【#029 待望】
待っていましたの。わたくしずっと貴方のことを。
さあ、一思いに殺しなさい。
手法は構いません、どんなかたちにされようとも最終的には無に還るのです。痛みも悲しみも飛沫と失せ、地球は変わらず自転する。生命の摂理に私一人失せようとてなんの支障ももたらさないのです。
生きていればたくさんの資源を浪費しますのにね。私一人の一生分で誰の石油が救われるでしょう。
なにも、言ってくださらないのですね。
あのことについて何も。
同じ目に遭わせたい、そんな復讐心から貴方は私に辿り着いた。でしたわよね。まさか。驚愕の結末だったでしょう。
あんなことは一人二人焚きつければ容易ですのよ。
わたくし彼らに何も許していません。
目的、をわたくしの口から明かすべきでしょうか? ええ、真意あってのことです。
それは貴方。
貴方なのです。
むつみ合うことの異常性から生まれる親近感は、誰に目に明らかでなくともこの目にだけは必ずや。
見ていましたもの。
裏庭から出てくるあなたたちは。
わざと時間を違えて。先をゆく後ろめたさ、幾度も振り返り、服を後ろ髪を整える女の心理を。
殴られた痣を晒すことへの抵抗心、です。
もっとも。
私は実父に疎まれた痕跡であっても。
あの女には、愛された証だったことでしょう。
どれほどまでに愛したのですか、ええ、彼女のことを? たった一人の理解者でしたか? たった一人の妹であり恋人でしたか?
ねえ貴方、禁忌を犯す、林檎を摘み取った貴方。
辿り着いた先は花園でしたの。
否、
地獄です。
あのまま続けていたら貴方はもっと地獄を見たことでしょう。
最終的に貴方からインセントタブーを回避したことに感謝状すら欲しいものですわ。
貴方からの感謝の応酬、それは。
憎しみです。
――ねえ。
お兄ちゃん。
罪を私に犯しなさい。
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