ちなみに、その俺の哀れな姿を見て、アズーラは笑い過ぎのあまりに、泡を吹いて悶絶してました。

 

「ハヤト! 今日から、俺とお前は大親友だ! 俺のことは、アズと呼んでくれ!」


 そう言って、悶絶死から復活したアズーラは俺のことを大親友と呼び、後頭部にカッポンをはめたままの俺と、トイレの前でがっしりと握手をかわした。


「大親友はいいから、早く俺の頭のカッポンをとってくれ、アズ」

 

 思えばそれ以来、エルレイナには、うんこ呼ばわりされるようになったんだよなー。

 あれは、良い思い出だったなー。

 

「んなわけあるかい!」

 

 俺は、なぜか手に持っているカッポンを地面に叩きつけた。

 なんで迷宮に潜るのに、そもそも武器にカッポンを持たせるんだよ!

 

「いってらっしゃいませ、ご糞人様」って、笑顔で渡しやがって、あの腹黒兎め。

 カッポン事件のネタを、いつまで引っ張ってやがる。

 いくら護衛が優秀で、比較的安全な迷宮を選んだとしてもこれはねぇよ。

 迷宮探索は、遊びじゃないんだからね!

 

 顔は可愛くても中身は真っ黒黒とか、二度と兎人の奴隷は買わん!

 

「おい、ハヤト。目的のゾンビがおでましだぜ」


 今回一緒に、迷宮に潜ってくれた悪友認定のアズーラに、声をかけられて前を向く。


「グォオオオオ」

 

 そこには、腐りかけた身体を引き摺りながら、ヨロヨロと迷宮をさ迷い歩くゾンビの姿があった。

 

「ごべぇ!」

「うわっ! あいつ、ゲロ吐きやがったぞ」


 なんて汚いゾンビなんだ。

 フラフラ歩きやがって、まるで酔っ払いのおっさんのようだ。


「よし、それじゃあ、さっそく……」

「待て、ハヤト。ここは、俺にまかせてくれ」

 

 めずらしく真剣な顔つきで、ゾンビを睨みつけるアズーラ。

 ほう、何か作戦でもあるのかね?

 

「フフフ、ついにコレの出番だぜ」

「それは?」

「聖水だ。ゾンビと言えば、聖水が常識だろ?」

 

 おもむろに背負っていた袋から、怪しげな小瓶を取り出すアズーラ。

 さっき、ここに来る途中で、アイヤー店長の雑貨屋さんで買った奴だな?

 さすが、『ナンデモアルネ雑貨店』の名は伊達じゃないな。

 聖水も置いてあるとは。

 

 それにしても、えらく濁った色の聖水だな。

 

「なるほど、その聖水をかけるんだな?」

「違う、飲む!」

「え?」

 

 そう言って、聖水を飲みだすアズーラ。

 な、なるほど。口に含んで、ゾンビに吹きかける作戦なのかな?

 

「ぷはーっ! これはきついぜ。流石に安物のさ、聖水だぜ!」

「ちょっと待て、アズ。今なんて言おうとした? それ、まさか酒じゃないよな?」

 

 ものすごく嫌な予感がしたので、アズーラを問い詰めようとすると、なぜか途端に挙動不審になる不良牛娘。

 目線がキョロキョロとし、吹けもしない口笛を吹こうとする。

 

 どうみても、黒じゃねえか!

 ごまかしきれてねぇよ!

 

「うぉおおお! 行くぜゾンビ、俺の聖水パンチを食らえ!」

 

 まるで、俺から逃げるようにゾンビに立ち向かうアズーラ。

 さすが牛人と言うべきが、その一撃でゾンビが盛大に吹き飛び、宙を舞う。

 

 だが、相手もさすがアンデットというべきか、何事もなかったかのように、むくりと起き上がる。

 

「チッ、やるじゃねぇか。これは、できれば使いたくなかったが仕方ない」

 

 なんか妙にわざとらしく聞こえるが、アズーラが袋から別の小瓶を取り出す。


「お前、まだ酒を持ってたんかい!」

「違う、これは聖水だ!」

 

 あくまでも聖水だと言い切る、不良牛娘。

 そして、それを勢いよく投げるのではなく、やっぱり飲み干す。

 

「うごぉお!?……な、何て強い聖水なんだ。身体が焼けるように熱くなるぜ!」

「いや、それ度数が強すぎて、酔いが回ってるだけだろ?」

 

 先程までの勢いはどこへやら、フラフラとまるで酔っ払いの如く、千鳥足になるアズーラ。

 

「ぬぉおお!? 大変だ、ハヤト!」

「どうした、酔っ払い?」

「酔っ払いじゃない! 聖水だ! それもよりも、よく見ろ! ゾンビが3体に増えてやがる!」

 

 何だと! 俺は慌ててアズーラにかけよる。


「どこだ、どこにいる? どこにも見えんぞ!」


 アズーラの視線の先を、目を凝らして探す俺だが、どう見てもゾンビは1体しかいない。

 

「何言ってんだ、ハヤト。よく見ろ。むしろ更に増えたぞ。5体はいるぞ」

 

 ちょっと待て、嫌な予感がする。

 

「アズ、こっち見ろ」

「何だ、ハヤト。そんなに落ち着いてる場合じゃ、うぉおお!? ハヤトが3人いる!?」

「普通に酔ってんじゃねぇかよ!」

 

 俺は、不良牛娘をしばいた。

 

「痛っ! 何すんだよ。いきなり、しばくことはないだろ!」

「黙れ、酔っ払い! それと、酒くさいんだよ!」

 

 俺は、不良牛娘の耳をひっぱって、戦線を離脱させようとする。


「ば、馬鹿。そんなに、激しく動かしたら酔いが回って、ウッ!?」


 ま、まさか!


「ごべぇ!」


 おぃいいいい!? 何、吐いてんの?

 言っとくけど、まだ戦闘中だからね?


「ごべぇ!」


 嘔吐してるアズーラを見て、なぜか貰いゲロをするエルレイナ。


「なんでだよ!」

 

 そして、困惑する俺の気持ちとは裏腹に、こっちにやってくるゾンビ。

 

「「「ぐべぇえ!」」」


 まるでシンクロしたかのように、3人で一斉にゲロを吐き出す。


 なんというカオス!

 くそ! 気付けば嘔吐するゾンビが、いつの間にか1体から3体に増えてやがる。

 

 そして、せまってくるゾンビ達に対して、巫女服を着てカッポンを正眼に構える、俺。

 すごい! 全然、絵にならない!

 

 お互いに競い合うように、ゲロの掛け合いをするゾンビ(?)達。


 こいつら、腐ってやがる。まだ、早過ぎたんだ! 何が? もう、訳が分からないよ!

 

 なんともいえない、ひどい疲労感を感じながら、俺は最近覚えた回復魔法を、本物のゾンビにかけてやる。


「ギャアアアアアア!」


 予想通り、アンデット系には回復魔法が効果的のようだ。

 断末魔をあげ、燃えるゾンビ。

 今日は、これがしたかっただけなのに、何か無駄にすごい遠回りをした気がする。


「あいあいあー!」


 迷宮に来て、ウンコもできずにゲロを吐いてしまったことに腹を立てたのか、エルレイナが突然暴れだす。

 持って来た木の棒を勢いよく振り回し、そのうちの一振りが見事に俺のケツにジャストミートする。


「ぎゃあ!?」


 痛みのあまりに悶絶して、いつの間にか人サイズ程に掘られていた穴に転がり落ちてしまう。

 そして、今度は用を足し終えた動物のように、エルレイナが足で穴を埋めようとする。


「ちょっ! エルレイナ! 俺が入ってるから!」


 俺はうんこじゃないから、埋めちゃ駄目だからね!

 肥料とかには、ならないからね!


「アズ! 助けてくれ、アズゥウ!」


 悪友に、必死な想いで救援を呼ぶ俺。


「どうした、ハヤト。 どこにいるんだ、ハヤトォオ!」


 さすが、悪友。大根役者だ!

 俺が見えているはずなのに、わざとらしくキョロキョロと見渡す仕草をする牛娘。

 おい! さりげなく、お前も土を俺にかけてんじゃねぇよ!


 ご主人様のピンチより、笑いを優先させてんじゃねぇよ、馬鹿牛!


 俺は何とか、命からがら、穴からの脱出に成功する。


「アズゥウウウ! 今日、聖水と偽って酒を買ったことは、アイネスに報告しておくからな!」


 我が家では、何かを買い物する時には、兎耳を生やしたアイネス財務管理大臣から許しを頂く必要がある。

 それを買う明確な理由があれば、ちゃんとお金をくれる。

 ゾンビを倒す理由に聖水を買うとみせかけて、酒を買った馬鹿牛には、きっと素敵な制裁が家で待ってる事だろう。

 家の兎耳メイドは、怒らすと奴隷だろうが、ご主人様だろうが、問答無用でメイスを振り下ろすからな!


「ギャアアアアアア!」


 まるで、先程のゾンビの断末魔のように叫び声をあげる、不良牛娘。

 こうかはばつぐんだ!


「あと、ご主人様を殴って埋めたエルレイナは、今日のお話は無しね」


 なぜか、うちの狐娘は寝るときに、俺にお話とやらを要求する。

 冗談のつもりで、元の世界にいた時に読んでたライトノベル小説を、俺流にアレンジして聞かせたら、それ以来ハマッタらしく、必ず寝るときには「おはなち、ちてー」っとかわいらしく、上目遣いで要求してくる。

 最近、覚えた言葉が「キマシタワー」なのが、少しひっかかるが……。


「うわぁああああん!」


 地面に寝転び、ジタバタと暴れながら、大声で泣き出すエルレイナ。


 ご主人様のささやかな、仕返し完了。


「ひどいぞ、ハヤト! 俺を裏切る気か! トイレの前で誓いあった、俺達の友情はどうなった!」

「知るか! そんな、酒臭い安物友情は、トイレに流してしまえ!」

「うわぁああああん! うんこぉおおおお!」

「はいはい、うんこうんこ。さっさと帰って、トイレに行こうね」


 俺の腕にしがみついて、グダグダと愚痴をのたまう、酔っ払い不良牛娘。

 俺の腕の服を掴んで、ぶんぶんと振り回し、泣きながらうんこを叫び続けるアホ狐娘。

 

 駄目奴隷達を連れて、俺は家路についた。

 まるで、激しい死闘を演じたかのように、ボロボロになりながら……。


 おかしい。

 ゾンビ一体倒すだけで、俺はなぜこんなに疲れてるんだろう。


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