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遠死集  作者: 美凪ましろ
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【#007 告白】


 あなた。あなたという人をあなたのおそばにてこの十余年付きそうて参りました。我慢も忍耐も生活の糧となれと。あなた自身が開花するためならばと忍んで参りました。


 あなたの、人を人とも思わぬ言動に辟易しているのです。


 あなたの、人を見る度に、行使する人間かされる人間かを振り分ける性癖にも。あなたの瞳の動きで判別が見て取れます。下瞼のわずかな引きつりにさえも。あなたにとって人は投資の対象でしかないのでしょうか。将来的、いいえ即物的な価値の有無があなたの行動原理なのでしょうか。


 訳もなく誰かに尽くしたり。


 愛おしんだりすることなどけしてなかったのでしょうね。


 わたくしに対しても皆無なように。


 アメリカの人を真似て多額のお金を寄付する心がけは立派なものです、でもあなた、


「こうでもしないと貧乏人がうるせえからな」


 何様のつもりでしょうか。


 あなただってかつては貧しかった。忘れましたの、あなたのお母様が語っておられましたのよ。お米を買うお金もなく小麦粉を捏ねて丸めて茹でて主食にしていた。質屋に時計や代々の家宝を売り払い、学費の足しにしたのだと。


 お一人施設の部屋に住まわれるお母様に最後にお会いになったのはいつでしたでしょうか。


 お忘れなら教えて差し上げます。


 五年前の八月二十五日。


 銀座二丁目のホテルに寄った帰りに、です。


 何故私がそれを存じておるか不思議でしょう。ええ、わたくし気づかない振りを続けておりましたの。


 心失った仮面でも表情変えぬ能面でもありません。


 人間です。


 勤め始めた頃、私に求愛した頃のあなたはもっと清廉な男性でした。食い扶持に困るけれど一緒にしあわせになろう、そんなことを狭い六畳半のアパートで、汗かき腕まくりながら笑顔で仰っていました。


 亡父の後を継いでから、食べるものに困らなくなり、裕福を覚えてからというもののあなたは変わりました。自身でお気づきにならないくらいに。


 暗い誰にも言えないお金の使い道が増えました。困った人を見てもけして動かないようになりました。されど自身の欲望には忠実で。


 いまのあなたは。


 醜い、色情の豚、です。


 何人の女をかどわかしたか覚え切れないことでしょうね。


 それなのにわたくしを求めるあなたに吐き気を覚えます。


 誰か一人去らねばあなたの目は覚めないことでしょう。いいえ、去った人間のことなど見向きもしてきませんでしたものね。わたくし今後はあなたの脂にまみれた紙幣に頼る気などありません。


 静かに、一人潔白に生きていきます。


 さようなら。



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