第1章 第1話 普通の人々
とりあえず、登場人物紹介です。
現代。関東地方、近郊のベッドタウン。
ごく普通の住宅街で小山に囲まれた平凡な町。
坂が多いので、移動手段を自転車にするのは少々難がある。
ある意味小学生から高校生には向かない町だ。
その町に揃って16歳の三人の少年達がいた。
まあ少年なんてこの町じゃなくてもどこにでもいるが。
しかし、全世界を探しても、これだけ趣味が違ってオタクな三人が仲良く話す姿を見るのは難しいだろう。
岡田は無類の科学好き、と言うより発明オタクと言うべきか。
彼の家は二階建ての一戸建て。なんと自宅に立派な地下室がある。
そして彼の部屋はというと…。
地上を探しても見つからない、地下室に彼の部屋がある。
というか地下室が彼の部屋なのである。
部屋にあるのは科学の本数十冊に「CHEMISTRY」とか言うイカした名前の雑誌13年分。
そして、膨大な数の発明品達である。
誰が分けたのかはわからないが、5歳から年齢別にキチンと発明品が整理されている。
興味深い品々ばかりだ、少なくともここ2、3年の発明品は…。
5歳から9歳の発明品箱はほとんど「ガラクタ箱」で、10歳辺りからようやく発明の意図が見え隠れするような品々が出てくる。
「13歳箱」には無限大数の単位まで計算可能な計算機や、重さが僅か150gの60mmドライバーヘッドホン等、なかなか実用性がありそうな品々が並ぶ。
「16歳箱」には立体レーザースキャンやお手製のBDプレーヤー等、売れるような物が続々出てくる。
又、年齢別にわけられた棚の下に「成功の基」と書かれたステッカーの貼ってある箱があり、中には明らかに失敗作といった物が沢山入っている。
中でも興味深いのがある一つの箱だ。
箱はルービック・キューブの様に可動式になっていて、真ん中に「次元転換装置」と書いてある。
だが、不用意に動かすと内部に火が付き、下手すると大爆発するらしい。
彼の幸せのひと時は自らの発明品に囲まれて寝ることだ。
実際彼は、平行に並んだ棚の間に丁度挟まれるところで寝ている。地震が来たら一発で下敷きになりそうだ。
そんな彼を学校のクラスメート達は「オタクナルシスト」だと思っている。
それは……正しい。
彼を一種の「天才」だと思えなければそう思うしかないだろう。
筋肉質の体を持つ松村は典型的な餓鬼大将。
いや、餓鬼大将だった。
高校にもなって餓鬼大将の呼び名はおかしいだろう。
彼はミリタリーと歴史好き。歴史といっても限定的で、1941年(太平洋戦争勃発)からの歴史が詳しい(主に戦争関係の歴史)。
彼の家は、この町では珍しい三階建てでやはり一戸建て。
三階に彼の部屋がある。
彼の部屋も岡田の部屋に負けず劣らず凄い。
壁に何丁ものエアガンが飾られており、全ての銃の下にに名前とその種類の銃に関する説明書きが書いてあるステッカーが貼ってある。
彼曰く、エアガンは全て未使用美品で「サバゲーみたいな野蛮なことはしない」らしい。
顔と筋肉ガチガチの体に似合わず神経質なのだ。
その他、戦闘機の操縦知識もプロ並みにあり、「ラプターだって操縦してみせる!」と豪語している。
そんな彼をクラスメート達は「時代錯誤の筋肉バカ」と呼ぶ。
それは……正しい。
今時、筋肉だけあっても女の子にモテる訳ではないのだ。
とりわけ高校生には大変な時代になったものだ。
斉藤は恐竜好きのお喋り屋。
もはや恐竜専門家の域だ。
果たして何処でそんなに知識を得たのか、情報に値段が付くこの時代で。
彼の家は二階建ての一戸建て…とはいかず、二階建てのアパートの一室だ。
父親が働かない人らしく、家計は母親のパートと彼のバイト、それに怪しい匂いのする借金が支えている。
そこがまた酷い有様で、彼の部屋の二階まで上がる鉄製の15段の階段は錆び付いて10段目がぽっかり抜けている。
おまけに彼の部屋のドアは蹴り入れられた状態で、部屋の前に掲げられたプラスチックの名札は読めなくなっていた、読めるのは部屋番号「204」の数字だけだ。
彼の部屋…と呼べる部屋は無く、代わりに「彼の本棚」がある。
そこには小学生用の恐竜図鑑に初代仮面ライダーの時代の恐竜図鑑、そして大量のノートが並んでいる。
そのノートが凄い。ここまでに「凄い」を何回か繰り返したかもしれないが、このノート達は本当に凄い。
「ノート」というのはどこにでもありそうなB5サイズの大学ノートで、タイトルになんと恐竜の分別の名前がある。
例えば「ティラノサウルス科」のノートは2冊ある。1冊目の中にはティラノサウルスの事がみっちり書かれていて、2冊目には「アルバートサウルス亜科」の話とか「コエルロサウルス類との関係」とか。一見ティラノとは関係なさそうだが、彼曰く「関係大有り」なんだそうだ。
前述の通り、彼の家庭は貧乏で怪しい人達に借金をしている。そのせいで彼は時々借金取りに狙われる、勿論温和な連中ではない。
そんな彼の将来の夢は「考古学者」になることだ。
明確な夢があるのはいいことだが…。
そんな彼をクラスメート達は「夢見がちなオタク」だと軽蔑する。
それは……正しい。
彼のせいではないとは言え、あの貧乏さでこんな事を言うのだ。仕方がないような気もするが…。
クラスメート諸君はもっと夢と思いやりを持つべきなのだが、近頃はそんな言葉がどんどん無くなっている気がする。
何はともあれ、以上がこの物語の主人公達だ。
前述したが、この三人は仲がいい。
これだけ趣味が違うのにこれだけ仲がいいのは、実はとある理由があるのだが、ここでは明かさない。
いつかわかるだろう。
さて、冒険を始めよう。