【#016 王子様の吉日】
待ってくれていると思っていた。
ぼくは急いだつもりだった。
きみが。
「あたくしお水がないと生きていけませんの。陽の光が強すぎると生きていけませんの。覆いを置いてくださらない? それと水やりは毎朝」
あんな風に憎まれ口をきいてくれる日を。
知らないうちにぼくは、きみにあんな風に言われるほどに愛しさを募らせていた。
きみのためにお世話をすることがぼくにとってどんな意味を持つのか。
幼すぎたぼくは気づいていなかったんだ。
足が、弾んだんだ。
こころのなかだってスポンジみたいにさ。
きみのもとへ戻れる。
この道を進んだこの先に。
「あたくしのお世話をしてくださるかたは他にもおられましたわよ。ええ、あなたのおかえりなんてあたくし待ち望んでなくって」
……なんて言ってくれるだろうことを。
その前半部分がほんとうになるだなんて。
きみ、お世話をするひとなら誰でもあんなうっとりとした目をするの?
憎まれ口をきくの?
裏にほのかな親愛を忍ばせた。ねえ。
ぼくはどこに行けばいい?
あれはぼくの場所だったのに。
キタキツネの元へ戻ろうかな。
ぼくのことを知っていてぼくの帰りを待っていてくれてる。
その頃にはきみ。
もう一度ぼくに生意気な口を利いてくれることを願うよ。
* * *