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第10話



新しいノートPCを購入したため、外出中も執筆でき、早い更新が可能となりました。


書いてても読んでても楽しくないかもしれませんが、できる限りコメディー要素を入れようと努力しておりませので、読んでいただけると幸いです。

「久しぶりじゃな、ノワーレインの坊やよ」


機嫌よさげに、たくましく生えた白髭をなでながら笑った。

彼こそがグラン=スプレイ伯である。


親子というより孫と祖父くらいの年の差があるアイアスとスプレイだが、傍から見える様子は和やかではない。

発言権など、対等とまではいかないが、二人の立場は貴族院に所属する議員だ。

年功序列に近いものがある貴族でも此度は関係なかった。


「久しぶりです。スプレイ伯」


少々面持ちは悪いが軽く会釈をするアイアス。


ここは王都の中にあるレストランの個室。リップやアイアスお付きのほかの者は違う部屋で食事をとっている。

このレストランはアイアスにとって初めてだったので、いきなりのアウェームードかと思ったが、周りを彩るのは貴族文化そのものだったのでそうでもなかった。


「まぁ座りなさい」

「ええ……」


こちらで話したいと呼びかけといて失礼かもしれないが、警戒は消せなかった。

椅子に着き、アイアスは部屋を見渡す。

現在ランドルフと話した昨夜とほぼ同時刻で、明かりをつけなきゃ暗すぎるくらいだが、ここには蝋燭に数本火がついているだけなので暗い印象が強かった。

それでもスプレイ伯の表情はにこやかに見えるほど目立っていた。実に不思議な感覚だ。この人好きのしそうな笑顔の中に何が隠されているかわからないというのが。


「大きくなったのぉ~」

「そりゃ最後に会ったのも結構前だしね……」

「そんで生意気になったもんだ。まだまだ坊やのくせに」

「やめてください」

「今だってお化けが怖くてキョロキョロ見回してたんじゃろ」

「今日はそんな話をするつもりで来たんじゃない。それはスプレイ伯爵だってわかっているでしょう?」


強引に話を変える。

そうでもしないと掌でゴンロゴンロと転がされてしまいそうだった。


「そんな話じゃないって、ではどんな話なんじゃ? わしのことを懐かしんで会おうと計らってくれたのだと思っていたのじゃが?」


意地悪な瞳をらんらんに輝かせていた。


それに対し、フンと鼻を鳴らし


「まさか、会うだけならこんな古ぼけた男じゃなく、きれいな女性を選ぶよ」

「おぬしな……」


口調が戻ってきたアイアスに苦言を漏らすスプレイ伯。

ようやく彼の違う表情が見れた気がした。


アイアスはコホンと喉を鳴らして言った。


「それで本題に入るけど、今回の議会、できれば今後も僕らの派閥に協力してほしいんだ」

「ほ~……」


真剣な瞳で告げるアイアスに感嘆する伯。


「あの坊やが大人の顔をできるようになったじゃないか」

「そういうこと言って茶化さないでよ」

「そうかの……」


スプレイ伯は笑って誤魔化した。

すぐに話が変わってしまうこの状況のため、珍しくアイアスが舵をとらなきゃいけないようだ。


「それで、どうするの? そちらの閥はどんな方針を取るつもり?」

「それを言って、わしに利があるのかの?」

「ないかもしれないけど、協力はできるかもしれない」

「だから、おぬしらの協力ごときがわしらにとって利益となるのかを聞いているんだがの」

「それは……」


思わず口が塞がってしまう。

確かに人数の少ない第三王子派は議会として弱小勢力に他ならない。

いくら王子の派閥でも、いくら力を持った侯爵家を後ろ盾にしていても、だ。


しかしここで黙ってしまっては損すると考えたアイアスは考えもそこそこに話を進める。


「それは利益になるに決まってるよ」

「どうしてじゃ?」


ニヤリとわらって問うスプレイ伯。

対してアイアスは訪れた苛立ちには一時的に無視を決め込む。


「もし、同じ目的があるなら、人数は多いほうがいいでしょ? それにそっちは若手不足だと聞いているけど?」

「確かに人数は多いに越したことはないの、目的が一緒だったらの場合じゃが……。しかし別に若手不足ではないがの」

「どうしてさ? 若い人は軒並み他の閥に取られたって聞いてるよ?」

「別に若くしたければ、派閥の年寄りを隠居させればいいがの。おぬしの父上みたいに議会から下げれば、おぬしのように若い連中が入ってくるっていうのがわからないか?」

「…………」


論破され黙るアイアス。

武器はこれだけではないが、これほど完全に言葉の盾で防御されると矛も役立たない。


――まずいね……


やっぱり若さは経験不足とどうしても同義になってしまっている。現状、教科書通りの例として使われてしまいそうなくらい、場を操られている。こちらのペースに持っていけない。


周知の事実であるランドルフの派閥というのは今使える武器でない。

少しでも権威があればいいのだが、アレは国民から愛されているというくらいで能力が認められているわけでない。認められる舞台自体、第三王子ということもありゼロに近いのだ。


アイアスが黙り始めると、部屋は無言が支配した。時間にして数瞬程度だが、やけに長く静かに感じる。


このままあまりにも早い幕引きになるのはアイアスにとっても閥にとっても困る。

それにあっさりと戦争がはじめてしまったら、結局王国にとっても困る話になるだろう。

グスタフ王子などが、どんな派閥相手にどんな形で人数を集めているかわからない以上、今ここで議長派を味方にできればかなり大きい。もうすでに敵が人数を固めていたとしても、これ自体損はないのだ。


もちろん相手にも、場合によって得になる可能性が高い。

王国で力を持つノワーレイン家を味方にできるからだ。伯たちは、議会で力を持っていたとしても、自分たちの持つ領はそれほど大きくない。国内でも有数のノワーレイン家とは比べるまでもないし、国外の者との親交関係も桁違いだ。


無言が長く感じすぎたアイアスは取り戻すように声をだした。


「一つ聞きたいんだけど、結局スプレイ伯たちは結局どの選択肢を選ぶつもりなの? 秘密にしても別に意味はないんだし、聞かせてもらえないかな?」

「わし一人の考えで派閥の決定を話すわけにいかないのはわかっておろう? それにおぬしらの考えも言っていないではないか」


自分の迂闊さに驚く。

そういえばそうだった、会いたくなさすぎて、それにすら考えが回っていなかった。

アイアスは取り乱しているのを隠すように早口で説明する。


「僕らは、帝国と和睦したいと思っている。これは伯もわかっていると思うけど、ランドルフ王子の考えも一緒だよ」

「まぁ想像はついておった」


当たり前というような顔をするスプレイ伯。

じゃあなんで聞くのさ?という疑問は浮かんできてはいけないのだろう。説明をしていないアイアスが悪いのだから。


スプレイ伯は両肘を机について、語るように試すように


「おぬしらが、戦争をしたがらぬのはなぜじゃ?」


と聞いた。


答えは決まっている。これを答えずに何を答えようか。そんな泰然とした態度でアイアスは返す。


「戦争しても勝ち目がないからだよ。いくら騎士団を動かしたとしてもね。そんな負け試合に国民、領民を付き合わせたくない。守るためならいくらでも兵を出せるし納得もさせられるけど、個人の権威を高めるためだけに戦いはさせられない」

「個人の権威の争いをしているのはおぬしらも同じではないか?」


ここが決定機ではなかったようだ。

しかし、口がうまくまわるようになってきていた。


「確かにほかの王子派とは、争っているけど、間違いを主張しているつもりはないよ。それにランドルフ王子が道を外れたら僕は修正させるし、いくらでも道を違えることもできるんだ」

「ほう……。しかし本当に勝ち目がないと思うか? 此度の戦いは」

「勝てないね。――僕らは戦争の経験なんてないけど、帝国との差はわかっているつもりだよ。それも伯はわかっているでしょう」

「どうかの……」


また笑って誤魔化すように返した。

しかしそこにできた隙をアイアスは見逃さなかった。


「もしかして本当に勝てるとでも……? 国力では一方的に優位な帝国との戦争なんて伯にとってもプラスになるとは思えないけど」

「おぬしにとってはどうじゃ?」

「それは僕にとっても同じ。ていうか王国内のほとんどの人がそうなんじゃないかな? 得するのは少しでも戦争で手柄を挙げたっていう名誉をもらえる身分の人のみ」

「手柄を挙げるって勝てないとおぬしは言っておったではないか」

「そんなの最初は少しくらい善戦できるんじゃないかな。戦役化した時に完敗するだろうけど、その時に王が決まっていればいい人が得するはずだと思うんだ」

「そうか……」


ようやく話せてきたという感覚。

対等ではないが、一方的でもないだろう。


戦況はわからなくなってきた。

ここで一気に畳み掛ければ、伯もうなずくかもしれない。


「今なお復興が済んでいない地方もあるのに、こんな状況で戦争を始めるなんてばからしいよ。これ以上民を苦しませる考えも許されることじゃないし、西部はまだまだ酷い状況だ」

「多かれ少なかれ、国の意向に民は揺さぶられるものじゃ」

「これは国の意向じゃなく、王子の意向だよ」


すぐに反論するアイアス。もちろん王子とはランドルフ以外のことを言っている。


「誰が王になるか、それは僕らにとっては死活問題だし、たぶん伯にとっても大きい問題だと思う」

「わしは王が誰になろうとも自分のやりたいようにやるだけじゃ」

「戦争が始まって、本当に好き勝手にできると思うの?」

「さぁの。別にわしは戦争に対しては何も言っておらんし」


軽い誘導尋問をしてみたのだが、通用しないようだった。

声高に非戦派だ!と教皇派のように叫んでくれれば楽なのだが、なかなかそうはいかない。


やはり厄介。

彼は敵に回したくない。


しかし、こんな彼でも自国の領民に好かれるくらいには魅力があるのだ。

アイアスもただ苛められただけではない。

嘘をつかれ騙されたが、その嘘は面白く騙されても楽しいものだった。そのあとに騙されたことを笑われたため、スプレイ伯が苦手になってきたのだ。当然、今苦手か得意か聞かれれば、間違いなく苦手なのだけれど。


そしてそんな彼、領民に対しても優しい。

領民を大切にした政策を自領で展開させているのだ。

先の戦争は西部が侵略されたため、テンキャリアの中東部に領を置くスプレイ伯は、安心していたようだが、自領が攻められることがあれば彼は戦いの前線に立ち、必死で防衛する。


きっと確かなことだ。


もしかして狙うはここではないのか……?


ようやく弱点というか的を見つけたアイアスはニヤリと笑う。

スプレイ伯は眼を丸くして


「どうしたのじゃ、坊や?」


とだけ聞いた。

それに対してアイアスはできる限り真摯に答える。


「スプレイ伯は戦争によって帝国の属国化して伯の領が荒らされたらどう思います?」


一拍、間を開けて


「僕なら、まず戦争を止めると思うけどね」


そうつぶやく。もちろん聞こえるように、届くように


アイアスは眼を逸らして部屋を眺めるフリをする。

部屋は一拍どころか何拍も無言が続く。今日何度目かの空間を感じ、しかし雰囲気や感じ方は先ほどから確かに変化していた。

これは自分で作っている無言だからかもしれない。


そしてアイアスは、こんなものかな、と考えて再び聞く。


「それで、伯爵殿はどっちなの?」

「…………」


頬に手をつきながら反応を伺うアイアスにスプレイ伯は……


「フォッフォッフォッフォ」


笑った。

今日一番の笑い声をあげて。大笑いとはこのことを言うのかもしれないぐらい。


「本当に大きくなったなぁ、坊や」


伯は目尻に浮かび上がった涙を右手の指で掬い取り言った。声が笑っていた。

彼は続ける。


「わしらの方針を教えてやろう。……今回は和睦じゃ」

「えっ……!?」

「議会の後に党で集まったのじゃが、現状維持を主張する者もいたが、結局和睦がまとまったのじゃ」

「そ、それじゃ……」


そう、


「今回の会談は結果として無駄になったというわけじゃ」


というわけだったみたいだ。


「えぇ~~!?」

「まぁドントマインド。略してドンマイ」

「ぐぅぅぅ~……」


いちいち言い方が苛立ちを与えてくる。

アイアスはたまらず非難する。


「もうっ! だったら早く言ってくれたら良かったじゃん!」

「いやはや、なんとなくで、からかい始めたら面白くなってしまっての」

「このぉ、くそじじい!」


興奮しすぎて暴言も子供のようになってしまう。

それを自覚しつつも止められない。


「もう、バカッ! バカッ!」


アイアスは幼児退行してしまっていた。こんな彼を見たら姉上様方がキューンとなってしまうのでないか不安であったが、この場にいないので安心だ。


そこでスプレイ伯は、ようやくアイアスも安心できるような笑顔を見せた。


「だけどな、坊や。ここで話が出来ただけで良かったと思わんかの?」

「うっ……、それはそうだけど……」


事実だが、感情論で言えば、認めたくはないことだった。


「……だけど、結果を知っているなんて僕を弄んでいるみたいじゃん……」

「弄ぶなんて人聞きの悪いこと言わんでおくれ」

「真実だよっ!」


声を張り上げた。蝋燭の火が大きく揺れ、スプレイ伯の影も追従して揺れる。


「…………ハァハァ」


一気に興奮度合が上がったこともあり、息切れを起こした。

何度も何度も何度も呼吸を繰り返して息遣いを整える。

ようやく落ち着いたところで、アイアスは言う。


「結局今議会は味方ってことでいいんだよね?」

「ああ、そうじゃ。今戦争するなんておぬしの言ったように無駄でふざけていることだからの」


心の中で「だったらもっと早く言えよ」ボタンを高速連打した。


「それは議長も賛成しているんだね?」

「無論じゃ、わしひとりの話ではない。……だがの」

「ん?」

「今回過半数が必要にならないかもしれない分、読みが難しくなるぞ?」

「それは悩んだってしょうがないよ。もしグスタフ王子殿下派が人数集めていたら、そんなのこの話し合い自体無駄になっちゃうしね」

「さっき無駄だと言ったはずじゃが?」


スプレイ伯は不審に思いアイアスに聞いた。

アイアスはパチンと大きくウインクをしてそれに返した。


「別に無駄じゃないよ。会いたくなかったけど、やっぱり会ってよかったと思うし、これからもいい関係を築いていきたいよ。せっかく少しでも同じ考えを持ってるわけなんだから……」

「おぬしは……」


感嘆し、スプレイ伯は瞳に感動を映し、言葉をつづけた。


「もう子供じゃないようだ。こちらこそいい関係を築いていきたいのぉ……」

「ありがと。もしよければ、閥の合併なんかも検討してみて」

「それはないがの。あの王子を王にするのはおぬしらの仕事じゃ。だが……、おぬしらがそこまで支持するのなら少しくらいはその協力も個人的に・・・・してやってもいい」


「それは……ありがとう。じゃあ気が向いたら相談させてもらう」

「わし一人なら、の」


アイアスはようやく笑みがこぼれてきた。相談役に長老が多分決まったみたいだ。会談の結果は上々なはずだ。


そこでスプレイ伯は人を呼びつけ、ようやく会食が始まった。


今夜も長い。




イチャイチャラブラブが書きたい

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