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私は目を開ける。白い部屋だった。
ぴっぴっと規則正しく機械が音を出していた。
何処?
私の寝ているベッドの横につーが座っている。なんで?
その顔は悲しそうで、そうでもなさそうな。難しい顔だった。
「起きたんだな」
「ここは?」
「病院だ」
私は体を起こそうとする。体が悲鳴を上げた。
「ぐあっ」
「無理するな!」
つーに制止させられる。そうだ、東は!?
「東は!?」
「っ」
つーが言葉を詰まらせた。もしかして。
「しん、だ?」
「……あぁ」
「うそだよね!?」
キッとつーを睨む。つーはぐっと唇をかんだ。
「お前が、よく知ってるだろ」
つーがそう言って、うつむいた。
「じゃあ」
その言葉につーが反応して顔を上げる。
「何で。なんで死なせてくれなかったの!? 私は死にたかったのに」
ばちん
そんな音がした。頬が熱い。
つーが立ちあがっていた。
「馬鹿言うな! お前はな! 東という一人の男を殺したんだ! その罪はな、生涯そのもので償うものなんだよ!」
「生きてても……私はんぐっ!?」
つーに口元を片手で鷲掴みにされる。つーの目がまた、ゴミを見る目だった。
「おまえ、いい加減にしろよ。罪なんてな、一生生きてても償える代物じゃない。よく聞け、俺も罪人だ。今なお償い続けている罪人だ。俺は死ねない。だけどお前は死ねる。でも、罪を背負い始めてすぐに死ぬなんてな、諦めてるのと一緒なんだぜ? 死ぬならな、その生涯最後まで使い切って死ねってんだ。そんときに罪はな初めて償われるんだ。いいか、死ぬな。勝手に死ぬな。俺が許さん」
「でふぉ」
口が抑えられて上手く声が出ない。でも、よくわからないよ。私は、どうすればいいの?
「生きろ。俺と一緒に。俺が一緒に罪を償ってやるよ」
手を離され、私はうつむいた。
そうすればいいか。私には分からない。でも、それが東に対しての償いになるなら……。
「分かった」
「あ?」
「わかった! 生きるよ! この私の命が尽きるまで生きてやる!」
「って、20年ぐらい前だっけ? お前が言ってたよな」
「ははは、そうだっけ」
青い空。私は一人の少女、塩冷津と一緒に、お墓の前に居た。
異端者関連のごたごたはすぐに収まり、異端者にも人権が与えられた。それで、私は津と一緒に暮らしている。
私は空を見上げる。何も無い青い空だった。
「そういえばさ」
津を見る。津はお墓の前で、両手を合わせて目を瞑っていた。
「何?」
私も一緒に合わせる。
「本当の名前、知っているのか?」
「本当の名前?」
私は瞑った目を開けて津を見た。線香の良い匂いが漂う。
「俺が拾った資料に、書いてあったんだけどな。聞きたいか?」
「言いたかったらどうぞ」
お墓の方を見る。お墓には『森澤家』と書いてあった。
お供えには、饅頭とおかきが置いてある。
「本当の名前――――ってさ。」
津の言葉と同時に風が吹き、木々が音を立てた。
「ん?森澤 椿だって?」
私の反応に、津がけたけたと笑った。
「いいや。まぁ、そうだわな。お前は椿だ」
「ええ。私は椿。それ以外になりえない」
私と津は立ち上がる。こうして並ぶと親子みたいだった。
「ははは。ずいぶんと大きくなりやがって、男のプライドが傷つくじゃねぇか」
「若いっていいね。何で成長しないんだろうね」
私は津の頭をぐしゃぐしゃとする。
「や、やめっ! これでも、女の子として考えてだな」
「やーいやーい。津がおこったー」
そのまま逃げるように、走って帰路につく。
「こらっ!?まてやー!」
津も同様に私を追いかけてきた。
東。私ね、この命が尽きるまで色々見て来ようと思う。
だからさ、私が償いを果たした時に、「おかえり」と「あいしてる」って言ってね。
そしたら、私も「ただいま」と「あいしてる」って言うから。
そして、今まで見たものの話をいっぱいしたいからさ、二人きりで話そうよ。
だからそれまで、「行ってきます」
『いってらっしゃい』
「ん?」
私は空を見上げる。
「どうした? うりゃっ」
津が私に抱きついてきた。もう、津の体重が見た目相応になっていて軽い。そのままおんぶをする。
「いや、東の声が聞こえたからさ」
「なんて?」
私はくすっと笑った。
「いってらっしゃい。だって」
「じゃあ、俺も。行ってきます」
津をおんぶしながら歩き出す。
そういえば、さっきの名前。
「スカイ・ガリレイ……か」
「なんだ、聞こえてたのか」
「やっぱり、森澤 椿がいいや」
「ちがいない」
私と津はけらけらと笑った。
[-No.2045-終]
1章終りです。
2章からは、別の名前で出すので、お願いします。
でも、「罪」という名前は変えません。




