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第一話『天敵な幼馴染?』


ふらふらと階段を上り、力なく教室のドアを開いた。


今の俺は限りなく人に見えにくい状態になっているのだ。

クラスメイトたちには古い校舎の立て付けの悪さで勝手にドアが開いたように見えているに違いない。



あ〜、学校ふけて、まずバッティングセンターにでも行って、それから少しテンション上がってきたらゲーセンでも行って、他人に見えるくらいになったら誰か呼んでカラオケにでもしけこんで解散ってとこか。


「…………………だ!」


机に入っている教科書を無理やり学生かばんに押し込んで、肩に突っかけた。


ああ、一応早退届を出しといたほうがいいか……めんどうくせぇ、良いか別に。


けだるい体に鞭打って、再び教室の後ろのドアから出て行こうとしたとき、パッカ〜ンなんていう音と同時に垂直に学生かばんが旋毛の上に立った。


「伸!何堂々と授業ふけようとしてんだ!」


ああ〜、こいつに見つかっちまったか。


「何だよ明巳、俺はとても心が傷ついたからこれから癒しの旅に出なきゃならないんだ。放っておいてくれ。」


くるりと向き直るとやや目が釣りあがっているやや栗色のボブカットの女の子が一人。


彼女は明巳こと、クラスメイトの鏑木明巳かぶらぎ あけみである。


ウチの実家とは隣同士で、もとより親同士の交流もあって昔から何やかやと世話焼きをしてくる男勝りな幼馴染である。

そして昔っからの付き合いでインビジ・ブルーに耐性があり、へこんだときの俺の天敵だ。


どこか、俺を見てあきれに似た表情を浮かべている明巳は、その凛としたの風貌、そして鼻筋が通った整った器量よしでこの学年の美人ランキングの十位以内に入っているとか、いないとか。


俺に言わせれば巷の男よりよっぽど豪胆な男らしい性格で、とてもそんなランキングに入るようなやつとは思えないが。


「ヴァァァァカ!伸みたいな半端者を義美が相手するわけないじゃん!それを何が、傷心を癒す旅にでる〜、よ!なっさけないわねぇ。」


再びパッカ〜ンなんて音と共に一撃決めてきた。


「……おい明巳、お前、その話どれくらいまで知ってんだよ。それに、義美っておまえ大澤さんと知り合いなのかよ。」


「あったりまえよ。何を隠そう、伸が隠したいと思っていることすべてを知っているって寸法よ!なんてったって義美は私の親友なんだから。いつも屋上で一緒にご飯を食べるのに、今日は早々に引き上げていくから何かと思って聞いてみれば、まあ伸のうれしはずかし失恋パーティというわけよ!」


目の端に涙を浮かべてケラケラと大爆笑しながら、バシバシと明巳のやつ、目いっぱいの力で俺を叩き通しだ。


しかも攻撃は次第に握り拳へと進化していく。


「いてーからやめろ!大体なぁ、何でお前に半端もの呼ばわりされにゃならんのだ!」


「へ?伸、義美がどんな子か知らないで告白したのか?」


「そんなん、これからゆっくりと知っていきたかったんだよ。大体一目ぼれだったしな。」


振られたときを思い出してしまって、また小さなため息が出た。


そして下向いた視線を明巳に戻すと、明巳のヤツは大きく大きく振りかぶっていた。


「バァッッカモ〜ン!」


明巳のスクリュー回転を加えられた渾身のテレホンパンチが眉間に直撃。

伸は泡を食って卒倒した。


ちなみに明巳は空手初段。


「起きろ!」


ベカ、なんて音をさせて明巳は恵助を蹴り起こす。


「あいててて…お前、眉間って強打すると死んじゃうんだぜ?」


「一回死ななきゃ馬鹿は直んないの!敵を知り己を知れば百戦危うからず。ウチのお爺の名言よ!義美のことをぜんぜん知らないくせにアタックなんかかけるからそんな結果に終わったのよ!」


「まあ、その言葉は孫子の名言だけどな。」


「えぇぅ?嘘………まじで?」


「ガチで。」


「女の子に……」


「え?」


「恥をかかすなー!」


ボカリ。


再び豪快な音をさせて、顔を真っ赤にした明巳のこぶしが眉間にクリティカルヒット。


ちなみに明巳は空手インターハイで優勝経験あり。


こんなときだけ『女の子』を引っ張り出すなんてずるい、なんて口に出したら殺されてしまうから必死に痛みと一緒に飲み込んだ。


超イテー。

絶対今、眉間から白い煙が出てる。


「えほん、だから、私が、義美とうまく行くようにあんたを鍛えてあげるわ!」


「いや、無理だろ。俺、ストーカーとか変態とか言われちまってるし心証はこれ以上ないほど悪いぜ?」


「うん。まあ、最悪ダメでも、少しくらい心証を回復させてあげたいからね。いくらだめな幼馴染でも。」


「…明巳。」


腕組みをして、これからどうするか不敵な笑みを浮かべながら夢想する彼女。


肩の周りに黒い蜃気楼のようなオーラが見え隠れするのは見なかったことにして。


明巳はいつも、やり方としては暴力ばかり振るうけれど、何もない空間に一人話しかけるという恥を押し切ってこんなに俺を励ましてくれている。


つまり、こいつはこういう奴なのだ。


その、ともすれば粗野とも取れる動きはこいつの照れ隠しであることはだいぶ前から知っている。


「…ありがとうな、明巳。」


「ま、まあ、腐れ縁ってヤツかしら。ほら先生来たから早く戻らなきゃ。」


つーんと明巳は顔を背けた。

さらりと、髪が風になびく。


そのとき、一瞬校内放送のスピーカーからぷつりと音がしてから授業の開始のチャイムが鳴り響く。


教卓側のドアの前で待ち構えていたのではないかという絶妙なタイミングで教師が入ってきた。


「でもまあ、何にしても、今日はふける。居ても出席取られないだろうからな。」


「あっそ。し〜らないっ!」


フフフ〜と笑って踊るように明巳はすぐさま自分の席に着いた。


傍目には一人芝居の奇行を演じたことなど気にも留めずに、あっけらかんとクラスの連中にわけのわからない午後の挨拶をしまくってから。


「何だってんだよあいつ。」


きしみに似たような音を響かせて教室のドアを再び開けて出て行こうとしたとき。


「おい、蒼咲、蒼咲伸。おまえ、そんなに堂々とふけるほど俺の授業が嫌いなのか?」


「そーそー、大ッ嫌いなんすよ〜数学なんて犬もくわ……え?」


きっと無脊椎反射だったに違いない。


まるで瞬きをするくらい自然に、無意識に、あっという間にその問いに本音で答えてしまったことに気付き、そしてその迂闊さに背に一筋の霙が伝った。


見ちゃダメだと本能は首を正面に戻そうと抵抗してくる。


しかし、そのまま出て行くわけにも行かない。


本能に抗って首を正面の黒板に向けると、青筋を立てて小刻みに震えている数学教師兼空手部顧問、田村久雄が歪な笑みを浮かべていた。


「え………?俺のこと、見えてるンすか?」


「ああ、お前の顔に浮かぶ脂汗の数まではっきりとな。え〜、蒼咲伸、次回のテスト点数から十五点引き。ついでに、後で職員室のほうへ来い。数学が大ッ好きになるようなすばらしい時間を用意してやろう。」


「そ、そんな…ばかな」


開いた口を塞ぐ前に視線を明巳へと流した。


口だけ、バーカ、だから言ったんだ。

と動かしてくすくすと笑っている。


ああ、見直した俺が馬鹿だった。


やっぱり明巳は悪魔だった。分かっていて教えてくれなかったんだから。


インビジ・ブルーは別の感情が勝つと発動が終わる。

そしてそれはあまりに自然に起こるため本人には認識できないのだ。


諦めて、おとなしく席に着いた。

今日は俺ばかりやたら指名されたのは言うまでもない。


うがぁぁっ!何でこんなときだけインビジ・ブルー発動してくれないんだチクショ〜!


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