第九話『あけみつうこんのいちげき!しんはいきたえた』
授業が終わり掃除が終わり、HR終了の最後のチャイムがなった。
すぐさまグループを作り出してこれから遊びに行く算段を立てるもの、またあるものは大きく伸びをしてから机に突っ伏し、あるものはピンと背筋を伸ばしたまま次々に荷物をまとめ、あるものはすぐさまジャージに着替え部活に向かう。
何のことはないいつもの光景の片隅で、わずかに伸は肩をこわばらせた。
「あ〜、ついに審判の時。鬱だな。」
「ほらほら、気合入れなさいよ!」
そんな伸の背中に、いつの間にか近付いてきた明巳のいつものような強烈な張り手が打ち込まれる。
「っっっっってぇー!!てめっ明巳!たまにはおとなしく…」
「無理。伸がうじうじしててむかつくから。私は先に義美と合流しているからさ、後からきてよ。ごたごたの間で義美をどうこうしようとする輩は私がしとめるからさ。」
「あ〜、わかったよ。んで、俺は本物があぶりだされるまでは逃げ回れってことだろ?ストーカーが見つかったら即連絡してくれ。」
「わかった。伸…」
「何だ?」
「死なないでね。」
やや引きつった顔で、明巳はそんなことをぬかした。
「てっめぇ、ここでそんな事言うかフツー!?」
「あはは、それもそうだ。」
ケラケラと笑いながら、明巳はまた伸の背中をバシバシと張り飛ばす。
ちらりと明巳を見上げて小さく息を吐く。
まったく、不安なら俺のことなんて放って置いてそんな損な提案をしなけりゃいいんだってんだ。馬鹿だな、まったく。
「明巳こそ、ストーカーが出てきて危ないと思ったら、すぐに逃げろよな。」
「えぇぅ……わ、私の心配してる余裕なんて無いでしょ!私がインターハイ優勝経験者だって忘れたのかな〜?」
「ああ、なるほど忘れてた。だからすぐ手を出すのか。」
ぼぐっ!という鈍い音と一緒に伸の旋毛に踵落としが決まる。
振り上げられた足で、スカートが揚羽蝶の羽根の様に丸く広がる。くりぬいた様な白と水色のストライプが濃紺の花の中心に出現した。
「お前、パンツ丸見えだぞ。」
「うっ!」
ぱっと、これでもかというくらい真っ赤に明巳の顔が染まる。
「馬鹿ぁぁぁぁ――――――!!!」
ビュゴウ!
メゴッ!
なんて大きく振りかぶった不恰好なストレートが無防備な伸の横っ面にめり込む。
「ぎゃあああああ」
勢いあまって机を吹き飛ばし、伸はキリモミ回転しながら頭から窓際の壁に激突した。
「知らない!もう先に行ってるからどうにでもなっちゃえ。」
逃げるようにばたばたと荷物をまとめ、明巳は教室から飛び出していった。
「ま、待て…明巳………ヤバ…これ、死ぬ……」
ぱっくり割れた頭から大量の血を流しながら震える手を教室の後ろのドアに伸ばしてしばらく。断末魔が終わるとその手は力なくぱたりと地面に落ちた。