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第十四話『一歩』


廊下まで響き渡るソレにより、ドアをぶちやぶらんとしている暴徒たちも思わず耳を塞ぎ、そして耳を傾ける。


『ええぇと。……あれ?愛生先輩、これってもう?……入っちゃってるんですか〜?』


『無論、もう全校に垂れ流しだとも。』


『はっ、すいません〜皆さん失礼しました。』


「この声は圭吾!?」


『は〜い♪伸ちゃん聞こえてる〜?圭吾だよー。』


「なにやってんだよ……」


と、つぶやいて今更忘れようと切り捨てていたことを思い出す。


ついさっきの放送で、文化部を総括して俺を捕まえる総司令に任命されたのが圭吾だったってことを。


『ごめんねぇ、伸ちゃん。僕、愛生先輩側につくことにしたんだ。理由は前言ったとおり。だから、あの時絶妙なタイミングで愛生先輩が乱入したのは僕のリークのせいなんだ。ってことで、告白する情報を渡して無事新聞部に入部できたから〜。ありがとねぇ。バイバ〜イ』


『ふふふ。桜庭君は優秀だよ。青崎クン。』


『ああ、それとね。伸ちゃん。僕は一階、一年生用玄関で愛生先輩と一緒にいるんだ。じゃあ抵抗して怪我しないようにね〜』


プツリ。


ソレは放送が切れる音だったのか。伸の精神を保っていた何かが一線を越えた音だったのか。


バァギィガゴガゴカシャァアアァアン!!

ぼんっ!!


ドアが悲鳴を上げて折れた。

押さえつけていた椅子は勢い余って弾けとび、ずしりと重石になっていたテレビはその場でたおれ、しゅぅしゅぅと煙を吐いて一瞬だけスパークした。


「全体突撃――!!」


どやどやと教室内にファンクラブの男たちがなだれ込む。手には皆が皆いつの間にか文鎮を装備。


頭の隅で、某人気ゾンビゲームの最新作の化け物町民みたいだな、なんて思う。


「どこだストーカー!!」


男たちはそれこそ教室のあり一匹にがさんと再びロッカーの中、机の下、引き出しの中、ゴミ箱。


およそ人間がおさまりそうもない場所に至るまで入念に捜索を開始した。



―――教室の中心で、ぼんやりと立ち尽くす伸にまったく気付く事無く。


もう、いいか。


ストーカーとして名乗り出て、やりもしないコトを咎められて、まして見たこともない奴らにこんな血走った目で追い詰められて。


もう、全部嫌になった。


それでも必死にやってみたって言うのに、追い討ちのように親友だと思っていた圭吾にはいともあっさりと裏切られて。


馬鹿みたいだ。


周囲には必死になって俺を探している連中が居る。


すぐそばに居るのに、俺だけ違う場所に居るようにダレも気がつきゃしない。


そうだ。


ここは、誰も気づけない場所。


オオサワサンに気に入られたい、なんていう、ここにいる連中と同じ理由で自ら踏み込んだ、俺がいるべきじゃない鏡の向こう側のセカイなんだから。


圭吾に裏切られた怒りは沸点を通り越してむしろ俺の頭をいてつかせた。

だからこそ、インビジ・ブルーが発動したんだろう。


今こそ逃げるチャンス。ココこそが攻めに転じるチャンス。でも……。

耳元の喧騒が遠い。


いっそのこと、連中が俺を見つけて責め立ててくれたほうがよっぽど楽だって言うのに、もう誰も俺に気付くことはできない。


もういい。

もういい。

もういい。

もういい。


俺はもう、ここから動かない。

動く気なんてサラサラない。


大体、なんでこんなバカなコト……


ドンッ


肩に走った衝撃に驚いて振り向いた。それは、偶然ファンクラブの一人がぶつかっただけのもの。


「あ……。」


伸は思わず肩を抑えた。

ふと、思い出したことがある。


「どこにも居ねぇじゃん。また窓からどっかに逃げたんじゃねぇ?」


能力が最終局までいっているのだろう。伸の存在に気付けないどころか、そのファンクラブの男は伸にぶつかったという己の感覚にまで気付けない。


こんなバカなコト。


――――あいつが考えたんだ。


なぜやろうと思ったのか。


―――あいつが背中を押したんだ。


そうだった。


――じゃあ、決めたのは誰だ。


失意のどん底のまま、かすかに、伸は上に手を伸ばした。

立ち直るなんて出来ていない。

だから誰も俺のことになんて気付けない。

でも。

だからこそ今、俺は動かなきゃならない。


道を作ったのも進めといったのも明巳の言葉だけれど、その道に一歩踏み出したのはまごうことなく俺の決意だったんだから。


それに巻き込まれてしまったのは明巳のほうなんだから。


――さっきの電話は、明巳に何かあったのかもしれない。


だから俺は最後まで行かなきゃならないんだから。


呆然と立ち尽くしていた足に意思を込める。


朽ちて倒れる古巨木みたいにゆっくりと一歩、足は前へ。


それは、酷く力のない一歩だった。

それは、酷く消極的な決意表明だった。


しかし。


それこそが、失意のどん底の伸には革新的な変化だった。


明巳たちがいるとしたらもう校内じゃないはずだ。


どさくさに紛れてちょっかいを出すファンを遠ざけるために、タイミングをみて帰るって言っていたのを覚えてる。


向かうのは一階の玄関。


足を止めようとするメンタルを押し切って、伸は一歩、また一歩と足を踏み出した。


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