【#013 逢瀬】
ここらへんがきみの境界線だろうか。
親愛なる者ときみとを分ける。
ぼくは踏み込まないよう、加減していたつもりだ。
なるべく、きみの目を見て。
この十二年。雨の日も雪の日もひょうが豆みたいに屋根を叩いた日だってぼくはきみのところへ通いつめた。
焦がれてね。
惹かれていたんだ。
友達だとか幼馴染みだとかいうシールラベルに甘えていた。
ぼくがきみのことをそんな目で見ていたと知ってきみは裏切られた気持ちになる、それが、怖かった。
ぼくは自分の気持ちに正直でありたい。
もう嘘はつきたくないんだ。
大切で素直な人間だからこそきみのことが欲しい。
弱っているときにこんなことを言うのも卑怯だろうか。
でもいまじゃないと。
ぼくのようにきみの薔薇のにおいに魅せられた蟻が群がることだろう。
落ち着いて見えるねってきみはいつも言うけどね。……すごく焦っている。
見えないように。待っていたつもりだ。
きみがぼくのことに気づいてくれる日を。いつかくると。くるかもしれないと。
待つのはすこしばかり飽きてしまった。
だからそれをほんのちょっとの勇気に転化させたつもりだ。
もし。
きみがほんのちょっとでもぼくの違う角度に興味があるのなら。
あの丘で待っている。
幼い頃に白詰草を詰んだ。あの泉の湧く、薔薇のつたの絡まる園で。
明日の十七時、月が陰りを覚え始める頃に。
……あんまり泣いてばかりいると涙のかみさまがきみに取り付いて離さなくなるよ。ぼくが言うのも変だけどね、ラベンダーの香を焚きしめてね、よく眠るんだ。
おやすみ。
* * *