第2章 第3話 空中戦
「こちら832…、じゃなくて328…、なんでもいい!」
松村は慣れない未来の戦闘機に手こずっていた。
無線に手こずっていたと言うべきか。
「無線、当機から…、えっと…。」
「921だよ。」
トランシーバーからとぎれとぎれだが岡田の声が聞こえた。
「当機から当海域で哨戒中の921に繋げ。」
すると、画面に表示が出た。
「I am patrolling, and there is not 921.」
「僕がいつ『哨戒中』だって?」
トランシーバー越しに岡田のツッコミが来た。
「うるさいな!格好つけてみただけだよ!」
松村は人生初の実戦を前にテンションがハイになっていた。
できれば一生避けたい経験だが、松村ばかりは憧れていた。
松村がハイになるのも頷ける。
TV画面ではなく、本物の景色を空から眺めている(とは言っても真っ青な海だけなのだが)。
ゲームではなく、本当に自分の意思で空を飛んでいる。
未来のスーパーテクノロジーのおかげで、一々ボタンを押したり操縦桿を曲げたりしなくても、自由自在に空を舞うことができる。
だが、それは同時に『リセットボタン』が無いという事実も生み出していた。
「こちら斉藤少佐、こちら斉藤少佐。民主連合軍空軍隊第五小隊全機に告ぐ。」
奴だ。
ついさっき松村の制服に銃弾で切り傷を入れた、いけ好かない野郎。
ただし、二人はその名前を聞いて愕然とした。
顔が斉藤とそっくりだったのは前話で前述した通りだが、その上名前まで全く同じとは…。
とても偶然とは思えない。
「これより通信言語及びPIC指示言語を英語に統一する。日本語を喋った奴にはオレがもれなく弾丸をぶち込んでやる。以上だ。」
無線越しに無数の笑い声が聞こえてきた。おちゃらける様な笑い声達が。
「Roger, boss!」
無線から粋のいい返事が返ってきた。
松村は顔を真っ青にした。
彼は無線を切り、トランシーバーで岡田に連絡した。
「いつからこの国は英語が公用語になりやがったんだ!?畜生!」
だがトランシーバーから聞こえるのはノイズばかりだ。
「もしもし?返事しろよ!岡田…。ん!?」
見ると岡田の乗った機が松村の遥か上で空中曲芸を披露していた。
「直感操作」のこの機には、素人も玄人も関係ないようだ。
大事になってくるのは心のゆとりと柔軟な発想力だ。
あいにく今の松村はそのどちらも持ち合わせていなかった。
「英語事件」で松村の心の中は不安で埋め尽くされていたし、戦闘機の膨大な知識から従来型の戦闘にとらわれて、柔軟な発想はできなかった。
その点岡田は英語が堪能で無線を通じて早くもパイロット仲間を作っていたし、発想力に至っては発明家の彼の得意技だ。
どうやら「ビギナー向け講座」が必要だったのは松村の方だったらしい。
松村は岡田にコンプレックスを抱いてしまった。
そんな場合ではないのだが。
彼は無線を付け、周りの空を見回した。
サイレンでこんなに大勢飛び立ったのに、これだけ静かなのはおかしい。
「You listen.」
今度は英語で少佐の声が聞こえた。
「It is a commemorative battle today in "day of infamy". Even if the enemy does not keep it in mind either」
松村は無線を切り、岡田の機に向かって自機を近づけた。
トランシーバーの感度を全開にして。
「おい岡田!応答しろ!」
全く返事がない。
電波が届いてないのか、受信に気づいてないのか…。
「Do not approach my plane very much; is my brother!」
トランシーバーから岡田の大声が聞こえた。
異国語の。
「何言ってんだ、岡田!?」
松村は小さなトランシーバーに向かって怒鳴りつけた。
「Is it Matsumura whether it hears it and does not understand it?」
ようやく岡田から返事が来た。
異国語の。
「日本語で答えろ!日本語で!」
「It is not answered in Japanese, and it is pursued by a friend.」
岡田の元気な声がトランシーバー越しに響いた。
異国語の。
松村の精神は本当に不安と孤独感で一杯になってしまった。
「孤独」と言うより「孤立」と言った方が正確だろう。
まるで友達に、無人島に置き去りにされたような気分だった。
人が周りに大勢いる無人島。
近頃は珍しくもないことだ。
「何だよ?松ちゃん?」
トランシーバーから久々の日本語が聞こえた。岡田の声だ。
松村の心は、途端に安堵感で満たされた。
「あの好かない野郎はさっき英語で何を喋ってたんだ?」
「さっきって?」
「無線で何か言ってたじゃん!」
「ああ、あれね。[今日は『屈辱の日』記念の戦闘だ。敵はそんなのは気にも留めてないだろうが]ってところかな。さっき無線でパイロットに聞いたんだけど『屈辱の日』って…。」
「尖閣諸島事件で船長を釈放した日、だろ?」
「よく知ってるな。」
「敵が中国っていうので思い出したんだ。つい最近のあのニュースをな。」
「しかし妙じゃないか?あの事件はこの世界で言うと、もう500年以上昔の話だ。」
「あの事件が発端で起きた戦争が500年続いてる?まさか?」
二人が論じあっていると…。
小隊の編隊が彼らの機の遥か上で集結していた。
二人が慌てて無線を付けると、無線では丁度少佐の演説の真っ最中だった。
無論、フル英語の。
といっても演説は終わりかけていた様だが。
「You lose speed of the opportunity if caught up with an enemy plane without being upset and let an enemy plane overtake it. A technical group has already given a radar of guys hacking processing, but "the eyes" still live. If there are you before an enemy plane forever, is sniped; avoid it without being upset. When you can never succeed in escaping, make nose dive at altitude and lose my eyesight of our figure to guys if I do so it. You that guys do not have the heart shoot it down to one's heart's content. The mercy is unnecessary to you!」
「サー、イエッサー!」
大勢の歓声が無線越しに聞こえてきてたし、中には(岡田を含めて)拍手してる奴もいた。
相変わらず松村にはチンプンカンプンだが。
それから5分経過。
全員空を見上げて敵機に気を配っていた。
だが誰がいくら見つめても、戦闘機どころか雲一つ見当たらなかったが。
場には緊迫した空気が流れていた。使い古された表現だが。
さっきまでは歓声が聞こえてきていた無線からは一転、ノイズしか聞こえなくなっていた。
松村と岡田も例外ではなく、汗を垂らして空を見つめていた。
だが、あるのは沈黙ばかりだ。
勿論、無線ノイズやエンジン音は聞こえていただろうが、完全にこの二人の意識からは消えていた。
もはや自分達を守るのは、この薄いキャノピーと自分自身の操縦のみ。そう思うと、途端に恐怖の念が沸いてきた。
「It is a majority an enemy plane attack in the direction at 11clock!」
いきなりのアナウンスに、二人の心臓は危うく止まりそうになった。
戦争ゲームや映画を見慣れた松村には、この英語の意味がわかった。
まあ、例え分からなくても、左上に敵機の編隊がいるのを見ればだいたいわかっただろうが。
「It is a case in high alert development in all planes, an A character!」
少佐の叫び声だ。相変わらずの命令調だが。
全機、言われるがままにA字状に広がった。
素人二人を入れて、こんなにも簡単にできるのかと思う方もいるだろうが、この二人は自動改札の列に割り込む要領で軽くこなした。
信じられない速度で敵編隊がぐんぐん近づいてきた。
「Shoot it! Shoot it! Shoot it!」
この二人が操縦穴の中の引き金を引いたのは、その誰かの叫び声を聞くのとほぼ同時だった。
辺りはたちまち火と銃弾の嵐になった。
後はTVゲームと同じ要領…、いや、それより遥かに自由度も快感も高かった。
まるで自分の背中に羽が生え、天から自由自在に弓を射る様な感覚だ。
だが、そのすぐ真横では…。
名前は知らないが、ついさっきまで岡田が無線越しに喋っていたパイロットの機が炎に包まれて、青い海に吸い込まれていった。
松村はその中で、瞬く間に5機の敵機を墜とした。
「Fuck!」
無線では、岡田が大声で叫んでいた。
「This place 921 cannot shake off an enemy plane behind!」
松村には何のことやらさっぱりだった。
「何だって!?」
「尻に敵機がくっついて来てんだよ!畜生!」
二人は思わず無線で日本語を使ってしまった。勿論この無線は全パイロットが聞いただろうし、少佐の耳にも入っていただろう。だが今はそれどころじゃない。
「待ってろ!」
松村は機ごと宙返りし、岡田のいる下へと下りていった。
「コピー大国のクソマシーンめ!」
松村はその敵機に銃撃全開で突進し、見事敵機を粉々に粉砕してやった。
これで約6機目。少佐のノルマ達成まで後4機だ。
松村は戦闘の中で、どこが上か下かも分からないまま、とにかく撃ちまくっていた。
そして、一瞬だけ意識が飛んだ。
燃える空。一瞬だけ赤く染まった海。
その中で、滑稽に見えるほど雲一つ無い空。
それ彼の頭の中で、一つの絵画のようになっていた。
ガン!
松村の耳をつんざいた硬い音。彼は一瞬にして意識の世界から戦場に引き戻された。
彼が辺りを見回すと、右翼に二つの穴が空き、炎が勢いよく吹き出していた。
そのうち前の画面にも、「I was shot!」と表示された。
松村の機はそのままコントロールを失って、真っ逆さまに落ちていった。
丁度良いところで今回は終わりです。
ますます戦争勃発の謎が深まる第三次世界対戦ですが…。
やはり時事ニュースをネタにしたのは失敗だったと今後悔してます。
日中関係が正常化するにつれてどんどんこの物語に信憑性が無くなっていく…。
まあ日中関係の正常化は望ましい事態ですが。
別に中国批判とか、そういう気持ちで書いてるんじゃ無いですよ~!
この松村と岡田の間で繰り広げられる英語問題は書いてて楽しくなってきたのでもっと入れたいなと思うのですが、いかがでしょうか?
英文翻訳の方は大変ですが。
引き続き、間違っていたら報告よろしくお願いします。
ではまた次話でお会いしましょう。