第2章 第6話 昔話
お久しぶりです!投稿遅れてすみません!
ヒース事件から二時間後。
「スプライト」のクルー数人が、松村と岡田の寝床を作っていた。
艦内規則だと、22:30に全室消灯。とは言っても、真夜中出動も珍しいことではなく、皆は中々寝ない。
暗闇の中で、お喋りタイムや腕相撲大会や枕投げ。まるで中高生の修学旅行だが、これが彼らの日常だ。
おまけに今日は来客が二人もいる。
少佐が自ら希望した共同寝室のメンバーは、ダマスとタイラー兄弟に、ミューレンにホールの計五人。
今日は七人だが。
人口密度もなかなかのものだ。
部屋はそれぞれ三畳で三段ベッドが二つ。ドアが一つと非常通路行きのドアが一つ、このドアの在りかは部屋によって異なり、場所を知っているのはこの部屋では少佐だけ。
そのベッドというのは、入口を挟む形で左右にあり、左の最上にタイラー、真ん中はダマス、下はミューレン。右の最上はホールで、一番下が少佐となる。
松村は空いている右の真ん中に陣取り、岡田は二つのベッドに挟まれた床だ。
岡田は自宅でだって、「我が子」が入った棚に挟まれて床で寝ていた。彼にとっては一番安心できるポジションなのだ。
当の岡田はダマスやミューレン達とどうやら笑い話をしているらしかった。
フル英語で。
松村は語学の重要性と可能性を痛感した。
その松村は、少佐と談話をしていた。
彼はさぞかし不思議な気分を味わっただろう。
幼稚園からの親友の顔と声を発する全くの別人が、自分と談笑している。おまけにその親友はもはや故人だ。
「ところで、今日俺達が戦った機って無人でしたよね…」
「『無人だったよな』にしてくれってば。敬語は気分が滅入る。確かに無人だったよ。」
「遠隔操作かなんかなんです………なのか?」
「ああ。それも人工知能が操作してる。」
松村は少佐に対して、未だにタメ口をきく気にならないでいたが、松村が敬語を使う度に少佐が笑い混じりの睨みをきかせていた。
このおかげで、二人のこの会話はかなりぎこちない様子を呈していたが、とりあえずこの500年の歴史はさらっと聞き出した。
第三時世界大戦はロシアとアメリカの和平交渉でなんとか終結したものの、中国と日本&アメリカ間の戦争は冷戦状態で未だに終結しないでいた。
そんな中、中国は国土防御システムを核兵器制御システム含め完全自動化。制御は完全に人工頭脳化した。
ある日、中国のとある大学生がコンピューター実習で、人工知能内蔵の感染型コンピューターウィルスを開発した。
それをその大学の教諭が民間のエロ写真サイトの不法ダウンロードに使用したことでインターネット上に侵入。
だが仕様も知らずに教諭が使ったそのウィルスの人工知能は生体DNAが組み込まれた画期的な物だった。
ウィルスは学習を繰り返して、国営インターネットにまで侵入し、USBか何かを通して国土防御システムにまで侵入。
開発中の実戦用機が真っ先に暴走を起こして国内の人間を虐殺。
国営通信インターネットも完全に乗っ取られ、中国は事実上コンピューターウィルスに国を乗っ取られたという訳だ。
更にウィルスはありもしない「他国からの攻撃」を傍受し、世界中に核をばらまいた。
その時に報復として起きた戦争が500年続いているのだ。
「まるで『ターミネーター』みたいな話…ですね…………だな。」
「可笑しな話だろ?マウスのワンクリックでこの500年戦争が始まったんだぜ。」
「そう…だな。」
「エロ画像の不法ダウンロードの見返りがこれか。」
二人は声を抑えつつ笑い出した。
談話している内に、松村は次第に少佐との会話に慣れてきた。
彼はこの旅の経緯を残らず話した。
「オタク三人組」の絆。
斉藤が死んだ時の話
体育館での出来事
初めてタイムマシンを見た時の事
未だに思い出せない、母親の言葉
出発当日の学校
そして、出発
松村が住んでいた時代の事も細かく話した。
この話を、少佐は興味津々になって聴き入っていた。まるで普通の男の子の様に。
今までの威厳とか、そういうものはみんな吹き飛んでいた。
「この戦争が無い時代か。」
「そうだよ。」
「私には…想像できないよ。」
「『私』はやめてくれよ。」
少佐は今の松村の言葉の意味が解らないという様に、キョトンとした。
「オレも敬語は止めたろ?斉藤も『私』は止めてくれ。」
「変かな?」
「変だよ。この時代はどうか知らないけど。」
「そうか。君の親友は…」
「一人称では『僕』。オレの事を『松ちゃん』って呼んでたよ。」
「……そうか。」
松村の心に、彼を失った悲しみがまた込み上げてきて…。
彼は斉藤について悲しげに語りだした。
「陰気なとこもあったけど、基本楽しげな奴だったよ。将来の夢は考古学者。恐竜と『オタク』好きだった…。」
「……。」
「父親へのトラウマを持ってて、臆病な奴だったけど、根は勇者だったんだよ。」
「どういう事だい?」
そうだ。
あれが三人の出会いだった。
そうだった。
三人がまだ幼稚園だった頃の事。
三人は同じ幼稚園だったが、言葉を交わすこともなければ顔を合わせることもなかった。クラス…というか、組も違った。
ある日、その幼稚園の親睦会か何かで、近所の浸水公園に遠足に行った。
そこで一人、単独行動をしていた松村が川の近くに寄った時、おふざけのつもりだったのか岡田に背中を押され、川に落ちてしまった。
ごく浅い川だったが、流れが速く、松村は溺れてしまった。
その時、下流で弁当を食べていた組から、流される松村を見て、斉藤が手を差し出した。
「あわてないで。このてをつかんで。」
今にして思えば、斉藤のあの幼い一言が、松村の命を救ったのだ。
その後、上流から追い掛けてきた岡田も合流して、松村は無事引き上げられたのだった。
すまなさそうにしていた岡田を、松村は激しく憎んだ。殺されかけたのだ。
『こんなやつ、しんじゃえばいいのに…』
その直後、岡田の足元の土が崩れ、彼は川に呑まれた。
足掻く岡田を松村は冷淡な目で見つめ、手を差し出そうともしなかった。
斉藤は違って、松村の時と同じ様に、慌てて岡田の手を掴んだ。
だがその時、斉藤の足元まで崩れ、二人は手を繋いだまま流されてしまった。
15mぐらい流された所でようやく松村が追いつき、斉藤の手を掴んだ。
斉藤も松村の手を掴み返した。そしてもう一つの手は、溺れかけた岡田の手をしっかりと握っていた。
「そんなやつのてなんかはなしちゃえ!」
松村は斉藤に向かって叫んだ。
「こいつはワルモノだぞ!こんなやつなんかおぼれちゃえばいいんだ…!」
その時、松村は斉藤の、鋭い視線を感じ取った。
…なんでそんな酷いことを言うんだ。それでも人間か。
自分が溺れた時の事を思い出せ。そんな酷いこと言えないぞ!
全ては、溺れかけた斉藤の目が語っていた。
睨みつけるようで、どこか悲しみを秘めた瞳。
松村は「ワルモノ」はホントは自分なんじゃないかと、途端にそう考えてしまった。
せめてこのままじゃ…だめだ!
松村は幼稚園児とは思えない怪力を発揮して、なんとか二人を岸に引き上げた。
斉藤は少し水を飲んだだけで無事だ。だが岡田は、……息をしていなかった。
斉藤はびしょ濡れで先生を呼びに行った。
松村は見張り役だったが、息をしていない人を前に、黙って見ていられなかった。
松村は映画やアニメの見様見真似で、人工呼吸を試みた。
今思い返すと、なんて無謀で危険な事をしたんだと肝が冷えるが、当時の松村は本当に必死だった。
「いきをしろ!」
彼の努力は奇跡的に報われた。
彼は胸をテンポよく押していたし、休息もあった。岡田の口も開いていて気道も確保されていた。
岡田は水を宙に噴き出して、激しく咳をした。
そして、それから深く深呼吸をした。
そして、ゆっくりと瞼を開け、目を動かして辺りを見回した。
その目に、心配そうに見つめる松村の姿が写った。
「よかったぁ。」
彼の目が元気に動くのを見て、松村はほっとため息をついて土に腰をおろした。
「ごめんね」
不意を突いた、岡田の言葉。
松村は、自分の胸が熱くなるのを感じていた。
こんな出来事が縁で、この三人の友情が固く結び付けられているのだ。
とはいえ、立場も趣味も全く違う二人。
時々見解の相違が生じる時もあるが、彼らは根本的に人間好きの集まりなので、三人の仲が大きく破綻することは無いのだ。
少佐はこの長い話を、漏らさず聞いて、感慨に耽っていた。
よく考えたら、当然のことかもしれない。
軍隊に長い間いて、この種の感情が生まれることはそう無いだろう。
多くの兵を率いる立場なら尚更だ。そういう感情はなるべく無い方がいい。
「500年前の人は何を食べてたんだい?」
不意に少佐が質問した。
「さあ…、カレーとかハンバーグかな。」
「それって、本物のか?さぞかし美味いだろうな。」
「美味いよ、最高さ。」
「他には…」
こうして少佐の質問攻めは、夜遅くまで続いた。
どこかの天才科学者曰く、「睡眠は無駄な時間」だ。
この時代を離れるまで、あと61時間。
目的地到着まで、あと205時間。
現代に帰るまで、あと277時間。
久々の更新です、遅れに遅れて本当に申し訳ありません!
こうして更新しなかったこの一ヶ月の間に、遂に念願の監督第一回映画作品を自校の文化祭に発表したり、次回作の予告編を作ったり、溜まりに溜まった勉強をやっつけたり…、単なる言い訳なのですが。
暇があってはちょこちょこ書くという感じでした。重ねて本当に申し訳ありません!
ところで最近Schoo○Daysにハマってます(笑)。