第11話
更新速度が上がり、稚拙さが増さないか不安です。
矛盾点や誤字脱字など見つけましたらご一報ください。
結果的に今議会の議席をかなり獲得した。
もちろん、会談が有ったからというわけではないのだが一応確認ができただけでも最低限良かったとアイアスは思うことにした。
しかし、推測では教皇派の議席を含めても、まだ三分の一にも満たないだろう。
議長派はなかなかの規模の派閥だが、それでも全体から見れば、まだまだだ。元老派の方が大きいし、数的優位の強みもある。
別段今回元老派と争っているわけではないが、敵となる可能性も高いはずだ。
もう他の王子派が接近しているかもしれない。
帝国と和睦を望んでいる閥や議員がどれだけいるかわからないが、戦争の利益に目がくらむ者も多数いるに違いないので、敵の数は未知数以上の表現が難しくなってくる。
それでも議席を多く獲得し、今議会に限って足並みをそろえられるので、少しは優勢にことが動いた。もうこれは、一大勢力と呼んでもいいのではないのだろうか。
アイアスはリップにランドルフやヒューリアなど派閥の者に対し通知をさせると、その足ですぐに招致させた。
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「聞いたところによるとなかなか大変な話だったそうですね」
「あのじいさん、本当に食えないやつッ」
喜怒哀楽、様々な感情が浮かんでは消え、最終的に残ったのはやはり『怒』だった。
会談後
友好的に食事になるかと思いきや、考えが甘かった。
出てきたのは、テンキャリア王国でも、良く言えば『珍味』、悪く言えば『ゲテモノ』と呼ばれる物だった。
たしかに先人は体にいい食べ物だと、食していたらしい。
強壮の効果のある毒蛇のソテーや薬膳として通常粥などに混ぜる蟲など様々がコースで出てきた。
どうやら、この店はその系統の料理店だったようだ。
どうりでアイアスも知らないはずだ。
ニヤニヤと嫌な笑い方をしながら、しきりに勧めてくるスプレイ伯のことを本格的に闇の喰い者にしてやろうかと悩んだ。
彼の食べ方がとてもおいしそうに食べるので、何品か口に運んだのだが、吐き気をもよおした。食堂を通過したいくつかの『ゲテモノ』のせいでその晩は興奮してなかなか眠れなかった上、いまでも体調が優れ過ぎてしょうがない。睡眠時間はいつもの半分程度なのに元気に動けてしまうのだ。いつか反動がありそうで怖い。
そのことをヒューリアに伝えると同情した目つきをしながら
「想像以上にたいへんでしたね……」
と苦労をねぎらった。
会食でスウレイ伯に対する評価が大きくマイナスに落ちた。
しかし、会談の苦労も会食の憂鬱も、その甲斐あって、結果は予定以上に良かったので、それを考慮すると少しマイナスくらいだ。
彼らの派閥の外部顧問――相談役――にも仮ではあるが決定もしたし。
「まぁ結果が上々なのが唯一の救いだね」
「本当にお疲れ様でした」
いつもはアイアスをからかうヒューリアも今回の苦労は相当だと思っているらしい。
と、思いきや
「王都の綺麗な町娘でも紹介するので、あまりに余った精でも吐き出してください」
「ここで、その話はやめいっ!」
アイアスは怒号をはき、ヒューリアを諌める。
その後ろで控えていたリップがすごい目つきをしたからだ。
「減点1、……と」
「なにその、不穏な発言!?」
「イグワールへ戻ってお姉さまに報告する件をしたためただけです」
「案の上、怖い発言だったッ!」
リップは紙にスラスラと記入し、すぐ懐にしまった。
あれにどれだけいろいろ書かれているのか怖くてしょうがない。
アイアスはヒューリアを睨み付け非難する。
「ヒューリアのバカッ! なんで余計なこと言うの!?」
「あぁ、すいません。今、ここではダメでしたね。後で、かならず紹介しますので」
「……さらに減点1」
「理不尽だよっ!」
頭を抱えてしゃがみこみ声を荒げるアイアス。
同情できる状態の彼にガイヤが、
「とりあえずお疲れな」
ポンと肩に手を置き、形だけでも労をねぎらってくれる。それが妙にうれしい。
ようやく頑張った甲斐が感じられてくる。
セリブもすぐにアイアスと同じ目線に座っていつも通り褒めちぎる。
「アイアス様、さすがですっ! ぼくだったらあのおじいさんと仲良くできなかったかもしれません!」
純粋な尊敬を言葉少なげな感想と共に向けられると、今までとは違った感情が芽生えてくる。それはきっと、アイアスの精神が相当つかれているからだと思うのだが、
「セリブ……。嬉しい。……セリブのそういうとこ、僕、好き、だよ」
「…………!?」
原因はどうあれ、その美貌を以て少し照れながら面白い発言をした。
「アイアス様っ! やっぱり結婚してくださいッ!」
「なんでぇ!?」
「だってだって、アイアス様がボクのことすきって言ってくれて、ボクもアイアス様のことすっごいすきですから、もうこれはりょうおもいじゃないですか!」
「いや、君と同じ意味で言ったわけじゃないんだけど!?」
「減点5……と」
「ちょっと待ってぇぇ!!」
「これは私独自の観点で決めさせていただいておりますゆえ」
淡々と残酷なことを告げてくる。横からそんな精神にくる攻撃と、すり寄ってくるセリブのせいでものすごく疲れる。
「リップさん、アイアス様をいじめないでください」
「そちらこそ、わが主に近づかないでください」
アイアスから離れ、リップとセリブはお互い目の間に雷を飛ばしあう。
マクスウェル家とツィオリア家は決して仲が悪いわけではないが、両家ともノワーレイン家の分家ということで、若干のライバル同士のような対立がある。
もちろん、ノワーレイン家と対等ではない両家だが、別段忠誠の強さで争う必要はないはずである。
しかし、この両家――特に次代を担う二人――ときたら、どちらがアイアスと、ノワーレインと近いか、此度のように何度も争っている。
いくら争ってもアイアスを置いて、外でやっていることなので、評価は上がるどころか、下がっていることをそろそろ二人は理解した方が、いい。
――気持ちが嫌なわけじゃないけどさ。
少しだけ誇らしい気分になってアイアスは気持ちを持ち直した。
その気分のまま、ヒューリアの方を向く。
「そういえば、ランドは?」
「よくわかりませんけど、今日は来れないようですね」
「最近、アイツ、なんか、なぁ……」
「…………? …………」
返答を聞いて、すぐに上がっていたはずの気分がまた少し盛り下がる。
微妙なニュアンスを嗅ぎ取ったかどうか、定かではないけど、不審に思うヒューリアだった。がしかし、燻った気持ちを問うことはしなかった。こういうところはさすがと言わざるを得ない。
「一応、書状を送ってきたようですし、用があるなら仕方ないですね」
「うん、そうだね……。書状にはなんて?」
「『そちらの決定に一任する』だそうです」
「アイツ、コトの大事さわかっているのかな?」
「きっと承知していますよ」
ヒューリアはいつもの大人びた笑みを見せ、アイアスを落ち着かせた。
同い年なのに、落ち着き加減の差は年々広がるばかりだ。
こうなりたい、と思わないでもなかったが、これが自分である以上仕方なかった。
必要な場で、必要なだけの落ち着きを持っていればいいのだ。必要以上は必要ない。
「それで、次は、ドコにしましょうか?」
「教皇派……は、まだ早い気がするね。他の王子派は問題外だし、元帥派も少し厳しい気がする……」
「その通りですね。教皇派は話を持ち掛けなくてもいいような気すらします。どうせ、非戦に回るのですから、余計なことして借りでもつくったら面倒です。そうなると……」
「いくつかある元老派か、パリジーン公爵派とか?」
「元老派も、どうでしょうね。議席が少なく、対立が多いので実りが少ないでしょう」
「じゃあ、やっぱ公爵派かな?」
ノワーレイン家を含む数少ない名門貴族家の一つ、パリジーン公爵家の派閥。
主に、パリジーン領である公国に領地を置く者が所属する派閥で、議員全員パリジーン家の息がかかっている、まさしく、パリジーン家のための一派というわけだ。
この閥は他党との敵対はほとんどなく、おだやかに議席を埋めていて、それなりの人数を率いているため、近づくにはもってこいだ。
その上、先の帝国からの侵略で被害を受けた国の一つだ。
公国全土というわけではないが、テンキャリア北西部に位置する公国の南部には侵略の足跡が刻まれた。
戦争などこりごりだと思っていてくれているはずだ。
同じことを考えていたのか、ヒューリアはうなずいて
「それがいいでしょうね」
アイアスの意見に賛成する。
ガイヤもその意見に対し、含むところはないようだ。
アイアスは「じゃあ……」と切り出した。
「誰か、渡りをつけられる人いるかな? というか反対の人いる?」
ついつい聞き忘れていたことを問う。
意見決定が少数で決められてしまうのは、閥内での専制になってしまう。手遅れかもしれないが、聞いておくことを忘れてはならないと自分に言い聞かせた。自分と同じ意見、意志を持った人が集まってできた派閥なのだ。ただの人数集めでできた派閥にしてはいけないはずだ。
気遣うには少し遅いかと思ったのだが、それでもアイアスより年上の彼ら――一部を除く――はアイアスの若さや良心を痛めるような笑顔で首を振った。
――気を付けないと。
目指すは一枚岩の派閥。他者をないがしろにしては、それが達成しない。
戒めとして、彼らの表情は覚えていくことにした。
「じゃあ、次は公爵派ということにさせてもらいます。誰か関係者はいる?」
「はい」
胸のあたりで小さく挙がる手が見えた。
挙げたのは、優しげな顔をした男性。ここ最近で属することになったフィード=ミンスブ、子爵家の次男だ。長男はミンスブ子爵領を相続する身なので、統治学の真髄を父親から教えてもらっているらしい。それで議員の役が回ってきた次男坊なのだが、なかなか議会の空気になじめていないようだったので、誘いをかけたところあっさりOKをだした。よほど心細かったらしい。
「幸い家内が公爵殿のお母様と何度もお茶をさせていただいておりまして、会おうと思えば、会わせていただけるかと存じます。一度そのツテで会えましたし、今回もおそらく……」
「そっか、ありがとう」
アイアスも、もちろん公爵と会ったことは何度かあるのだが、幼いころだったので、パイプはなかったのだ。現在父親はあのような容体なわけだし。
それに、議員の誰かのツテを使ったほうが、利も生じやすい。
今回は特に、私的な交友関係なので、警戒も生みにくく気軽に話し始められる。
「じゃあそれを頼めるかな?」
「わかりました」
仕事をした、という満足感を顔に浮かべ嬉しそうにするフィード。
「あ、でも、スプレイ伯に一応聞いておかないといけないから、少し待ってくれる?」
アイアスは念のため付け加えた。
フィードも心得た、とばかりに大きくうなずいた。
どうやら順調だ。順調すぎるくらいだ。
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「いやじゃ」
順調じゃなかったらしい。味方から裏切られたような感覚。
スプレイ伯と会合の約束をし、お互いの時間が合ったので、そのまま会うことにした。
派閥内で話した内容を伝えられる限り伝えた結果、意地悪な顔をしてこう返ってきた。
「なんでよ」
アイアスも負けじと言い返す。
いい年して、アイアスを苛めることを存在意義にしてそうなくらい、楽しそうな顔をするおじいさんだ。あまり動揺を見せてはいけない。
「わしはあの、公爵を好かん!」
「そんなガキみたいな理由で……」
呆れて大きく、暗い溜息を吐く。
口から出てきたのは、息と意気だった。
「というか、名門貴族というものを好かん。公爵家だけじゃなくの」
「それって……」
「もちろん、ノワーレイン家もじゃ。……しかし、おぬしとおぬしの父君は気に入っておるからの。そこはいいのじゃ」
名門を好かないというのは国内だけでなく、人間すべてが抱きそうな嫉妬や羨望を受ける。
アイアスだって、生まれに感謝している。受けるべき感情だと、心得ていた。
しかし、目の前の老人は、てんで権力というものに興味がなさそうなのだが、人間というものはわからないものだ。案外裏で何を思っているかわからないから怖い。
と、アイアスが漠然と思っていたら
「名門というのは、家がいいだけで、調子にのって敬意というものがないしの。その上、下の者に対し、傲慢でバカにしとるのが多い」
彼らしい感想だった。嫉妬や羨望ではないのかもしれない。
浮足立った興奮を見せるスプレイ伯を、アイアスは落ち着かせるように話をかえた。
「パリジーン公爵派がダメだったら、どこがいいと思う?」
「そんなの知らんよ」
「えぇー……」
急速的に熱が冷めてくる。
「無責任だね……」
「もともと、これはおぬしらの考えじゃろ。人の意見くらい無責任にいさせてくれ」
「でも伯は一応、僕らの相談役なわけだし、無責任にされても困るよ」
「世には無責任な相談役がいても構わないと思うがの」
「えぇー……」
さらに冷めてくる。
それは『相談役』と呼べるか定かではない。
「まぁ、おぬしらがよく考えてのことだったら、別にいいと思うぞ。王子様はなんと?」
「来なくて僕らの意見に一任するって」
「ふむふむ」
うなずいて、確認する伯。少し不安になりアイアスは再度、伯に問いただす。
「公爵のこと。なにか、いけないことがあるなら言って」
「別にないと思うぞ。わしみたいに変でも意地悪でもないしの」
「自覚あったんなら今後やめてね」
「しゃあないから、毒蛇でも食べるか?」
「何がしゃあないの!? 意味わかんないこといきなりぶっこまないでよ!」
フォッフォと笑って、とても楽しそうな表情が浮かぶ。
年甲斐もなく、このようなことができるのが幸せともいうべき表情だった。
「じゃあ、公爵家に近づいていいんだね?」
「わしは構わない。だが、敵のことを注意することと、王子様に一度聞くことを忘れない方がいいぞ」
「前者はともかく、後者はなんで?」
ただただ疑問に思ったことを聞いてみた。
さっき、説明したばかりだというのに、言ってくるってことはなにかあるのだろうか。
「おぬしは、王子様とのことでなんか悩んでいるみたいじゃが、話さずに解決することと解決しないことがあることを知っておいたほうがいいぞ」
「…………」
「今回どっちかはわからないがの」
またフォッフォと笑い、ひげをなでる。
年の功だけあって彼の発言はやはり身体に心に突き刺さる。
しかし、アイアスは強がりで言ってしまった。
「大丈夫だよ」
言葉の隙間に不安が隠れていなかっただろうか、込めたつもりもない感情に戸惑い、そして取り繕う。
目の前の男に取り繕ったって必要も意味もなさないのに。
スプレイ伯は、瞬間、一瞬だけ目を鋭くさせる。すべてを見透かされたような瞳に萎縮しそうになるが、表に出さない。こっちだって、プライドがある。それに少ない経験と自信もある。
「おぬしは、やはり名門貴族じゃの」
その言葉の真意はわからなかったが、見ると伯の瞳には笑みが戻っていた。
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勝算のない戦いをグスタフ第二王子は始めるだろうか。
少し考えにくい。
しかし、公爵家と手を結ぶことに成功すれば、議席は三分の一以上はほぼ確実で間違いない。
三分の一では足りないが、少し補完すれば過半数とまではいかなくとも、一応和睦されるということで決着しそうだ。
公爵家と手を結べばの話だが……。スプレイ伯――議長派――と比べ、楽な仕事になるだろう。
これを大丈夫だと楽観視することができなかった。
だが、自尊心と呼ばれる心情に負けて相談することもできなかった。
自信が揺れ動く。
力づくでは止められない力に動かされ。
Another 01
銀色の光が、部屋を包み、そして消える。
彼女は、それを繰り返し、そして大きく息を吐いた。
「起きないわね……」
父は起きない。力を本気で使っても、だ。
目の前の大きなベッドで眠るのは、彼女の父親、ヴァルツィーネ帝国の国家元首だが、現在病気で寝臥せっている。もうずいぶんと目を開かないでいる。
病気などにはある程度万能なこの力を使っても、起きられないというのは何か原因があるのだろうか。
気にはなったが、詮索してもしょうがない。
他にもやることがあるのだ。
優先順位の高かった、父親を起こすという行為は無理だとわかった以上、次に優先順位が高い兄への抗議をするというのを含めいくつもある。
時間が足りないので、悩んでいる暇がない。
父親には申し訳ないが、もうしばらく寝ていてもらおう。
あきらめないと決めてからの彼女の行動は早かった。
そんな自分を好きと彼から言ってもらえるような行動をとっていったのだ、やることは実に簡単だった。
相変わらず美しい銀髪を揺らして立ち上がる。
この世の女神とも思えるくらい美しい彼女は、妖艶な笑みを浮かべる。
誰しもが蕩けそうな、でも向けたい人は決まっている限定的な笑顔。
彼女がそれを見せてお返しとばかりの笑顔を想像して、気力を出した。
自信は揺れ動かない。
神に愛された彼女は、根がそういう女性なのだから。
彼女を早くヒロインの舞台に上げたいよ(笑)
しばらく無理そうですが
一応彼女視点の話はこれからも出していきます。
毎話ごとではないですが……
書いといてなんですけど、楽しさが出てこないです。
もう何度目かわからないラブコメが書きたいという嘆きが響いております。
アイアス現在、減点7。
どんな罰にしようかは考えてないですが、面白いのがいいですね