第2章 第5話 夕食
久々に投稿
第二章版の人物紹介です
「コイツ座席に座って落ちたまま、銃を撃ったり、目をつぶったり、敵を怒鳴り付けたりしてやがったんだ。どんだけ忙しいんだよ!」
pm07:00。軍艦「スプライト」の甲板で、「松村と岡田の健闘を祝う会」と称して、アルコールランプを囲んでパイロット達が食事中だった。勿論松村達も一緒だ。
食事はほとんどが「ミリヘルス」という名前の乾燥食で、パイロット達曰く「ほとんど偽物」だそうだ。
クッキーの様な袋の中に、これまたクッキーの様な食べ物が入っていて、名前ごとに色が違う。
「オムライス味」なら、外側は黄色で内側はオレンジ色となっているし、ステーキなら茶色に緑色の粉と赤いペーストをかけて食べる。味はそっくりだが食感が難点だ。
皆が食事しているアルミ製の簡易机の真ん中には数種類のソースがあり、「ミリヘルス」にかけると、また違う味が楽しめるそうだ。材料さえ気にしなければ…。
因みに「ミリヘルス」は10kgごとに箱詰めされていて、一箱100円、つまり軍が経費削減の為に開発した栄養フードという訳だ。
食事の話題は今日の戦闘と500年前の歴史講義、それに未来の話しだった。
しかしこの二人は、この旅の目的やタイムマシンに関する話題は意図的に避けていた。
理由はあの少佐だ。
まだ報告中らしく、食事には来ていないが。
彼がいい人だというのは分かった。
だが、やはりあの顔と名前はどうしても、二人のよく知っている「斉藤」に結び付けられてしまうのだ。
ここで、この時代の愉快な仲間の紹介をしておこう。
まず、兄弟のダマスとタイラー。
前回でも軽く紹介したこの二人は、日本人と外国人のハーフだ。
このハーフというのも非常に複雑だ。
まず母親はインド人と日本人の間に生まれたハーフで、父親に至ってはフランス人とアメリカ人の間に生まれた祖父がアフリカの民族と日本人との間に生まれた祖母との間に生まれた日本育ちだそうだ。
この兄弟はアメリカ生まれの日本育ちで、年齢差はわずか10ヶ月。
ちょっと想像しづらいが、兄貴のダマスの方は人工受精で弟分のタイラーの方は自然受精だそうだ。
運が悪いことに、タイラーは4月1日の00:30生まれ。
あと30分早く生まれていれば、ダマスと肩を並べて学校に入学できたのだそうだ。
どこまでが本当の話かは分からないが。
ノートパソコンを左手で抱え、タッチペンを持った右手を天に向けるヤサ男のミューレンは、自称「電子の女神」。
前科があり、軍隊に入ることで懲役刑を免れたという経歴の持ち主だ。
その前科というのはアメリカ国防総省の機密情報にハッキングしたとか、FBIのスパコンにウィルスを感染させたとか、CIAのファイヤーウォールの攻略方をインターネットで公布したとか。
質問した曜日によって、前科の内容が変わる。
コンピューターの腕はピカイチで、今日の敵機のCPUにウィルスを感染させたのもミューレンだが、日本語が苦手で片仮名が読めない。
今でいう「アキバ系」撮影係のホールはTVのサッカー中継を見るのが趣味。
サッカー中継で彼が注目するのは以下の二つ。
一つ、選手の顔と名前
二つ、サッカーを撮影するカメラマンの良し悪しだ。
名前はホールだが、それはイギリス人の父親からの名前で、母親は日本育ち。本人も20代までずっと日本にいたので、逆に英語が苦手だ。英語の中でも特にリーディングが苦手なのだ。
修理係の黒人、トム。あだ名は「機関車トム」、本名はトーマスだそうだから頷ける。
500年後にも「機関車トーマス」があるのは驚きだが。
ダマス&タイラー兄弟と仲が良いらしく、今日の戦闘の話もこの兄弟から聞いたそうだ。
右肩と背中にある弾痕は、幼いときに強盗から母親を護った時の記念だという。
この人達から、いつも少し席を離して食べているのは中尉のヒース。
少佐の同期で、彼の順調な出世を快く思っていない。そのため、少佐に何かある度に彼を追い落とそうとしているらしい。まるで嫌みな政治家だ。
しかしヒースは根本的なアホで、追い落とし作戦はいつも失敗していて、ミューレンはその記録を細かくファイリングしている。
だが、アホでも腹黒さは相当なものがある。
と言うのは、ヒースは以前、戦闘中に少佐を殺しかけたことがあるからだ。
上司は過失として処理したが、少佐を慕う仲間達の間では「少佐暗殺未遂説」が専らの噂だ。
通常は汚い食堂での食事だそうだが、今日は少佐経由で甲板での食事を特別に 許可してもらったという。
三日に一回は「特別」に許可してもらっているそうだが。
松村がこの食事でまず知りたいのは、ここがどういう未来かという事と、これはどういう戦争なのかということだ。
歴史好きの一面も持つホールが、英語の電子専門書を読みながら詳しく説明してくれた。
「えーっと、事の発端は2010年。中国が日本の領土である『センカツ諸島』を…」
「『尖閣』だ、ドアホ。」
タイラーがツッコむと同時にパイロット諸君と松村達の間にささやかな笑いが巻き起こった。
「中国名では『トゥリウオ』。トゥリウオ?サッカーか?」
「僕ら、ちょうどその辺の時代から来たんだけど、そんなに逼迫した状況には思えなかったけどなぁ。国交もすぐに正常化したし…。」
再びホールがぎこちなく画面を読みはじめた。
「その後にロシア…、君達の時代でいうソ連が…」
「2010年はもうソ連崩壊した後だろ。」
またしても笑いが起きた。
ホールの「歴史好き」というのもかなり怪しい。
しかし、現代の大人だって平城京と平安京の設立年を間違える。
「ロシアが北方領土問題で日本と更に対立を深め、中国と台湾を巻き込んで日本を牽制し…」
「中国と台湾が手を組んだ?まさか…?」
「事実だよ。」
聞き慣れたような、少し違う声。
「少佐殿の御帰還だ。」
少佐だった。
「その牽制に対して米国が敏感に反応、他の国々も次々に立場を決めて、世界が二つに分断されたってわけだ。隣いいか?」
少佐は返事が来る前に、松村の隣に座った。
「上のアホ面共が、またバカ言ってやがる。」
機嫌がいい時特有の愚痴だ。こういった人間的な感情は500年経った今でも全く変わってないようだった。
「お前達を尋問しろだってさ。理由不明。松村達をスパイだと思っていやがる。今時『スパイ大作戦』なんかやるアホ国はてめえらだけだってえの。」
「スパイだと思われてる?」
岡田が聞き返した。
「ああ。でも、どうやらそれはただの口実っぽいな。」
「というと?」
ダマスが聞くと、少佐は囁き声で返した。
「上の奴らが、なんかヒソヒソやってるんだよ。『T計画』に関する事っぽいがな。」
「『T計画』って?」
松村が質問した。少佐は両手をだらんと上げて
「さあな?この戦争の決着をつけるための計画らしいけど、そんなのは世界中に腐るほどある。」
「何ならオレが調べ入れましょうか?」
「知識欲の塊」ことミューレンだった。
「ああ、無茶はするなよ。この計画にはいろんな奴らの息がかかってるっぽいからな。」
「了解。ハックはしませんよ。」
「それと…」
少佐はホルスターから抜いて置いた拳銃にサイレンサ-を付けて、いきなり発砲した。
松村達の後ろで、何か機械が木っ端微塵に砕ける音と、誰かの叫び声が聞こえた。
「Oh,Fuck!」
砕けちったのは、ヒースが持っていたICレコーダーだった。
「今度から『スパイ大作戦』をする時はアイテムは隠せ、マヌケ。」
ヒースはミリヘルスとレコーダーの残骸を掴んで、黙って逃げ去っていった。
この時代を離れるまで、あと65時間。
目的地到着まで、あと209時間。
現代に帰るまで、あと281時間。
中間テストもようやく終わり、久々に更新できました!長らくお待たせいたしました。
ほとんど人物紹介の話です。
次回は戦争の詳しい背景の説明です。
待たせたうえに大した進展もなくすみません。
ではまたのお越しをお待ちしております