【#001 復讐の道へようこそ】
惜しかったね、あともうすこしだったのに。ほんの一分でもううん、三十秒でも早ければ、ね。
扉を開いた向こうにこそ幸せな新世界が広がってるはずだった。
逃れられるとでも思ったのかい?
きみたちの思考なんて影絵よりも気楽に踏めるんだ。
いつ。どの門から何時に。薔薇の陰る東の門、人をはけさせたのさ、月光の下にあふるる鮮血を拝みたかったからね。恨むとしたらぼくの与えた餌にかかった自身の無能を恨むんだね、それと、彼と。
ああ、もう彼はきみの声が聞けやしないのだった。
約束を結ぶきみたちの小鳥のさざめき、遂げることへの甘やかな願望、それらは僕のトリガーだったよ。
いったい。
最愛の者の死を目にするいまの気持ちはどんなものだい。どうか僕の理解に及ぶように伝えてくれないか。逃れようとした世界、それが爆ぜてまた戻るに至るまでの心地を。魂のみなぎる感動を。ぼくは大切なものをなにも喪ったことがないから、分からないんだよ。
さあ、顔をあげて。
至高にして史上のヒロインの顔をとくと見せておくれ。
血飛沫を散らす心臓の木霊だとか。
滂沱に暮れて滲み切った視界の美しさ。
シーツが引き裂かれる血肉の響き。
ぼくのくだす笑みがどれだけきみを傷ませるのか。
切り刻まれるほどの、痛みを。
この原型を留めない肉のかけらは、彼のではない。
きみのだ。
喪ったことに激しくいまは心の臓が痛むことだろう、でも彼ほどではないよ。
ぼくが片手で握りつぶしてしまったからね。
今夜のきみの夕食だ。
もし。ぼくに同じ苦しみを味合わせたいというのなら。
きみが死ぬしかない。
そしてその復讐の末路をきみ自身が拝むことはならないのだよ。
* * *