【#030 悪女】
意図的に誘いをかけておいてそっと拒み。気を持たす。まるでこちらの性急さをいなすように。
きみがきみ自身の価値を他者で確認している。
見合う価値を持つかの見定めを。
きみは、きみの指をどんな風に動かせばぼくを触発させるかを知っている。
きみは、足を組み替えるときに男の目を意識する。合わせそして逸らさない。
技巧的なファンデーション、他者を意識しながらもときに無防備を見せつける。
そうだ。
お酒が入ってしまったの、などとわざと柔らかみを押し付けるだけの能のない人間ではない。
何も言わず下瞼のひくつきのみで挑む。
あなたあたしのこと好きでしょう、と。
誘惑と甘美。
加虐と獰猛。
きみのなかで猛るぼくを。爆ぜる成体をきみは受け入れてくれるだろうか。頭だけでならなんべんでも犯している。
近寄りたい反面で、ぼくはこのままの距離を保ちたいとも思っている。
一度触れると女は価値が下がるからだ。ミステリアスを亡失し、男を所有したがる。まるでアクセサリーだね、互いの男の紹介は醜い主婦のペット自慢に等しい。
こんなぼくのことも分かっていて立ち入らせないのだったらば。
ますますもってアンビバレンスにさいなまれるほかない。
* * *




