表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠死集  作者: 美凪ましろ
1/44

【#001 復讐の道へようこそ】


 惜しかったね、あともうすこしだったのに。ほんの一分でもううん、三十秒でも早ければ、ね。


 扉を開いた向こうにこそ幸せな新世界が広がってるはずだった。


 逃れられるとでも思ったのかい?


 きみたちの思考なんて影絵よりも気楽に踏めるんだ。


 いつ。どの門から何時に。薔薇の陰る東の門、人をはけさせたのさ、月光の下にあふるる鮮血を拝みたかったからね。恨むとしたらぼくの与えた餌にかかった自身の無能を恨むんだね、それと、彼と。


 ああ、もう彼はきみの声が聞けやしないのだった。


 約束を結ぶきみたちの小鳥のさざめき、遂げることへの甘やかな願望、それらは僕のトリガーだったよ。


 いったい。


 最愛の者の死を目にするいまの気持ちはどんなものだい。どうか僕の理解に及ぶように伝えてくれないか。逃れようとした世界、それが爆ぜてまた戻るに至るまでの心地を。魂のみなぎる感動を。ぼくは大切なものをなにも喪ったことがないから、分からないんだよ。


 さあ、顔をあげて。


 至高にして史上のヒロインの顔をとくと見せておくれ。


 血飛沫を散らす心臓の木霊だとか。


 滂沱に暮れて滲み切った視界の美しさ。


 シーツが引き裂かれる血肉の響き。


 ぼくのくだす笑みがどれだけきみを傷ませるのか。


 切り刻まれるほどの、痛みを。


 この原型を留めない肉のかけらは、彼のではない。


 きみのだ。


 喪ったことに激しくいまは心の臓が痛むことだろう、でも彼ほどではないよ。


 ぼくが片手で握りつぶしてしまったからね。


 今夜のきみの夕食だ。


 もし。ぼくに同じ苦しみを味合わせたいというのなら。


 きみが死ぬしかない。


 そしてその復讐の末路をきみ自身が拝むことはならないのだよ。



 * * *

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ