【#011 肉球・2】
きみのパンチはまるで猫パンチ。
まるでぼくに利かない。
透けて見えるんだ、きみの思考が。見ているだけで、恨みを持つ傷つけられた被害者の概念が染み渡るようだよ。
もうすこし、隠すことと、企むことを覚えてごらん。
ぼくがきみなら、そうだなあ。ぼくに近づいて信頼を得るよう務める。野心の吐露が怖い小心者だから関係性をもう一人は入れて築く。あとで味方に引き入れたいのもある。喧嘩は一対一が基本形だけど征服は二対一でなければ行えない。あんまりこちら側の頭数が多いとかえって動きにくくなるからね。
それと、ぼくの大切なものを把握しておく。ウィークポイントというよりはこっちのが大事。
執念深く爪を研いでときを待つんだ。ぼくがボロを出すタイミングを。長い人生一度くらいは大負けするからね、そこを叩く。間にいるやつをその気にさせてやらせるのが極めてオーソドックスなやり方。でそいつもねじ伏せる、と。
最終的にぼくを踏みつけるタイミングをいつに設定するかなんだ。ま、それまでは分かりやすい友人関係を育んでおく。損得抜きに庇うのが伝わりやすい言動だろうね。もっと先の目標を見据えた言動だと悟られない程度に。
そんなだからぼくは、身の回りに誰も置かない。歴史を常に転覆させるのは寵姫の実在だからね。殺されても動かない程度に愛でてる。
もし、本当に大切な人間が出来てきみに流れたとしても、それはぼくの信じた人間のくだす決断だからね、ぼくがどうこういう筋合いはないよ。魅力に欠けた自分自身を嘆くくらいかなあ。
法に触れない範囲で物理的にぼくを征服してみるとか。ぼくの大切なものを質札に入れて。そうすればぼくはきみのどんな願いだって聞くかもしれない。
きみまだ未成年だからね、せいぜい法律を勉強するといいよ。
* * *